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第18話 追撃(2)

 やっと思いで魔獣の襲撃を退けたと思ったら、今度は帝国側の追手がかかった。

 ついてない。この和平使節団の存在は敵にとってよほど都合が悪いらしい。


 帝国の追撃隊が曲がりくねった森の街道を東進する。


 単騎で出撃したシャンテルは、どうやら敵に見つかることなく、うまく射程圏内に潜り込めたようだ。


<ナオヤ! 森の中に斥候役一人を捉えた。先に奴を始末する>


 シャンテルの視界を借りると、人影があたりを注意しながら進んでいるのが分かった。

 深い森は木々が重なり合っていて射線を確保するのが難しい。

 それでも、シャンテルが放った矢はわずかな間隙をぬって、木立をすり抜ける。

 そして、百メートル以上先の斥候を射抜いた。

 力を失った体が静かに地面に落ちる。


<ナオヤ、ちょっと困った。残りの斥候は三人だ。だいたいの位置は把握できているが、木が邪魔で見通せない>


 たしかに、上空のクロが俯瞰した視界では、追撃隊本体から少し離れた位置に斥候の反応が三つあった。

 でも、シャンテルの位置からはそれらを見通せない。

 闇雲に動いても好適な射撃位置を確保できるか分からない。

 敵も移動しているのだ。


 隣で並進するアリッサがこちらに顔を向けた。


「ナオヤさん、クロさんとシャンテルの視界を全部わたしにください」

「でも……」


 俺自身、クロの視覚情報を制限しないでフルで受け入れたことはない。

 膨大な情報量になるはずだ。


「大丈夫です。まだ余裕がありますし、だんだんコツもわかってきました。もしあふれるようならこちらでも制限できます」

「そ、そう。それなら、任せるよ……」

「はい!」


 アリッサはなんなくすべての情報を受け入れた。

 そして、受け取った情報をこねくり回して何かしている。


「ナオヤさん! これでどうですか?」


 脳裏に映し出されたのは新たな戦術状況図。

 アリッサが工夫して描き直したものだ。

 驚いた。彼女は、いつのまにかスキルを使いこなしている。


「すごいよ、アリッサ。さっきよりずいぶん分かりやすい」


 標的である斥候の的針、的速と未来位置が示された。

 地形情報も合わせれば、ちょうどよい射撃位置が計算できる。


<シャンテル、左斜めに十歩ほど進んで下さい>


 アリッサの指示を受けてシャンテルが移動する。


<姫様、この辺りでいいですか?>

<もう少し、半歩前……そう、その位置で待機。しばらくすると斥候の一人が射線上に現れます。ナオヤさんが指示するタイミングで射ってください>

<分かりました>


 シャンテルが斥候の未来位置に向けて弓を構える。

 ここからは俺の射撃管制の出番。絶対にミスできない。

 俺は気を落ち着けて慎重にタイミングを計った。


<シャンテル、まもなくだ。いいか……三、二、一、射てッ!>


 強く押し出された矢が木立のすきまをぬうように長い距離を疾駆する。

 何もない空間を突き抜けるかと思われた矢。

 が、その空間にちょうど斥候の頭が現れた。

 急所を射ち抜かれた斥候はだらりと倒れ込む。


 こうして、斥候役は一人、また一人と自分に何が起こったのかも分からないまま、地面に崩れ落ちた。すべての斥候を排除するのに成功だ。


 シャンテルがそっとつぶやく。


<裏切り者の末路など、憐れなものだな>


 幸運なことに、帝国の追撃隊はまだ斥候が討たれたことに気づいていない。

 シャンテルが街道沿いで待ち伏せる。

 奇襲をかけるつもりだ。


 追撃隊が曲がり角を越えたところ、シャンテルが飛び出した。

 そして間髪いれずに猛烈な速射を浴びせる。

 前衛には目もくれない。

 ただひたすら、隊列のなかほどに控えた火魔法使いだけを狙い撃つ。

 おそろしいほど正確な弓射。


 動脈を断たれた火魔法使いが血しぶきをあげながらバタバタと倒れた。

 敵の主力である火魔法使いの半数があっという間に再起不能となった。


 が、追撃隊も黙っていない。

 弓兵が前に躍り出た。

 それの放つ幾筋もの矢がシャンテルを襲う。


 シャンテルは動じない。腰に吊った愛用の剣を抜く。

 俺のスキルの効果を使って向かってくる矢の軌道を正確に読んでいる。

 そして、衝突寸前でそれらを剣で叩き落とした。


 剣を離して再び弓を構えると、こんどは得意の速射。

 放たれた矢は、弓兵から射ち出されたばかりの矢を次々に叩き落す。

 それと同時に、敵の矢との衝突で軌道を変え、そばにいた弓兵を射ち抜いた。


 俺のスキルで補正しているとはいえ、シャンテルの弓射はもはや神業だ。

 ただ、シャンテルは単騎。ここまで優勢だったのはあくまでも不意を突けたからだ。


<シャンテル、もういい。早く逃げろ!>


 手の届かない場所で行われている戦闘にやきもきする俺は彼女に退却を促した。


<まだだ。もう少し。残りの魔法使いを倒す。こいつらを姫様に近づけるわけにはいかないんだ!>


 シャンテルはそういいながら、なおも後退しながら攻撃を続けた。

 弓兵の応射が弱くなったところを見計らい、火魔法使いを集中的に狙う。

 が、魔法使いをさらに一人倒したところで、敵が混乱から立ち直った。


 盾を構えた前衛が火魔法使いを包囲する。

 シャンテルの速射が敵の厚い防御に阻まれてしまった。


 やっぱり、敵は只人ヒューマン。魔獣相手とは訳が違うか……。


<シャンテル、もう十分です。無茶しないで! 戻ってください!>

<そうだ! 早く戻れ!>

<わ、わかった>


 シャンテルの馬が反転し、駆け出す。

 しかし、敵の隊列のなかで熱エネルギーを示す反応が膨れ上がった。


<まずい、火炎の攻撃だ!>

<シャンテル、急いで離れて!!>


 火魔法使いの手から放たれた凶悪な火炎が一直線に伸びる。

 まるで火炎放射器だ。えげつない。

 すべてを焼き尽くす業火がシャンテルに迫る。


<やられてたまるか!>


 と全速で離脱するシャンテル。


 あたりにアリッサの悲鳴が響いた。

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