希望を塗り潰す絶望
「はぁ……はぁ……はぁ……」
魔物達が動き始めた時、俺は武器倉庫へ走った。20年前、勇者と一緒に召喚された友の1人、アルケミストの称号を持つ男が作り上げた「ホーリーセイバー」が保管されているからだ。
アルケミストは人を傷つける事を嫌った。なので彼の作る武器は「魔物以外は切れない」という能力が付与されている。
魔王を倒し平和な世界になった後、自分の作った武器の切っ先が人に向けられないように。
俺が戦闘場所へ着いた時には既に悲惨な状態になっていた。
多くの兵士は生きてはいるが傷つき呻き声を上げている。
足や腕などに噛み付き爪で斬りつけているがとどめはささない。
ジワジワと痛めつけているのかと思い、怒りが込み上げる!
「うおおおおおおおお!!!!」
俺は怒りに任せ叫んだ。
「隊長…」
「隊長!」
「タイチョー」
部下達が希望に募る様にポツポツと呟いている。
するとホーリーセイバーが青白く輝きだし力がなだれ込んでくる。
そして身体中を駆け巡ってオーラとして体から光が溢れ出した。
俺はシルバーウルフに向かい剣を振り下ろした。有り余る力で振り下ろした斬撃により真っ二つにシルバーウルフは割れた。
次々に襲いかかってくるが負ける気はしない。
部下達はこれで助かったと心の中で安堵した。そして隊長に希望と尊敬の目を向けるのだ。ホーリーセイバーは周りの希望や勇気に反応し力を解放する。その光を見た者が更に希望と勇気を貰い、ホーリーセイバーは無限の力を放つ事ができる。
セバスが楽しむ為に兵士達にとどめを刺さず痛めつけていた事があだとなった。
無我夢中で剣を振り続け、いつの間にかシルバーウルフを全滅させていた。
そして奴が現れた。
白髪の悪魔が空から急降下してきた。こちらに突っ込んでくるかと思い剣を構えたが、直前で方向転換し向かい合う形で着地した。
「お前が……魔王か?」
周りの兵士は緊張からか喉を鳴らす音が無数に聞こえる。
しかし白髪の男は眉間にシワを寄せた。
そして納得したかの様に頷いて口を開いた。
「私は魔王様の配下、デーモンのセバスと申します」
「………ネームドモンスターだと!?」
「はい…私が忠誠を誓い、そして敬愛する魔王様に命名されました」
「魔王は本当に復活したのか?対峙しているお前より強い存在とかありえねぇだろ!」
「ほう?魔王様の存在を否定すると?殺しますよ?」
「元々そのつもりだろうが!!」
相討ちになろうとここで此奴を仕留める!
お互い一気に距離を詰め、俺はデーモンにホーリーセイバーを振り下ろした。
デーモンは左手を無防備に前へ出しそして斬撃を自ら受けた。しかし斬り落とされた腕など気にする事なく、右手の手刀を俺の顔に向けて放った!
俺は剣を振り下ろした勢いのまましゃがみこみ、そのまま回転して剣を振り上げた!
その攻撃を予測していたのか肩に足をかけられてデーモンは舞い上がった。俺も一旦引いてお互い元の立ち位置に戻った。
デーモンの左腕に紫の魔力が集まり新しい腕がはえていた。
「チッ!斬っても意味がねぇのかよ!」
「私は魔王様の魔力で作られた体に受肉しましたからね。実体はあってないようなものです」
「なら魔力が無くなるまで斬り続ければいいだけだな!」
「魔王様の魔力量を舐めてるんですか?殺しますよ?」
「余裕ぶってんじゃねぇぞ!!!!」
自分に喝を入れ斬りこもうとした瞬間………
<死体を媒体にリッチの召喚に成功しました>
カタカタカタカタ
何か聞き慣れない音が静かに鳴り響き、大声を張り上げていたあの隊長とかいう男も立ち止まる。私は気配のする空を見上げた。
月明かりを後ろに従え真っ赤なローブを纏い、カタカタと頭蓋骨を鳴らしている。おそらく笑っているのだろう。
見るだけで絶望という感情を引き出すリッチの登場は私も予想外だった。兵士達の希望の感情が塗りつぶされていく。
ホーリーセイバーの光も小さくなってきている。
リッチは黒い宝石が付いている指輪を撫でながら魔力を込め始めた。そして空を覆い尽くす程の魔法陣を展開した。
カタカタと鳴らし続けているのは呪文を唱えているが声になっていなだけだと、気付いた時にはもう手遅れだ。
巨大な魔法陣から黒い魔力の混ざった強風が吐き出され砦の中を吹き抜けた。
カタカタ………カタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
砦の至る所から音がなり始めた。
兵士達の死体を媒体に、リッチはスケルトンの大軍を作り上げたのだ。
兵士達は絶望に堕ちた。
「よくも………よくも俺の部下達を……」
<セバスに経験値を与えました>
セバスはホーリーセイバーの光が無くなったチャンスを見逃さなかった。
一瞬で隊長の背後に現れ心臓を手刀で貫き、そのままホーリーセイバーに手を伸ばしそして………転移させた……
「……く………そぉ………ガフッ」