剣聖の息子
よし!砦の攻略終了だな!
ブラックウルフは50匹生存したけど、シルバーウルフは全滅か…いや拠点に怪我で出撃できなかった1匹がいたか!
戦利品のホーリーセイバーは人に向けては使えないから倉庫でホコリを被る事になるだろう。
あとはリッチとスケルトン100体!これはデカイぞ!食料の要らない、24時間休憩の要らない労働力!!素晴らしい!
戦闘力は低いから農業の方に割り振る事になるかな!名付けて「スケルトン農業!」これで他の配下を増やしても食料難になる事はないな!
ブラックウルフの餌はとりあえずの食料庫から肉を取ればいい。
さてあとは、捕虜50人ってやつはどうしようか……スケルトン農業で食料は作れるからアレにしよう!シルバーウルフを倒してた個体に指揮させればいいよね!
<捕虜を媒体にゴブリンの召喚に成功しました>
<ゴブリンに経験値を与えました>
<ゴブリンはゴブリンジェネラルに進化しました>
今回占領した砦をゴブリンの拠点にしてとりあえず近場の村を襲わせよう。持たせる武器もいっぱいあるしね!!
ゴブリンをブラックウルフの背に乗せて効率よく村を襲わせていく。
村では生き残った捕虜(男)をゴブリンに変え捕虜(女)を砦へと輸送して、物資はセバスに回収させた。
戦闘で死んだ村人はリッチの魔法でゾンビにして村の中を徘徊させるようにした。
砦を中心とした5つの村をアンデット村に変えた頃に王国の偵察隊が到着したが、その頃には、ゴブリンの総数は500匹を超えていた。
「なんだこれは……村がゾンビだらけじゃないか!!」
偵察隊の隊長として派遣された騎士団長の息子はここがすでに敵地だという事も忘れ叫んでしまった。
騎士団長は勇者パーティーとして共に魔王を倒した勇者の親友でもある。
魔王討伐後、勇者は公爵になり想い合っていた第二王女と結婚。騎士団長は勇者と王女が逢引していた時に、よく話していた王女専属の侍女と付き合っていた。
彼女の実家は伯爵家で騎士の家系であった為、魔王討伐後、彼の婿入りを快く迎え入れたのだ。
そして産まれた息子には父親と同じ剣聖のスキルを受け継いでいた。
英雄の息子であり英雄のスキルを受け継いだ息子は才能に溢れ周りにもてはやされ、性格は歪んでいると言っていいだろう。
今回の偵察隊隊長の任務も実績作りの為に団長が圧力をかけたと聞いている。
それでも誰も文句を言えないのは剣聖を持った彼に勝てる者がいないからである。
「くそっ!村には何もないし!ゾンビだらけだし!何より臭いし!なんで俺がこんな所に来なくちゃいけないんだよ!?俺には実力があるんだからチマチマ実績作りとかいらねぇよ!」
癇癪を起こして叫ぶ隊長様を見て兵達は諦めの表情でそれを眺めるのだった。
「とにかく!このゾンビどもを殲滅だ!1匹残らずだ!終わったら一ヶ所に集めて燃やすのを忘れるな!なぜかは知らんがそうしないといけないらしいからな!行くぞ!」
途中までは完璧な指示だったのにと兵達はため息を吐きゾンビに向かって走りだした。
ゾンビを全て倒し後処理も終わり次の村へ向かう。解放した村はゾンビの異臭が残り、屋根があるとはいえ、さすがに耐えきれなかった。
臭いのしない所まで離れ、川の近くで野営の準備をする。ゾンビの臭いが体に付いている為、交代で水浴びをするのだ。
軽い夕食を作り食べ終わる頃、おそらく夕食の匂いに釣られたのだろう、ゴブリンの襲撃を受けた。
その夜は定期的にゴブリンの襲撃を受け眠れない夜となった。
翌朝、睡眠不足でダルい体を動かしながら、次の村へと出発する。
村への道中でも数回ゴブリンに襲われ緊張の糸を緩める事ができない。
そして村へ到着するとその村もゾンビだらけの村だった。
兵士達は必死に戦った。団長の息子も文句を言う気力も無く。むしろ、この苦難を乗り越えた同志として心の溝が埋まっていったのだ。
