ごじの肝だめし
12月27日、朝5時。
俺、畑間 俊の住む町では、それは“魔の時間”とされていた。
なんでも、町外れにある古びた館───人々は“呪いの館”と呼んでいる───を、その時間に訪れると、とんでもなく不吉なことが起こるらしい。
いまひとつ具体性に欠けていて信憑性もクソもない噂だ……とバカにすることも、最近は出来なくなってきている。
事実、軽い気持ちで探検に出向いた成人男性グループ、また、調査に繰り出した雑誌記者やテレビスタッフが、毎年何名も行方不明になっているという嫌な報せも届いている。
それで、だ。
俺の通っている高校には“心霊スポット探検隊”という、なんとも胡散臭い名前の部活動が存在する。
三度の飯よりオカルト好きな俺の幼馴染みが築き上げた、俺も入れて二年生四人から構成された集団。部員はソイツに無理やり連れてこられた被害者ばかり。
学校の七不思議、都市伝説、廃墟探索、自殺スポット巡礼、なんでもウェルカム。
自らを“世界一オカルトを愛する者”と称する彼女が、年に一度のそのチャンスを逃すはずもなく。
年の暮れに無理やり駆り出された俺たちは、まだ朝日も出ていないために真暗で不気味な山道を、氷点下に体を震わせながら歩かされるハメになった。
そして心霊スポット探検隊……“スポ探”は、この噂の廃墟になんとか辿り着いたというわけだ。
呪いの館は、噛み砕いて言えば三階建ての西洋風の建築物だった。
ゴシック様式……とでも言うんだっけか。巨大な白い体にはツタのようなものが複雑に絡み付いており、窓はほとんどが破られているとはいえ、そこから外に出るのは難しそうだ。そして館の頭部には尖塔が二つ、天高くそびえていた。
年季が入ってボロボロになった見た目も手伝って、確かに真夜中に見るには勇気が要るな。“廃墟です”と張り紙するより分かりやすい。
「うわぁ……大きいねぇ!そしてアヤシイ雰囲気も抜群でぇ……うんうん、久々に期待できそうだよぉ!」
最初に口を開いたのは、例のスポ探部長であり俺の幼馴染みである甘峰 千瑠。
いつもハイテンションで能天気なトラブルメーカー。オカルトのためなら、たとえ火の中水の中。怪しさ満点のトピックを探し出しては俺たち部員をこのように容赦なく連れ出す迷惑者。
ついに呪いの館と対面できた喜びで、俺の隣で小さい体をピョンコピョンコと弾ませている。ジャンプする度に、肩に届かないくらいの茶髪が軽快に揺れる。よほど嬉しいんだろう。
「な、なぁ……やっぱり帰らへん?ほ、ほ、ほら、こないな所にずっと居ったらカゼ引いてまうやろうし!あたし、寝込んだまま年越すんイヤやもん……!」
そんな千瑠とは裏腹に、寒さと恐怖で激しいバイブレーションを引き起こしている女の子が、部員の一人、久我野 豹子。
強そうな名前と男らしい黒髪ベリーショート、そしてバスケで培った逞しい体つきに反して、部で一番のビビリ。恐らくこの部に勧誘されたことが彼女の人生最大の不幸だっただろう。
100円ショップで売っているパーティー用の鬼のお面でも卒倒した過去を持つ彼女にとって、こんなホラー感満載の館の恐ろしさはとても言葉にならないはずだ。
そんなに怖いならバックレてもよさそうなものだが……どうやら人一倍、仲間意識が強いらしく、こういう行事にはほぼ必ず参加する、ちょっと変わった子だ。
「ふむ……確かにに、部長の言う通りです。この館からは今までとは一味違う、特殊なオーラを感じます。僕もあまり詳しくは分かりませんが、相当の用心が必要かと」
部員最後の一人、宝田 充。
いつでも冷静沈着で生真面目な頭脳派少年。勉強はできるがオカルトには疎く、ただしそれなりに興味があるらしく、部の中では比較的、こういったホラーイベントには積極的だ。
そんなオカルト初心者の宝田でも、この館から醸し出される何らかの不穏な空気を感じ取ったらしく、黒フレームのメガネをクイッと上げて館の外観を分析している。
そういえばコイツだけやけに大荷物だが、いったい何を持ってきてるんだ……?
