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第32話 開戦前夜(2)

 交替しながら仮眠をとり、夜が深くなるのを待つ。


 未明近くなり、動きがあった。


「ナオヤ、あれそうか?」

「そうだ。アリッサたちの反応がある」


 王国軍本隊が帝都外縁に到達した。

 濃霧に覆われていて肉眼でははっきりとは分からないけど、王国の作戦部隊であることは間違いない。

 連接リンクスキルが味方陣営であることを示していた。


「この霧、デラが作ったのかな? 考えたな」

「おそらくそうだな。お前に異世界の知識をいろいろ聞いていたからな。新たな使い方を編み出したんだろう」


 遮蔽物のない草原だけど、部隊は霧に覆われている。これなら、帝城の物見櫓ものみやぐらから見えないはずだ。

 帝城に特段の動きはないし、まだこちらの接近に気付いていないとみるのが相当。


 そこへ、潜入していた偵察隊からの連絡が入る。


<大将、例のよろずやのドワーフに接触したぜ>

<それで、どうだった?>

<説得に成功した。亜人住民の避難は始まっている。北側に向かわせた>


 偵察隊には、樹海王国の三日月屋本店の店主からの手紙を託していた。

 帝国の職人街に住む彼の兄弟であるドワーフに宛てたものだ。

 内容は、帝都でドンパチが始まるから逃げろ、というもの。


 ドワーフおやじは、深夜に訪ねてきた帝国兵士の姿をした偵察隊のことをはじめはいぶかったそうだ。けど、実兄の手紙を見せたら信用してもらえたらしい。


 いま、ドワーフおやじが旗ふり役となって亜人住民の避難を進めている。


<よかった。ありがとう。そのまま情報収集を続けてほしい>


 俺はそう伝えたのだけど、偵察隊のフレッドは何か言いたげな雰囲気だ。


<な、なあ、大将。帝国の一般市民もできるだけ戦闘区域から遠ざけたいんだが……だめか?>


 少し迷ったけど、フレッドたちの気持ちも分かる。

 友人、知人が戦火に巻き込まれるのは誰だって嫌に決まっているのだ。


<分かった。誘導は任せる。まだ、攻撃は少し先だから、敵に悟られないように静かに行動すること!>

<すまねえ、大将。恩に着る>


★*★*★*★*★


 本隊の厳重な警護のなかから、アリッサが姿を現した。

 緊張気味なのか、少し表情がこわばっている。


「アリッサ、見積もりが外れたよ。敵が思ったより多い」

「ええ、わたしも確認できました」


 当初、夜明けを待って攻撃を開始。

 内郭から飛び出してくる敵兵を漸減的に削っていく予定だった。


 けど、夕方の偵察で外郭地区にも多数の敵兵がいることが分かった。

 どうしてもこれを先に叩いておきたい。


「アリッサ、作戦を変更したい。奇襲をかけよう」

「ナオヤさん、あなたに任せます。射撃部隊を編成してください」

「はい」


 作戦部隊のうち、射撃要員が俺の指揮下に集まった。

 弓使いを主体とする弓射隊と遠距離魔法攻撃を主体とする魔法攻撃隊を構成した。

 それとは別にいくつかの特命班を設ける。


「弓射隊はジーン、魔法攻撃隊はデラが指揮を執れ」

「はい!」


 二人の隊長の声が重なる。

 射撃部隊の全体指揮はこの俺、サイカ・ナオヤ。

 シャンテルが補佐についてくれた。


 そして、少し遅れていたブリアナが到着。


「ナオヤさん、遅くなりました。氷雪魔法使いが総出で作り出したものです。樹海の人喰い沼から運んできました。使ってください」

「すみません、ありがとうございます」


 ずらりと並んだ何台もの輜重車しちょうしゃには、我が軍の秘密兵器、液化天然ガスの氷弾がぎっしりと詰め込まれていた。ブリアナたち氷雪魔法使いはこの作業にかかりっきりだった。冷却しながら運搬するのも大変だっただろう。


 このあと魔法攻撃にも加わってもらう予定なので申し訳ない。

 俺は、一発も無駄にしないようにと心に誓った。


 暗闇の中、王国軍が帝都に入る。

 夜明けはまだだいぶ先だけど、ここで戦端を切る。


 ここまで、おとなしくしてきたけど、もう飽き飽き。

 派手な花火をあげてやる! 

 だし惜しみはなしだ。


「魔法攻撃隊、配置につけ」

「ナオヤ殿、いつでもいいぞ」


 隊長のデラからすぐさま報告があがった。


「目標、前方四百メートルの帝国軍宿営地! 魔法攻撃隊隊、液化ガス弾、投射用意」

「用意よし」

「……射て!」


 魔法使いたちが液化ガスの質量弾を飛ばす。圧縮空気の弾けた圧力で百を超える弾がヒュルヒュルと綺麗な放物線を描いて目標に向かっていった。


「光電攻撃班、重荷電粒子線、射出用意!」

「用意よしです!」


 光魔法、雷魔法の使い手である狐狸獣人の少年少女が元気よく応えた。


「まもなく……いまだ、射て!」


 落下する氷弾群の一つに荷電粒子の束が照射される。

 その束は、氷弾を追従し続け、弾体後部に小孔を穿うがった。


 小孔から蒼い炎の尾がのびるのが見える。

 そして、尾を引いた氷弾が地表に激突する瞬間、大爆発を起す。

 その熱と衝撃が別の氷弾に伝わると、連鎖的に誘爆が生じた。

 この間、わずか数秒。


「ドン、ドン、ドーン!」


 寝静まった帝都に凶悪な炸裂音が響き渡り、閃光が走る。

 衝撃波と熱風が付近のありとあらゆるものを吹き飛ばした。


「ひいっ!」

「あっ、わっ、わっ!」


 百以上の氷弾の炸裂に味方までもが恐怖に引きつる。

 想像以上の破壊力に俺自身も唖然としてしまった。


「ナオヤ! 手を休めるな。次の攻撃だ!」

「ああ、分かってるよ、シャンテル」


 静寂の帝都が一瞬にして戦場へと変わった。


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