今は辛いが任務が終わり帰還すれば、今回の経験から立派な次期団長になるだろうと、そんな希望まで持ったのだ。
「隊長!幾度のゴブリン襲撃により予定していたより距離を稼げておらず食料もそろそろ危なくなっています」
「帰りの分を考えなければどこまでいける?」
「それは……ゴブリン襲撃と次の村にもゾンビがいる事を考えると…次の村までが限界かと」
「そうか……では次の村まで行き、ゾンビがいれば殲滅!生存者がいないか確認後、王都に引き返す!準備にかかれ!」
「ハッ!」
その夜も数回ゴブリンの襲撃を受け、兵士達はギリギリで精神を保ちながら夜を明かした。
村への道中も次の村で最後だと兵士達は思いながら、いつ来るかわからないゴブリンの襲撃に警戒しながら進んだ。
そして村に着いた時、彼らは絶望した。ゾンビが今まで通ってきた村の倍以上いたのだ。
兵士達は身も心も限界だった。それでもこれで最後だと思い必死に戦った。
そして隊長はある決断をする。
「みんなは下がっていてくれ!俺が剣聖のスキルを最大にしてゾンビどもを片付ける!俺が動けなくなった時は副隊長に指揮を任せる!いいな!」
「隊長!!」
「いいな!?」
「わかりました……ご武運を」
隊長は年相応の爽やかな笑顔を皆に見せてゾンビの方へ向き直った。
そして剣聖のスキルを解き放つ!体から光が溢れ膨れ上がりそして凝縮され体の中に収まった。
静寂の空間、ゾンビすらも呻き声を一瞬止めるぐらいの圧倒的な何かが立っている。
隊長はゆっくりと歩きだした。時が止まっている中で彼だけが歩いているようだった。
少し遅れてゾンビが動き出すが、最小限の動きで躱され、美しい斬撃で斬り伏せていく。
剣聖のスキルは派手ではない、爆音が響くわけでもない。ただただ一切の無駄を省いた剣技を披露するかのように、剣を極める為に必要な体の動きを無理やり引き出すのだ。
走り回らなくていい、大きく振り下ろさなくていい、大技を出す必要もない、ただ、斬ればいい、確実に命を奪える場所を的確に最小限の動きで斬り刺すだけでいいのだ。
そうしてゆっくりと散歩をするかのような自然体でゾンビを切り捨てながら、村の奥へと進んで行った。
全てが終わった頃には日が沈みかけていた。
部隊に帰ろうとした時、家の影に女性が倒れているのを見つけた。駆け寄って見るとゾンビではなかった。
この任務中で初めての生存者だ。
「おい!大丈夫か!」
「……う……うぅ」
声をかけ揺り動かすと反応した。
「………!?きゃ!あなたは?」
「大丈夫だ!王都から来た偵察隊だ!ゾンビは全て倒した」
「全部?父さんや母さんは?」
ゔぁ〜ゔぁ〜
振り向くとゾンビが2体残っていた!
「父さん!母さん!」
女性が駆け寄ろうとするのを背後から抱きしめて止める。
「まて!これはゾンビだ!落ち着け!」
女性を背中に庇い ゾンビの首をはねた。
ゾンビが何処から来たのかなど考えた事がなかった、考える余裕すらなかった、今まで切り捨ててきたゾンビは、元は村人だったというのか…
「あの…」
庇っていた女性がおずおずとはなしかけていた。
「あの…助けていただきありがとうございました」
「頭を上げてください。私はあなたのご両親を……」
「いえ!命を救っていただいただけでも!あっ!」
勢いよく頭を上下したせいか女性はふらついた。隊長は咄嗟に抱きしめる形で受け止めた。
「私を……私を一人にしないで………」
抱きしめる女性は胸の中ですすり泣き始めた。そして顔を上げ上目遣いで見つめてくる。
「一人に……しないで………」
「と……とりあえずまだゾンビがいるかもしれないから建物の中に入りましょう!」
「はい…」
そして隊長は助けた女性と近くの民家に入っていった。
<サキュバスのスキルドレインにより剣聖を入手しました>