そして。
そんなスポ探メンバーの他にもう一人、今回の屋敷探索に参加している人物がいた。
「いやぁ、これは本当に掘り出し物かもしれないねぇ!チルのオカルトレーダーがビンビンに反応してるよぉ!どう思うかなぁ……“姉さん”?」
千瑠が隣に立った女性に感想を求めた。
千瑠の姉……甘峰 風奈。20歳。妹とは反対にどこか暗く寡黙で、人付き合いが苦手そうなイメージのある女性。だが千瑠と同じくオカルトは大好物らしい。
性格は違えど好みは同じ。姉妹間の仲は良好のようだ。
良好……なのだろうか。
ごくまれにだが、千瑠が風奈さんのことを、凄く怖い目で見ることがあるような気がする。
いつもののほほんとした千瑠からは考えられないぐらいの、まるで、殺したいほどに忌み嫌う相手に送るような、憎悪に満ちた視線。
俺の気のせいなら……いいのだが。
千瑠と同じ艶やかな茶髪を腰まで伸ばしたスレンダーな体型の風奈さんは、千瑠からの問い掛けにしばらく応じなかったが、やがて小さく息を吸って、
「…………そうね」
とだけ返した。
普段は風奈さんは、俺たちの同伴はしない。今回が初めてだ。聞くところによると、千瑠から誘われたらしい。
久々にアタリの予感がするスポットの存在を姉に教えてあげた上に、一緒に行こうだなんて……やはり仲がいいのだろうか。
「すいません、風奈さん。年の瀬の忙しい時に、こんな所まで来てもらって……」
「……気にしないで、俊くん。好きで来たんだから。それより……もうそろそろ5時になるわよ」
俺が軽く頭を下げると、風奈さんはこちらを見ずに身につけていた赤色の腕時計に視線を落とした。時刻は朝の4時58分。
太陽は、未だ昇らない。
「よし、じゃあ行きますかぁ!オカルト探検隊、呪いの館に突入だぁ!たのもぉ!」
「ひっ!ほ、ホンマに行くん!?ちょっと、やっぱあたし、ムリ……きゃああ!!」
踵を返して帰ろうとする久我野の首根っこを鷲掴みにして、千瑠が意気揚々と扉を開けた。
俺たち五人は呪いの館に足を踏み入れた。
扉が勢いよく閉まる。全員が戦慄した。
「おいおい、マジかよ……これってまさか……!」
ホラーの定番だ。半ば諦めながら、俺は取っ手を何回か押し引きする。
予想通り、ビクともしない。
「えっ!?ちょっと待ってぇな!!もしかして……もしかしてあたしたち、閉じ込められたん!?なぁ!?畑間くん!!」
早くも恐怖がピークに達した久我野は、瞳孔をガン開きにして俺の胸ぐらをグワングワンと揺さぶった。やがて返事に詰まった俺を見て察したのか、久我野は魂が抜けたように大人しくなった。
中は当然ながら電気も通っておらず、形容しがたい空気が場を支配していた。
俺も平静を装ってはいるが、不安で胸が押し潰されそうだ。もしかして噂は本当に……。
「おおおっ!なんかホラーゲームみたいだぁ!スリル満点だよぉ!よし、レッツ肝だめしだぁ!」
コイツはどうしてこんなに能天気でいられるのだろうか。今ばかりは少し安心してしまう自分が悔しい。
「肝だめしというワケでではありませんが……どのみち脱出するためには先に進しかないようです」
「宝田……でも、明かりもねぇのにどうやって進むんだよ?」
「ご心配なく。こんなこともあろうかと、懐中電灯を日本、そして最低限の水と食料をお持ちしました。鍵が掛かっている場合に備えて針金も少々。そして万が一のために人数分のスタンガンもありまので安心です」
……コイツ、やけにデカいカバン持ってきたと思ったら、こんなに万全の状態で来たのか。
予備でもう一本、懐中電灯を持ってくるあたり、やっぱりさすがだな。それに比べて俺と来たら……財布と携帯しか持って来ていない。
恥ずかしくなって少し目線を下げたついでに、念のためポケットに入っている携帯を取り出して開いてみる。
