プロローグ
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由美子は美容専門学校に通う傍らでガールズバーでバイトをしていた。
仕事をしてみてわかったのは、ここに来るのは馬鹿騒ぎがしたいか、自慢話がしたいか、下心がある男ばかりだった。
いつの頃からか俯瞰で見て仕事をするようになり、心のどこかで客の男たちを見下していた。
そして繰り返し続く接客の中、由美子は求められている像を演じている自分に嫌気がさし、生産性のない会話に飽きてしまっていた。
今日の仕事が終われば辞める意思をオーナーに伝えよう。そう思って由美子はカウンターに立っていた。
1人で現れた新規の客は清潔感のある好青年だった。
白いシャツと細めのデニムがシンプルでありながらよく似合っていた。いつものようにお酒をつくり、会話をしているつもりだったが、気付けば由美子は自分の過去や身の上話をしていた。
「ごめんなさい、なんか自分の話ばかり‥」
ふと我に返って言葉を足した。
「いいよ、でもそろそろ行こうかな、楽しかった」
青年はそう言って、煙草の火を落とすと、結局長居させて発生してしまった延長料金を気にすることなく払い、また来ると笑顔で言って去って行った。
お店の前で姿が見えなくなるまで目で追ったが、広い背中がこちらを振り返ることはなかった。
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