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スキル『射撃管制』で異世界無双~ハズレの役立たずと追い出されたので隣の小国に寝返ります~  作者: スギタジュン
第三章 樹海の王国

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第25話 狼の香辛料

 第二王女の簡単な挨拶が終わると、宴が始まった。

 といっても、立食形式のちょっとした食事会だ。

 でもこの方が気楽でいい。


 ここ一週間あまり、俺は山河で採れた物しか食べていない。

 野趣あふれる自然の恵みもそれなりに美味しかったけど、やはりひと手間が加えられた料理が恋しかった。


 さあ、食べるぞーと、はりきったのだけど……

 あれっ? なんだか、ぜんぜん活気がない。

 まるで、通夜。


「あ、あの、アリッサ。みんなどうしたの?」

「す、すみません。いろいろな情報がもたらされたのでみな先行きに不安を感じているのです」

「そ、そう……」


 無理もないか……開戦まで二十日弱。

 敵陣営には異世界の破壊者が二人も。


「ナオヤさん、すみません。少し父上の容態をみてきます。ごゆっくり」


 そう言ってアリッサたち王女姉妹は席を外した。国王陛下の様子が心配らしい。

 こんなときに宴を開いてもらってなんだかいたたまれない思いがした。


 シャンテルに聞いたのだけど、樹海王国の騎士団はおよそ二百名の人員を抱えている。

 これが実質的に常備軍に当たるそうだ。

 それに、予備役千八百名が戦時編成の際に王国軍に加わるらしい。

 王国の人口が約二万人といっていたから、戦闘員としての適性を持つ者をこれ以上かき集めるのはたぶん無理だろう。


 思ったより少ない……


「シャンテル、王国軍が二千名程度だとして、そのうち、弓射や魔法攻撃で遠距離攻撃が可能な戦闘員はどれくらい?」

「せいぜい五百だな」

「じゃあ、アリッサ姫の侍女たちのような遠距離攻撃を間接的に補助できる非戦闘員の魔法使いはどのくらいいる?」

「正確なところは募集をかけて一定以上の魔力を持つものを選抜してみないことには分からない。が、魔法使いはそもそも数が少ない。これも五百といったところだろう」


 捕虜たちの話では、帝都の軍勢がざっと三万。

 周辺国に駐屯させていた派遣軍を呼び戻しているそうだから、一万くらい増えて、最終的には敵軍は四万か……


「あちらとこちらの戦力比は、二十倍に近い……か」


 絶望的な差だ。

 通夜みたいになるのも仕方ないか……。


 でも、人は生きていればお腹が減る。

 俺は見知った顔の侍女さんたちに勧められるまま、樹海の森の恵みをほおばった。


 何の肉かは分からないけど美味しい。

 キノコと魚の香草焼きも美味しい。

 木の実を練り込んで焼いたパイみたいなのも美味しかった。


「うん、どれも美味しい。クロにも分けてあげようかな……」

「だんな様はいつもクロ様と一緒ですね」

「まあ、一心同体みたいなものだからね」

「ふふ、そうでしたね」


 新しい料理が運ばれてきた。

 ずいぶんと香辛料が使われているみたいだけど……


「あの、これは? ずいぶん辛そうな色をしているけど……」

「カリィというスープ料理です」


 タコスの生地みたいなのが添えられていたので、浸して食べてみる。


「ぐふぉっ」

「だいじょうぶですか、だんな様?」

「う、うん。ずいぶんと刺激的だね」

「この森ではいろいろな香辛料が収穫できるので、こういう料理も人気なのですよ」

「そう、この料理は特に狼獣人に人気で、姫様たちも好んで召し上がっています」


 そうなんだ。この森で香辛料が採れるなんて少し意外だ。

 この料理、そのまんまカレーだ。


「これ、辛さに慣れればとても美味しいね。俺も気に入ったよ」

 

 この赤いのなんて、トウガラシにそっくり。

 アリッサも好きらしいから、暇ができたら探しにいってみよう。


「それにしてもだんな様、いつも平然としてますね」

「そうです、あまり慌てたところをみたことがありません」

「だんな様は不敵です!」

「どちらかというと無神経で鈍いです!!」


 最後のはただの悪口では?