さすがは町外れ。圏外だ。まぁこれも定番っちゃ定番か。
こうして俺たちは本格的に屋敷の探索を始めた。まずは一階から。
千瑠と宝田が怖がりの久我野を囲うようにして前方を照らしながら進み、俺と風奈さんはその後ろを歩いた。
まとまって動くと効率が悪いが、何が起こるか分からない以上、こうするのが得策だ。
「大変なことになりましたね、風奈さん」
風奈さんの顔色は優れない。千瑠とは違い、この予想外の状況をどうしてもネガティブなものにしか捉えられないのだろう。
「こんな時にアレですけど……風奈さん、千瑠と仲良くやれてますか?」
風奈さんの体がピクッと揺れる。
「……どうして?」
「どうしてって、あの……千瑠のヤツ、なんかたまに風奈さんを…………いや、何でもないっす」
口をつぐむ俺を見て、風奈さんはわずかにクマが浮かぶ目を細め、軽く笑ってみせた。彼女の笑顔を見たのは何年ぶりだろうか。
いや、もしかしたら初めてかもしれない。
「……優しいわね、俊くんは。そういうところ、昔からちっとも変わってない……」
風奈さんは立ち止まり、俺の頭を優しく撫でた。柔らかく、温かい手だった。
「……気を遣ってくれたお礼に、二つ教えてあげるわ。きっと俊くんも知らない、この館の秘密と、もう一つの秘密」
「え……?」
話が思ってもみない方向に転がり面食らう俺を尻目に、風奈さんは続けた。
「一つ目。去年この館にね……俊くんたちと同じ高校生の、三人の男の子が立ち入ったの。でも……全員何事もなく帰ってきた」
「なっ!?それ、本当ですか……!?」
確かに行方不明になったのは、成人男性グループとかテレビスタッフとか、大人ばかりだ。
偶然か?いや、風奈さんの話が本当ならば、それって……。
「二つ目。さっき俊くんは“千瑠と仲良くやれてるか”って聞いてきたけど……少なくとも私は千瑠のこと、大事な妹だと思っているし、大好きなのは間違いないわ。でも……千瑠が私のこと、ときどき凄く怖い目で見てくることがあるの。きっと俊くんはそのことを言おうとしたんでしょ?」
風奈さんに心を読まれているかのような感覚に陥った俺は、どうしていいのか分からずに、首を軽く縦に動かすことしかできなかった。
「心配してくれてありがとう……でも……千瑠がどうして私をそういう風に見てくるか、私には分かってるの」
「え……?ど、どうしてなんですか……?」
風奈さんはクモの巣が張った天井をしばらく見つめたあと、全てを悟ったかのように俺に向き直った。だんだんと頬が赤らんでいるように見える、けど……これって……。
「それは……それはね、あの子と同じように、その…………私も、あなたのことが……」
「姉さん」
間近で聞こえた冷たい声に、俺と風奈さんは言葉を失った。
風奈さんの顔が青ざめている。キュッと握りしめた両手は、暗闇でも分かるほどにはっきりと震えていた。
今の今まで遥か前方を歩いていたはずの千瑠が、吐息がかかりそうな距離で、自分の姉を見つめている。
風奈さんが恐れていた、あの目で。
「ダメだよぉ、皆がピンチなときに、自分だけ俊クンと仲良くお話だなんてさぁ。オカルト好きとはいえ、ずいぶん余裕があるんだねぇ……」
「ちっ……千瑠!違うの!!これは……」
「一階には何にも無さそうだからさぁ、上に行こうかぁ。久我野サンと宝田クン、先に二階に行ってるよぉ。だから姉さんも早く来てねぇ?あんまり俊クンとイチャイチャしてたら…………あはは、あはははは、あはははははははははははははははははははは」
千瑠はカツンカツンと大きな音を立てながら去っていった。曲がり角で姿が見えなくなった後も、まだ笑い声が聞こえる。
生気の感じられない、乾いた笑い声が。
いつもの明朗快活な甘峰 千瑠の面影は、最早どこにもなかった。
