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S-1 RACER  作者: おかP
2/2

後編

アステロイドベルトとは火星~木星間に漂う隕石群の事である。元は惑星であったのだが爆発によって飛散した欠片が引力によって帯状に広がっていった、と言うのが定説になっている。


コース上には飛燕に先行した各国各社のレーシングシャトルが渋滞していた。ファースト・ラップは様子見なのだが、にしても中々先に進めない。

「さあ、レイラちゃん!君の出番だ。神技のオーバーテイクを見せてくれ」

ゴウが嬉しそうに指示。レイラは淡々と答えた。

「承知しました。障害物を避けて最短ルートで航行します」

指揮系統はレイラに支配され、脅威の加速で隕石群と遅いシャトルの間を掻い潜る。紙一重ですり抜ける飛燕に下位チームは度肝を抜かれた。飛燕は程なく上位陣に加わる。タケルが警告する。

「あまり飛ばし過ぎて注目されるのはまずい。操縦をマニュアルにしてくれ、後は俺がやる」

「了解、キャプテン。マニュアルモードに切り替えます」

レイラがコントロール・オフにすると飛燕は一気に減速した。マニュアルに切り替えられた操縦幹をタケルは力強く握る。

「レイラ見ててくれ、太陽系最速のドラテクを‼」

満面の笑みを浮かべてタケルは意気揚々と叫んだ。レイラは何故そんな事を言うのか?と不思議顔をしてるが、タケルにしてみれば長らくお預けを食っていたので燃えているのである。タケルがスロットルを全開にすると飛燕は猛加速した。現在の位置は8番手で行く手はトップチームばかりだがタケルにしてみれば余裕である。7番手のキャセイ・ユニバース、6位中華航宙をゴボウ抜き、5位のルフトハンザに追い着いた。横に並んだ2機はデッド・ヒートを繰り広げるが、前方の4位ロシア航宙がブロックになりルフトハンザが一瞬減速した。その隙を見逃すタケルではなかった。一気にオーバーテークをかけ、後方に置き去りにした。エンジン・トラブルでもたもた?しているロシア航宙はデブリにさえならない。ただ、ここからが難敵、シリーズチャンプ争いを繰り広げる三強である。トップはユナイテッド、続くパン・アメリカン、三番手は旧敵ANS(全日宙)。タイム・アタックなので順位は無関係なのだが、タケルにはそんな事などお構いなし、ANSに挑みかかる。驚いたANS機は一瞬たじろぐが、状況を察し横に並んだ。フルスロットルで最高速争いを繰り広げるが、去年のエンジンのままのANSは徐々に差をつけられ、後方に置き去りにされた。タケルは二番手PAN-AMに詰め寄る。PAN-AMは飛燕には無関心のようだ。後方に付いてテール・ツー・ノーズで煽るが反応が無い。諦めたタケルは先頭のユナイテッド航宙に向かった。トップで飛ぶユナイテッドは譲る気はないようだ。スピードを落として飛燕に並んできた。タケルはニヤリと唇を歪めた。タケルは相手向けに通信をオープンにした。

「アーユーレディ?ゴー‼」

 二機はスタートダッシュ!ほぼ互角の競り合いになった。敵のエンジンも今期に合わせたニュー・バージョンのようである。錐揉み状態で交差、一進一退を繰り返しながらお互い一歩も引かない。壮絶なデッドヒートを続けながら遂にゴールラインを通過!最後は鼻差でユナイテッドが勝った。悔しがるタケル。ゴウは茫然自失、レイラは呆れ顔。燃え尽きたのか、タケルのその後のラップは振るわず、結果エールフランスにも追い付かれ9位に終わった。


翌日、決勝ラウンド。JACWパドックではブリーフィングのまっ最中である。争点はレイラの扱いをどうするかだ。今期不参加と予想されていたPAN-AMが急遽参戦して来たのだ。正直に申告すれば今まで隠蔽した事で険悪ムードに成りかねないが、

いつまでも黙ってはいられない。チーム内で意見は二分したが結論は出ず、嶋津監督の采配に一任された。レースは特に戦略的なアイデアは無く、正攻法でもお立ち台には立てるだろうという甘い予測だが飛燕とレイラ、タケルの腕前ならば不安要素はない。程なく開始アナウンスがDJ調のノリで流れた。観衆は怒号を上げる。各国各社のレーシングシャトルは次々と発進していった。コースを一周しながらスタートのシグナルポッドのラインに一斉に飛び込んだ。

「全機一斉にスタート‼」

アナウンス・ブースのDJが叫んだ。ホールショットはPAN-AM❗続く2番手はユナイテッド航宙、ANSの順位となった。起動力のある飛燕は4番手に着ける。後位は大混戦である。

飛燕はタケルが操縦していた。レイラでは人間離れし過ぎて疑われる可能性があるからである。コースを40周してトップを競う長丁場のレースなので最初から無理はしない。周りの情況を睨みながら堅実に定位置をキープしていた。


