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第14話 和平使節団(4)

 アリッサのスキルは、射手からみた目標ターゲットの運動経路を決定し、未来位置を予測するもの。

 アリッサの協力があれば、演算負荷に悩まされることはない。命中精度だって限りなく上げることができる。

 求めていたものを見つけたという嬉しさで俺の胸は一杯となった。


 その一方で、アリッサ姫はなんだか浮かない顔。


「ナオヤさん、やっぱり私は……私のスキルは役に立たないのですね」

「そんなこと絶対にない。未来予測は複雑な計算が必要な高度なスキルだ。俺には分かる」

「で、でも、ナオヤさんと連接しているというのに、とくに変わったところがありません。なにも感じません……」

「それは情報が一気に行き来しないように俺の方で経路パスを絞っているから……」

「でしたら、その経路パスとやらを開いてください!」

「ちょ、ちょっと、待って」


 いまは交戦中。

 目の前の敵に対処しなくてはいけない。

 経路パスの開放は慎重に。万が一にも失敗できない。


 まずは射手との連携拡張だ。

 クロやアリッサとの経験から、連接リンク確立の方法はなんとなく分かった。

 たぶん、アクセス許可を相互に承認すればよいのだ。要は、お互いに信頼し合うこと。


「シャンテル、デラ、みんな、協力してほしい」


 射手たちが一斉にうなずく。

 こちらの意図はすぐに理解してもらえた。

 互いにスキル利用を承認し合うと、俺の周りにいくつもの魔法陣が浮かび上がった。


「わっ」「ああ」「ひゃっ!」


 みんなから驚きの声が上がる。

 連接が確立した証拠だ。

 これで、以後、俺は射手のみんなに遠隔制御を提供できる。


 それに狭苦しく固まっている必要がなくなった。

 両手が空いたので、俺も攻撃に参加できる。

 俺も含めた四つの攻撃主体ターミナルが間隔を開き、敵を前にして逆扇型に展開した。

 これで標的に対して十字射撃が可能だ。敵への打撃もより効果的になるだろう。

 クロには敵動態の観測に専念してもらう。


「アリッサ、クロが捉えた視覚情報を少しずつ送るから、びっくりしないで!」

「は、はい――わっ、わっ、いろいろ見えます! でも、目で見ているわけではないのですね。わたし、目が悪いのに、魔獣の動きがこんなにはっきり……不思議な感覚です」


 アリッサは近視で、これまで、ごく近い少数の目標しか捕捉できなかったらしい。

 でも、クロの視界を通じて、周囲の様子と全目標の動きをはっきりと捉えているみたいだ。

 初めてコンタクトレンズを入れた人みたいに、はしゃいでいる。

 このお姫様、最初はちょっとすました印象もあったけど、案外、表情が豊かだ。


「ナオヤさん、まだ大丈夫です。もっと送ってください」

「い、いいの? 大丈夫かな? じゃあ、もう少しだけ渡すよ」

「まだまだ、大丈夫です。もっといけそうです」

「ほ、ほんとに? 俺はもう限界が近いんだけど……」


 驚いた。アリッサの情報処理能力は桁違いに大きい。

 俺の方はもう限界だ。

 これ以上クロからの情報を受け入れたらダウンしてしまう。


 信号の流路を直接、アリッサの方へ繋いだ。


「ナオヤさん、問題ありません。クロさんの見てるもの、すごいです。もう少し、あと少し入れてください」


 まじか? アリッサの頭脳、すごすぎる。

 結局、アリッサは、クロの視界も、俺の視覚情報も、それからシャンテルたちの視覚情報も、全部まとめて受け入れてしまった。

 まだ、余裕があるみたいだ。


「あはは、すごいね。俺だったらとっくに頭が爆発しているよ」


 王女殿下の器の大きさに恐れおののき、思わず崇めてしまいそうになる自分がいた。