千瑠の声が聞こえなくなった直後に、風奈さんが糸の切れたマリオネットのようにその場に座り込む。
目を見開き、呼吸を荒くして、床の一点を見つめている。
「風奈さ」
「触らないで!!」
そのスラリとした肩に触れる直前に、風奈さんが力一杯に叫んだ。
「っ……ごめんなさい。大丈夫……だから、行きましょう……?離れると……危ないわ……」
そのままゆっくり、ゆっくりと立ち上がって、壁に手をつけながら歩き始める。
俺はそんな風奈さんに何の言葉も掛けられないまま、少し距離をとって後に続いた。
「あっ……畑間くん!何しててん!?急にいなくなったから心配したやんかぁ!!って……風奈さん大丈夫ですか!?汗だくですやんか!!」
階段を上がりきったところで、顔を真っ青にして宝田にしがみついていた久我野が、俺たちを見つけて物凄い勢いで駆け寄ってきた。
「悪い、久我野。ちょっと色々あってな。風奈さんは問題ないから、心配しないでくれ。宝田も……頼りきりになっちまってゴメンな?」
唐突に礼を言われたからか、宝田は照れくさそうに視線を俺から外し、メガネの位置を正した。
「お気になさらず。僕もオカルトの知識が足りない分、弱冠の不安はありますが、できることはやらせていいただきます。では……先に進みま」
「ちょっと待ってくれ、宝田」
二階探索を始めようとした宝田を、急ぎ足で制する。
今までずっと気になっていた。でも状況が状況だから触れないようにしていた。
だが……もう限界だ。
「悪いな、呼び止めて。でも……一つだけ、お前に言っておきたいことがあるんだ」
宝田を含め、その場にいる全員が固唾を呑んで、俺の次の発言を待った。
「こんな時にどうしたですか、畑間くん?まぁ、今のところ危険はなさそうですから、少しぐらいなら鎌居ませんよ」
「ありがとう。じゃあ……言うよ」
とてつもない緊張感が襲いかかる。
これを言ったら全てが終わる。
でも。
皆が気になっているのに言えないだろうことを、俺が代表して言わなければならないんだ。
覚悟は決まった……言おう。
「あのさ…………シリアスの中で喋るにしては…………誤字脱字がありすぎる」
空気が一変した。
「こういうホラーって雰囲気が大事なんだよ。少しでも誤字脱字に気付いたら最後、もう世界観に入り込めなくなる。せっかくこれから怖いこと起こる感じジワジワ来てるのにさ、お前のセリフだけ特に酷いんだよ。ちゃんとやってくれよ」
宝田の困り果てた顔を見て、罪悪感と後悔が押し寄せてきたが、もう後には退けない。
「俺も普段の高校生活ではあまり気にならなかったし、ここに来ても頑張って気にしないようにしてた。だけど“懐中電灯を日本”あたりからもう耐えられなくなった。それが気になって千瑠の豹変シーンにもイマイチ感情が揺れ動かなかった。どうしてくれる、山場だぞ」
「そんな……ありえない!!僕が……この僕が、5時なんて………!!」
「舌の根の乾かぬうちに!!“5時”じゃなくて“誤字”だろ!!この世に誤字する奴はいっぱいいるけど“誤字”を誤字する奴はお前ぐらいだよ!!」
次々と言葉が漏れ出てくる。この際、今まで溜め込んでいた分を全て吐き出してしまおう。そう思えてしまった。
「ホントもう台無しだよ。せっかく“呪いの館”とか言われてるのにお前の誤字脱字が気になって何にも怖くなくなっちまったよ。つか“呪いの館”って何だよ!!安直すぎるだろ!!今どきのオカルトなんだから、もっと捻れよ!!」
「そ、そんな児頭、朴煮岩霊竜手輪火羅南鋳夜!!」
「焦燥を理由に出家すんな!!呪いの館なんかよりお前のその気持ち悪いお経みたいな文の方がよっぽど怖いわ!“そんなこと、僕に言われたって分からないよ”のどこに誤字ポイントがあるんだよ!!わざととしか思えねぇんだけど!!漢字も怖ぇし!!」
