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第1話 波瀾ラブレター

「うわっ、高っ」


 よせばいいのに、下を覗き込んでしまい、背筋が震えた。

 いや、ちょっと大げさ過ぎた。そんなには高くない。


 梅雨明けの空に浮かぶ太陽から、強い陽ざしが容赦なく照りつけている。

 つい最近まで肌寒かったので、長袖を選んでしまったけど、今日に限ってこの暑さ。

 失敗した。


 俺の名前は雑賀直矢さいかなおや。高校三年生。

 特技とかは……とくにない。

 あぁ、ご先祖様にそこそこ有名な鉄砲使いの人がいるんだけど……まあ、そんなことは関係ないか――


 いまはちょうど昼休みなのだけど、ちょっとわけあって校舎の屋上に来ていた。

 高いところは少し苦手なのに、わざわざ、こんなところまで上がってきた理由はこの手紙にある。

 今朝、机の中に入っているのを見つけたときはびっくりした。


 こんな文面だったから――


『雑賀くんへ 突然ごめんなさい。今日の昼休み、屋上まで来てください。待ってます』


 んー、差出人は分からないな。


 変種の決闘状かとも思ったけど、ぜんぜん心当たりがない。

 生来、影が薄い俺には、仲間もいなければ、敵もいなかった。


 やっぱり、文面からすると相手は……女の子……だよね!?


★*★*★*★*★


 誰も来ない。屋上でポツンと一人。

 でも、だいじょうぶ。

 天性のボッチにとって、この程度なんてことない。


「はぁ、やっぱり悪戯いたずらだったか……じゃ、教室に戻ろうかな」


 と広げた弁当をカバンにしまっていたところ――


「あっ、あそこに雑賀さいかがいるじゃん。よかったね、香織かおり。アイツ、ちゃんと来てくれたよ」

「う、うん……」


 屋上出入口の扉が開き、女子二人が現れた。

 あれは俺と同じクラスの子だ。


 大きな声をあげながら元気よく近づいてきたのが、織田真莉菜おだまりな

 姉御肌の美人なのでクラスの人気者。短めに揃えた髪が活発な印象を濃くしている。


 その後ろに隠れるようにしているもう一人の子は、たしか、磯野香織いそのかおり

 美人というよりも可愛いタイプで織田真莉菜おだまりなに負けずにモテる。


 よくは知らないけど、二人はたしか仲良し同士のはず。

 一緒に行動しているのをよく見かけた。


 でも、俺とは何の接点もないよね。

 あんまり話したこともないし。


 美少女といっても差し支えない二人を前にしてドギマギしてしまう。


「あ、あの、この手紙は?」


 貰った手紙を差し出しながらの間抜けな質問。

 答えたのは元気女子の織田真莉菜おだまりなだった。


「それ書いたのあたし。この子に頼まれたのよ。ほら、香織かおり、しっかり!」

「えっ!? う、うん。あ、あの雑賀さいかくん……」


 織田真莉菜おだまりなに背中を押された磯野香織いそのかおりが恥ずかしそうにしながら一歩前に進み出る。

 控えめでおとなしそうなこの女子は、ちょっと間をおいてから、意を決したように口を開いた。


雑賀さいか君……す、好きです。わたしと付き合ってください!」


 生まれて初めて女子から告白された。それも、とびきり可愛い子から。


 顔に血が上って来るのを感じ、体が熱くなった。


 とっても熱い……

 すっごく熱い……

 とんでもなく熱い……


 は? 何これ? 

 おかしい……いくらなんでも熱すぎだ。


 周りの空気が異常なほどの熱をもっていた。

 息が苦しい。肺がチリチリする。

 熱せられたコンクリートからゆらゆらと陽炎かげろうが立ち、すぐそばの景色が歪んで見えた。

 女子二人もすぐに異変を感じたようで、慌て始める。


「ちょっとー、雑賀さいか! アンタ何したのよ!」

「はっ? なんのこと?」


 織田真莉菜おだまりなに詰問されたけど、俺が何かするはずがない。できるはずもない。


 次の瞬間、足元のコンクリートの床に、淡く発光する奇妙な模様が浮かび上がった。

 女子二人を中心にして円形の絵様えようが一定の調子で回転する。

 その円に自分自身もギリギリ入ってしまっていた。


 なんか嫌な予感……ま、まずい……離れないと……


 「みんな、逃げるんだ!」


 けど、足元に広がる紋様――どうみても魔法陣――がさらに一段階強い光を放ち、目を開けていられなくなった。


★*★*★*★*★


 発光が収まったとき、さっきまでまとわりついていた暑苦しさは消えていた。

 周りには大きな円柱がずらりと並んでいる。


 どこ? 城のなか……?


 俺の目がどうかしていないなら、ここは宮中の大広間のような場所に見える。

 すぐそばにはクラスメイトの女子二人。

 俺のカバンも転がっている。


「あー、雑賀さいか! アンタ何したのよ。てゆうか、ここどこよ!?」

「だからー、知らないって! まずは落ち着こうよ」


 足元にはまだわずかに揺らめく淡い光が――

 それは数秒おいて消え去ったけど、校舎の屋上に現れたさっきの円形模様と対になっていることはなんとなく想像できた。


 突如、広間の一角から歓声が上がった。


「おおう!」「召喚成功だ」「これは快挙ですぞ」「守護者様が三人も!」


 人がいるなんて思わなくて、突然聞こえてきた声に驚く。

 振り向けば、少し離れた場所にわりと大勢の人が群がっていた。


 どの人もクラシカルだ。

 宮廷服で着飾った貴族らしき者、法衣をまとった神官のような者、鎧を着こんだ騎士のような者、ちょっと怪しげな雰囲気のローブの者たち、いろいろ。


 その中心には、とってもきらびやかな衣装を纏い、高価な宝飾品で飾り立てた壮年の男がいた。


 俺たち三人で認識のすり合わせをしておきたかったけど、そんな余裕は与えてもらえそうにない。


 ローブの男が喜色を浮かべた顔で壮年の男に上奏する。


「陛下、お喜びください。成功です。異世界より三名もの守護者を召喚できました」

「うむ、宮廷魔法師筆頭、よくやった」


 ん? いま「異世界」とか聞こえたけど……冗談だよね?

 わけがわからないよ――


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