魔王「その剣、ちょーだい」-2-
「ねぇねぇ」
「なに?どうしたの?」
「その剣、ちょーだい」
「やだよ」
幼女が私の背中に巻き付いている。私はVRを楽しんでいる。
「なんで、やなの?」
「今めっちゃ忙しいから。わたし」
「えー、じゃあ忙しいのが終わったら、くれる?」
「んーどうだろうねぇ。私は常に忙しいからなぁ」
幼女は私の背中をドスドスと殴っている。恐らく中級モンスター程度なら一撃で粉砕されてしまう。
「じゃあ、私にもそれやらせてよー。なんで、あんただけその"ぶいあーる"って奴楽しんでるのよー」
「待って待って。今いいところだから。イケメン男子が私を口説こうとしているから」
「......これだからモテない女は嫌だわ......」
「聞こえてるわよ、魔王様」
私の目の前で、イケメンが私からのキスを待っている。行くしかない、女を見せろ!勇者!
「......ちゅっ」
「あれ?なんだか唇に湿った感触が.....すごい!すごいわ、VR!感覚までリアルよ!」
「......えへへー」
「あっ、ちょっと待て。冷静に考えれば分かったぞ。やったな、魔王」
私は腕を振り回して、幼女を捕まえようとする。しかし、幼女は楽しそうに逃げ回っている。
「わーいわーい。捕まえられるものなら、捕まえてみなさい」
「くそーどこだー。どこにいるんだぁ」
「.....あっ、そうだ。今のうちに剣を......」
「おい、こら」
腰の剣を掴みに来た幼女を私は抱きとめるように捕まえた。幼女は悔しがっている。
「しまったぁ......声に出さなかったらよかったぁ」
「残念だったねぇ。......VR変わってあげようか?」
「うん。でもそのイケメン男子の奴は嫌。違うのがいい」
「えー、これ面白いのに」
私は商人が持ってきたソフトを漁っていると、魔王討伐のロールプレイングゲームを見つけた。
意地の悪い商人だ、と私はほくそ笑むと、それを静かに跡形もなく消し飛ばした。
あれ、今魔法使った?と幼女が不思議そうにしているので、私は何でもないよと笑った。
魔王「その剣、ちょーだい」-2- -終-