だから言ったんだ……“これを言ったら全てが終わる”って。もう雰囲気ぶち壊しだ。
「とにかくお前はこの館を出るまでもう喋るな!懐中電灯で俺たちをリードすることに徹底しろ!!いいな!」
右手で口を塞ぎ、コクコクと頷く宝田は、先程よりも早足で先陣を切って進んでいった。
他の三人も、苦虫を噛み潰したかのような顔で歩き始めた。
アフレコするなら「いや気になってたけど……気になってたけどさぁ……」と言ったところだろうか。その微妙な心情は俺にも痛いほど分かる。
でも、俺はこういう人間なんだ。
二階と三階も結局はもぬけの殻。
もしやと思って入り口に戻り、再度ガチャガチャと扉を動かしてみたら、建て付けが悪かっただけらしく普通に開いた。もうイヤだ。
館を出た俺たち五人は、ほぼ同時に大きく背伸びをした。
「ちぇっ……ここもハズレかぁ。いい雰囲気ビンビン来てたんだけどなぁ」
「あはは、千瑠ちゃんのオカルトレーダーとやらもアテにならへんなぁ!でも何もなくてホンマに良かった……」
緊張が一気に緩んだのか、久我野が俺に力なくもたれかかってきたため、そっと抱きとめてやる。コイツもビビリのくせによく頑張ったよな。
「ちっ……この寒い中で連れ回されて、結局なんにもなかったじゃねぇか!これに懲りたらちょっとは反省しろよ千瑠!」
「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃん、俊くん!五人で生きて帰れるんだからさ!はぁ、おなかすいた!」
千瑠はよそを向いて口笛を吹き鳴らしている。コイツ、都合が悪くなると無視しやがって……。
「あの……畑間くん。僕はもう喋ってよいのでしょうか……約束通り脱出までは沈黙を貫いたことですしし」
「惜しい!!はあ……お前ホント、これを機に少しは気を付けろよ?とりあえず慣れるまでは極力短めに話してみるとか、どうだ?やれるか?」
「灰」
「イェスノーすらも!?あと漢字怖いんだってば!!あぁもういい!!とっとと帰んぞ!こんな寒いところいたら、マジで風邪引いちまう!」
こうして、心霊スポット探検隊……スポ探の“ハラハラドキドキ”な呪いの館探検は、なんとも拍子抜けな形で幕を閉じたのである。
朝日が昇り、四つの影がぼんやりと照らし出されていた。
「ただいま~っと」
「おかえりですっ、おにいちゃん!」
家に帰ると、妹の紗菜がマッハで俺に抱きついてきた。
凍えた体に5歳児の体温が染み渡る。
「おにいちゃん!さなは、ごほんをよんでほしいのです!」
「えぇ……お兄ちゃん疲れてるんだけど……はぁ、まぁいいや。古今和歌集とかでいいか?」
「ちょいす!!そんなんじゃなくて、さながだいすきな、あのえほんです!」
「え、でもお前、あれ何十回も読んでるだろ?さすがに飽きるんじゃ……」
「あきてないです!それに、おかあさんにきいたんです!きょうはとくべつなひだって!」
「特別な日?」
俺が聞き返すと、紗菜はとてとてと部屋に戻り、一冊の本を抱えて戻ってきた。
そして俺の顔の目の前にそれを突き出し、にぱっと可愛らしく笑ってみせた。
「そうです!きょう、12がつ27にちは、なんとなんと……“ピーター・パンのひ”なのですっ!!」
最後までお読みいただきありがとうございました。作者の箒星です。
この話、ホラーと見せかけてギャグ展開……と見せかけて、実はちゃんとしたホラーです。
「どこが怖いのか分からねぇよカス!とっとと教えろやA型野郎!」という方は↓にあるURLかマイページから、僕の活動報告をご覧ください。B型です。
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