崩壊への暗躍
俺は魔王国領へ行っていた偵察隊の報告を聞き、すぐに行動を開始していた。
緊急会議を開き、今後の方針を決め終わる頃には朝どころか昼前に差し掛かっていた。
眠たい体に気合いを入れて、聖女のいる教会へ来ている。
「息子が魔物にさらわれたと報告が来た。部下を守る為に剣聖スキルを使った後の隙をつかれたようだ」
「そう……それで?助けに行くんでしょ?」
「あぁ…とは言っても魔王城の監視が出来る砦を取り返す為にって理由だな。魔王城に乗り込むにもあの砦は必須だ」
「またあの人の力を借りるの?」
「魔王城に攻め込む時はそうなるだろうが…今回は来ないはずだ」
「そう……」
聖女はそれっきり黙ってしまった。
勇者と聖女の関係は良いものとは言えない。昔は男女の関係だった頃もあったようだが、魔王討伐後からなぜかギクシャクしている。
少し喧嘩した程度ではない、何か深い溝が出来ているのだ。
俺も勇者パーティーとして当時は一緒に行動していたが、実際に魔王と対峙したのはこの2人だ。その時に何かあったのだろう。
聖女は魔王討伐後、教会にこもり祈りを捧げ続けると宣言した。その為、聖女の為に建てられたのがこの教会なのだ。
「まぁ近々、王都から離れる事になるって事を伝えに来ただけだ!昨日の夜からずっと会議でもう限界だからこれで帰るな!」
「えぇ…私も久しぶりに顔が見れてよかった。奥様にもよろしく伝えてね」
「おう!わかった!」
そうして俺は教会を出た。
あぁ…妻に息子の事を伝えないといけない…
俯いて歩いていたからか、すれ違いに教会に入って行く人影を見逃したのだった。
「はぁ…………」
魔王復活の噂が流れ始め、息子が偵察隊として王都が離れてから数週間。最近また慌しくなっているようで、昨日会議で帰ってこなかった旦那を心配しつつも溜息しかでない。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します奥様。剣聖様より伝言です。今夜も帰れそうにない、すまない。だそうです。」
「えぇ…そう……」
「奥様……」
伝言を届けた執事が心配そうに声をかける。
「そんな暗い顔しないで!今、大変な時期なのはわかってるから!そうね!気分転換に劇場に行きましょう!セバスすぐに準備して!」
「かしこまりました」
セバスは礼をして部屋を出ていった。
「あぁ!楽しみだわ!帰りに楽屋に寄れるかしら?それもセバスに手配させましょう!」
机の上にある鈴をチリンチリンと2回程鳴らすとメイドが3人入って来て、素早く着替えを手伝い始めた。
騎士団の執務室に戻り書類仕事をしているが集中できない。息子の事を妻に伝える勇気が無く逃げるようにここに戻ってしまった。
しかし、攫われたと言うことはまだ生きている可能性があるという事だ。
救出して全て終わった後に話してもいいだろう。そうだ、無駄な心配をさせる事もないのだ。
いろんな言い訳をしているが、とにかく今は軍の編成だ。
コンコン
「入れ」
「失礼します」
「あぁセバスか、妻の様子はどうだった?」
このセバスという、いつからかは思い出せないが家に仕えている執事だ。
「はい、寂しい思いをされているようでしたが、今は気分転換に観劇されています」
「そうか…他に何か言ってなかったか?」
「………あぁ!そういえば剣聖様のご友人のアルケミスト様にお会いしたいとおっしゃられていました。生活に役立つ魔道具の発明にいたく感動されているようで」
「そうか…あいつは自由貿易都市の方で守られてるからな、いろいろ手続きがいるんだ。まぁなんとかしてみるか…ご苦労だった、また何かあったらすぐ言ってくれ」
「はい、では失礼します」
セバスは礼をして執務室を出ていった。
「自由貿易都市……そんな所にいましたか…フフフ」
「召喚されし勇者様、聖女様、剣聖様。この世界は今、魔王の侵攻により崩壊の危機が迫っています。どうか!どうか我々をお救いください!」
「私達の力で多くの人々が救われるのであれば、魔王を必ずや討伐して見せましょう!」
勇者は声高らかに宣言した。
「勇者様……どうか!どうかご無事で!」
「王女様……私は必ず貴女の元へと帰って来ます。待っていていただけますか?」
「はい……いつまでもお待ちしております」
2人は熱い口づけを交わす。
「魔王!これで終わりだ!」
「勇者よ……許さん……許さんぞ……グフッ!」
魔王は倒れ体内の魔力が暴発する。
しかし聖女が魔力の壁を作り勇者を守る。
「剣聖!生きていたか!」
「あぁ…俺も生きて帰らなくちゃいけない理由ができたからな」
「回復するからじっとしてて!」
3人は感動の再会をする。
王都に帰還。凱旋。結婚式。閉幕。
観劇終了後、私は剣聖役の控え室に来ていた。彼は爽やかな笑顔で迎え入れてくれる。
「今日も来て頂いたんですね!ありがとうございます!」
「いいのよ、貴方の演技を見ていると旦那と出会った頃を思い出すのよ」
「そんな!僕なんてまだまだなのに!」
楽しい会話を続けていると、ふと気になる事を話始めた。
「そういえば演目には出てこなかったですけど、召喚されたのは3人じゃなかったんですよね」
「あら?そうなの?初耳だわ」
「表には出てこない人ですからね。でも王国中の人が知っている人ですよ?」
「まぁ!誰なの!?パッと思いつかないんだけど?」
「アルケミストですよ!生活には欠かせない魔道具の数々を発明されたあの方ですよ!」
「あら!私もその方の作品には興味がありますの!」
「僕も一度お会いしてみたいのですが……」
「今度、旦那に聞いてみるわ!お会いできるなら貴方も一緒に行きましょう?」
「本当ですか?ありがとうございます!」
そして笑顔からいきなり真面目な顔になり、私の体を引き寄せて肩を抱いた。
「それで、今日はいかがしますか?」
「今日もお願いしようかしら」
「では奥の部屋へ行きましょう」
剣聖の妻はお姫様抱っこの状態で奥の部屋へ運ばれて行ったのであった。