 侍女さんたちに能天気な人みたいに言われた。


 まあ、俺自身、これまであまり恵まれた環境になかったけど、不思議となんとかなってきた。

 だから――


「あまり、思い詰めてもしょうがないよ。今度もどうにかなるって思ってる」


 かつては戦力外だった魔法使い四人が笑顔になった。


「でも、まあ、ほんとにどうにもならなくなったら、人喰い沼に火を放って大爆発! みんなでドカーンと自爆しよう! アハハ……」


 あ、あれ?……周りがしんと静まり返ってしてまった。

 侍女四人組も引きつっている。


「あ、あの……だだの冗談だから……」


 重たい空気をなんとかしようとしていたら、ちょうど空気を読まない脳筋二人組がやってきた。シャンテルとデラだ。


「ナオヤ、なんだ、お前食べてばかりじゃないか。この酒はいいぞ! 飲んでみろ」

「ナオヤ殿、これは我が国の醸造マイスタの逸品、森苺もりいちごの果実酒。さあ、一杯どうぞ!」


 あまり無下に断るのも悪いので、一杯いただいた。

 よく冷えた甘いお酒。香りもいい。


「う、うん、うまい!」

「そうだろ? もう一杯いっとけ」


 エルフの二人組はもう相当飲んだのか、足元がフラフラしている。

 一通り騒いだあとは、またどこかへ行ってしまった。


 こうして、最初こそ、静かだったけど、お酒が進むにつれてだんだんと会場はにぎやかになっていった。

 そんななか、一角が喧騒けんそうに包まれる。

 何が起きているのか近づいて確かめた。


「何をたわけたことを! 帝都に攻め入るだと!? バカも休み休み言え」


 初老の屈強な騎士が声を荒らげる。騎士団の団長らしい。


「帝国はこちらを寡兵かへいとあなどっています。敵兵が遠征に備えてかたまっているところを一気に叩く。勝つにはそれしかありません」


 そう強く主張しているのはさきほどまで一緒に飲んでいたデラだ。

 聞けば、彼女、騎士団の中でも要職についているようで、けっこう発言力があるらしい。


「バカな。城攻めなら敵の十倍の兵力が必要だぞ。そんな火力がどこにある?」


 騎士団長の副官らしき人物も団長の意見に同調した。


「それに部隊をごっそり遠征させたら、この王都の守りはどうなる? 姫様たちが危険に晒されるではないか?」

「いいえ、姫様たちにも前線に加わってもらいます。敵に勝つには姫様たちのスキルの力も必要なのです。ナオヤ殿ならきっと姫様たちを守りながら攻撃できます」


 しかし、デラの言葉はただの戯言と受け取られた。

 騎士団長が気色けしきばむ。


「ふん、バカな。話にならない。その若造に何ができる。厄介払いされただけの異世界人だろ」

「団長、いまの言葉、取り消されたい! 彼は立派な戦士だ」

「そうですよ、ナオヤ殿の攻めは見事なもの!」


 シャンテルとデラが俺のことを擁護してくれるのは嬉しいけど、なんだか雲行きがあやしい。団長がギロリと俺を睨む。


「そこの若造、ナオヤとか言ったな。お前はどう考えている? 城攻めができるとでも思っているのか」


 帝都はいわゆる城塞都市。

 外郭は広く比較的低いし、防備も手薄のようだった。突破はそれほど難しくないと思う。

 けど、城を抱える内郭は強固で守りが固い。

 これを突破して皇帝を討ち取るのは至難の業だ。


 かといって、樹海の王都で敵軍を向かえ討つのはリスクが大きすぎる。

 ここは天然の要塞と化していて容易に落とされることはないだろう。

 けれど、敵には百名以上の火魔法使いと織田真莉菜おだまりながいる。

 森林火災だけは避けたい。同じ理由で、森林地帯で待ち伏せするのもだめだ。


 あとは、草原で真っ向勝負だけど……。

 数の少ないこちらは、まちがいなく押し負ける。

 それにアリッサ姫がいくら優秀でも数万単位の移動目標を捕捉できるかはなんとも言えなかった。


 やはり、俺のスキルの特性上、相手は止まっていて、ある程度かたまってくれている方がありがたい。

