第30話 閑話 クロのご主人
クロ視点の閑話です。
オレは魔鳥。
この世界で最速の種族。
いや、同族にも、オレを追い越せるものはいなかった。
だから、オレはこの世界最速の漢。そんな自負が自分にはある。
あるとき、オレは故郷を飛び出した。
広い世界を見たかったのだ。
が――
ちょっ、やっべぇぇー、下手こいたー!
卵盗んだのがバレちまったぜ。
猛禽のつがいが激しい憎悪を撒き散らしながらオレを追い回す。
なんだよ、見たことないやつらだな……
この樹海に棲む固有種らしい猛禽が滾る。
やたらと速いし、機動性がはんぱない。
ブチッ!
ぎゃあぁ……変な音したぁ
めちゃいてえぇぇ……
脇腹、抉られてるぅ……
まずい、まずい、まずい!
急降下すればオレの方が優速かもしれない。
たぶんそうだ。
逃げ切るにはそれしかない……。
でも、二羽の巧みな連携で頭を押さえられてしまい、上に昇れない。
ちくしょー! うまいもん食いすぎたかー。
この辺り、食べ物が豊富で、最近ちょっとデブり気味だった。
高度がぜんぜん稼げない。
それどころか、だんだん、下がり始める。
痛みで翼を動かすのもキツくなってきた……。
やべえぇ……
オ、オレ、もうダメかも……
もっと世界を見たかったぜ……
ごめんよ、故郷のかあちゃん。
そう思ったとき、一人の人間と目が合った。
濡れ羽色の髪をした人間の男。この世界では珍しい。
なぜか分からないけど、味方になってくれるかもしれないと直感した。
だから、助けてくれと必死に願った。
そしたら――
突然、高速の石の弾がかすめたのだ。
猛禽類があわてて逃げ去る。
た、たすかった……
だけど、もうダメ、限界……お、おちる……
★
目が覚めたとき、俺は人間の男の腕の中。
けど、そんな状況はどうでも良かった。
そう思えるほど、それはオレの興味を刺激した。
オレの視線は一点に釘付けだ。
なにそれー!
超かっこええー
男の左腕には、キラキラ光っているものが巻かれていた。
ちっさい針みたいのが動いてる。
すげー!
いいな、いいな……ほしいなー。オレにくれないかなぁ!?
決めた。オレはこの人間の子分になる。
いっぱい役に立って、このキラキラしたものをご褒美にもらうのだ。
こうして、クロという名前を授かったオレは、ご主人様と行動をともにすることになった……。
だけど――あれれ?
ご主人様って、ひょっとして鳥使いが荒くね?
いつも、いつも、あちこち飛び回っている気がする。
運送屋さんも兼務しているし……
もしかしてオレってがんばりすぎ?
ちょっとスリムになったからいいけどさ……
この職場、ブラックじゃないよね?
し、信じてますよ、ご主人様!
★
黒曜鳥のクロ、世界最速を自負する漢は、いつかご褒美をもらえると夢見ている。
でも、主人のナオヤはそんなこと少しも知らない……。