 そばでやり取りを見ていたシャンテルがニヤッと笑いながら言う。


「ナオヤ、そんなに卑屈になるな。姫様は特別だ。王国始まって以来の才媛、明晰な頭脳の持ち主だ。比べて落ち込んでも意味なんてないぞ」


 シャンテルのいうことはもっともだ。

 人と比べても仕方ない。いまは俺にできることを精一杯やるだけ。


「ナオヤさん、全目標、捕捉できました。運動経路と未来位置をそちらに送ります!」


 アリッサは、うれしそうに報告した。


「うん、お願い」


 情報の洪水が流れてくることを覚悟したけれど、アリッサから受け取ったのは、シンプルに加工された軽い情報だった。苦もなく受け入れることができた。


 アリッサは、この短い時間で、双方のスキルの特性を理解し、俺の負担とならないように工夫してくれたらしい。なんとも頼もしいパートナーだ。


 これで――


「すべての情報が揃った!」


 脳内に浮かぶそれは、いわば、リアルタイムかつ高精細の戦術状況図だ。


「へぇー、こんな風になるんですか……。私たちのスキルって面白いですね。ねえ、ナオヤさん」


 この戦況図、アリッサとも共有できているらしい。

 彼女は、この世界ではありえないほどの未来的なギミックにしきりに感心している。


 それにしても不思議だ。

 あれほど恐ろしかった魔獣たちがいまは言葉通り、単なる標的まとにしか見えない。


「シャンテル、頼む! 氷弾攻撃に合わせて弓射攻撃を実施。矢玉の残りは気にしなくていい。出し惜しみするな。射ち尽くせ!」

「ああ、了解だ、任せろ」


 陣形の中央に位置するダークエルフにも指示する。


「デラ、一気に攻勢をかける! 水球を作って、氷弾攻撃の両組に放り渡せ。あと二十発もあれば十分だ。これまでより大きめに作るんだ」

「承知した。やってみる」


 デラによって生み出された水球は、俺のコントロールの下、侍女たちが構成する風魔法で形成された砲身に吸い込まれた。それが砲弾型に固められた氷の弾となり、発射のタイミングを待つ。


「だんなさま! 三連装、用意よしです」

「侍女さんたち、よく頑張りました。あと少しです。思い切り、前に射ち出すことだけ考えて下さい。もう決して外しません。必ず魔獣を真っすぐ射抜きます」

「はい!」


 風の渦で作られた砲を標的に指向。

 魔獣たちが必死に射線から逃げようとするが、どんなに揺さぶられようと、砲はなんなく標的に追随した。これまでとは違い、コンマ一秒以下で補正が可能だ。


 アリッサに視線を送る。

 彼女は微笑んで軽く頷いた。


「魔獣ども、好き勝手やってくれたな。これで最後だ」


 軽く息を吐く。そして最後の号令。


「射ち方よーい……射てッ!」

「ドン」「ドン」「ドン」


 あらかじめ用意されていた圧縮空気が連続で爆ぜる。

 三連装の砲身二組から合計三回の斉射。全部で十八発の氷弾が放たれた。


 シャンテルの弓射も十字射撃となって魔獣に追い打ちをかける。

 もちろん、俺が各個に標的の割り当てをしているので、獲物はかぶらない。


 氷の砲弾と鋭い矢がダイアウルフの急所に次々と吸い込まれる。

 魔獣の群は、断末魔の叫びを放ち、重なるようにして地に倒れ伏した。


 森の覇者のあっけない最後。

 当初、あれだけ苦戦したのが嘘のようだった。


 激戦のあとの薄暗い森に静寂が戻る。

 クロに空高く舞い上がってもらい広く周辺を探査してもらったけど、もう危険な魔獣は見当たらない。


 戦闘終了を宣言するシャンテル。

 それを聞いて、護衛隊の生き残りから大きな歓声があがった。


「勝った!」「やったぞ」


 なんだかどっと疲れた気がして、俺はその場にへたりこんだ。



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