 だから、帝都の城へ乗り込むのがいいと思う。

 そう結論付けた俺は、その理由をかいつまんで周りに説明した。


 しかし……


「全部、絵空事ではないか? どうして都合よく敵を倒せる前提でいるのだ?」


 騎士団長は納得しない。すかさず、シャンテルが反論する。


「団長殿はナオヤの特殊スキルの力を直接見ていないから無理もない。ナオヤに導いてもらえば、技量の低い射手でも戦力化できる。帝都の城攻めは十分可能だ!」

「そこまでいうなら根拠を示せ」

「いいでしょう。やってみせましょう。デラ! それから……そこのお前、たしかジーンといったか。お前たち二人は標的まとになれ!」


 一瞬、間が空いた。


「えぇー」「そんな……」


 シャンテルに無茶ぶりされたダークエルフのデラとジーンは当然、嫌がる。

 ジーンというのは、最初に俺を大広間に案内してくれた騎士だ。


「よし、これをこうして、頭に乗せてっと」


 シャンテルは、そんなことはおかまいなしに、リンゴのような赤い果実を二人の頭の上に乗せた。怪訝そうな顔の団長。


「シャンテルよ、その果実を弓で射るつもりか?」

「はい、そのとおりです」

「して、だれが射手を務めるのだ?」

「もちろん、このシャンテル・カリオンです。当てれば、私たちの勝ち。私たちの主張が正しいということです」


 周囲からどよめきがあがった。

 シャンテルの腕はまったく信じられていないようだ。

 このたびの護衛隊の奮戦は騎士団にも伝えらえているはずなのだが……シャンテルの速射の実績は正確には理解されていない。


 デラでさえ怯えている。ジーンはさらに酷い様子だ。


「隊長、ちょっと、大丈夫ですか? 足元がおぼつかないようですけど……」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、私はやれる!」

「あ、あのシャンテル殿? あまり軽く考えてほしくないのですが……」

「いける、いける、私はすごい!」


 デラはまだしも、ジーンの方はシャンテルの正確な速射を見たことがない。

 おそろしいほど下手くそなシャンテルの弓射術しか知らないのだ。

 もう顔面蒼白。


 見かねた団長が安全のためということで二人に鎧を着させた。


 シャンテルが何か思いついたように手を打った。


「ナオヤ、これはいい余興だ。お前の相方の黒曜鳥にも参加してもらおう」

「ああ、そういうことなら……」


 と、俺はクロを呼び出した。

 いつものように矢を受け取ったクロはさっと上空に舞い上がった。


 壁際に立つ二人の頭の上と手の平にリンゴが置かれる。ついでに二人ともリンゴが差された棒の先を咥えさせられた。


「ナオヤ、準備はいいぞ、始めてくれ」

「了解。<クロ、降下開始!>」


 演出とばかりに、俺はスキル固有の魔法陣を派手に顕現させ、シャンテルの魔法陣も呼び出した。草の絨毯が淡く輝く。


 そして――

 シャンテルの手から離れた矢が幾筋もの条となって頭と手の上の標的リンゴを射抜く。

 さらに――

 クロが勢いをつけて滑空し、壁の格子をすり抜けて高速で広間に侵入する。

 真横から放たれた矢が二つのリンゴを串刺しにした。


「おおう」


 周囲からこんどは感嘆のどよめきがあがった。


 シャンテルは得意満面。

 騎士団の面々も満足気な顔だ。

 明日、また改めていくつかの射撃の実演を披露しようと思う。

 そうすれば、みんな納得するだろう。


 あちこちから笑い声があがった。

 気のせいかもしれないけど、周りのみんなの顔が少しだけ明るくなったみたいだ。


 明日からは開戦の準備で慌ただしい。もうこんな余裕はない。

 つかのまの享楽。

 戦争前の宴は夜更けまで続いた。


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