レース中、何度か燃料補給の為にサポート機とランデブーする必要がある。各社はベルトの中間地点に定められたセーフティゾーン、通称ピットエリアにてチャージするのだがその燃料は航行用の物とは比較にならない超ハイスペックな代物なのである。無論、高級品でS-1でなければ手がだせない程高額である。件の燃料に目をつけた輩が虎視眈々と強奪の機会を狙っていた。誰あろう、因縁のキャプテン・モルガンである。地球ー火星間でタケル達にレイラを横取りされるも、もう次の稼ぎに掛かっていた。海賊船アルゴ号はピットエリアの後端にある小惑星の亀裂に潜んで襲うサポート機を待ち伏せている。

モルガン船長は特に高級な燃料を積んでいるユナイテッドのサポート機に狙いを定めていた。アルゴ号は小惑星から離岸、ステルスモードでサポート機に近づいた。モルガン船長はユナイテッドのレース用回線に割り込んだ。

「あー、あー、こちら海賊船アルゴのキャプテン・モルガンである。貴様等の積荷である燃料は1滴残らずワシが頂く。逆らえば即座に撃墜する。アーユーアンダスタン⁉」

サポート機のキャビンではクルーがざわめいている。モルガン船長は更に声を張り叫んだ。

「わかったのかと訊いているんだ!このボンクラどもが‼ビーム砲を喰らわすぞ‼」

一瞬キャビン内が静まり返った。リーダー格とおぼしき初老の紳士が画面に出た。

「当機の機長、ウェズリーです。キャプテン・モルガン、貴殿の要求に応じますのでクルーと機体の安全を保障してください」

 モルガン船長は満足そうに微笑んだ。

「よ~し。良い子だ。本船を接舷するから補給用パイプをイジェクトしろ」

「承知しました。すぐ取り掛かりますのでくれぐれも生命と機体の安全をー」

 ウエズリー機長の申し出をモルガン船長はもどかしそうに遮った。

「わかっとるわい。さっさとせんか!」

 慌ててウエズリー機長が部下に指示した。サポート機はアルゴ号に機体を寄せ、補給パイプを射出した。アルゴ号から伸びたマニピュレーターがパイプ先端を掴み給油口に接続する。モルガン船長は終始満足そうに微笑んでいる。燃料補給は滞りなく終了。その間、ユナイテッド航空のクルーは無言でただその様子を見守っているだけであった。

「ありがとよ❗頂戴したブツは有効に利用させていただくぜ。野郎ども、次のお客に向かえ‼」

キャビン中央モニターに写るモルガン船長は不敵な笑みを浮かべて手下供に離脱を指示していた。アルゴ号は補給機から離舷、更に前方の補給機を目指して進んだ。


飛燕は先頭集団に食らい付くべく、全速力でかっ飛ばしていた。突然、回線に連絡が入ってきた。

「メーデー、メーデー‼飛燕、こちらサポート機」

ゴウは即聞き返した。

「どうした、サポート機?」

「緊急事態です。海賊船の襲撃を受け、逃走中です。逃げ切れそうにないので飛燕は近寄らずそのままスルーしてください」

タケルとゴウは驚愕した。タケルが叫ぶ。

「すぐに向かうから何としても逃げきれ!」

サポート機の返事は悲痛なものだった。

「武装の無いレース機では無理です!こちらは大丈夫ですから皆さんはレースを続けてください」

「黙って放っておけるか‼任せとけ、俺達が着くまで奴等に捕まるなよ!」

タケルは興奮して言い放った。だがサポート機では困惑している様子で、

「いや、来られても何とかできる訳でもないですし、逆に貴殿方が危険に…」

サポート機の通信をタケルの怒号が遮った。

「元は連邦軍のトップガンだ、俺らを信じろ‼今すぐ行く!」

「はあ…」

サポート機クルーは何も理解できていないが、生返事を返す。

「飛ばすぞゴウ、レイラ❗Here、 we、 go~‼」

タケルはオーバーテイク・スイッチを入れ、スロットルレバーを目一杯引いた。飛燕は強烈な加速Gでサポート機を目指す。サポート機迄は大した距離ではない。程無く目視できる位置に近づいた。

「あ⁉何処かで見た海賊船だぞ」

ゴウが呟いた。タケルも頷いた。

「あれは紛れもない、モルガンのアルゴ号だ」

ゴウが呆れ顔で嘆いた。

「まさかあの馬鹿に再び出くわすとは…何か…腐れ縁なんかね?」

「相手が誰かは関係ない、俺達は仲間を救うだけだ!レイラ、勘づかれないように二隻に接近してくれ」

レイラは黙って頷いた。飛燕は微速でドッキング部分に背後から近づく。

「さて、タケル、どうするんだ?何か策はあるのか?」

タケルはゴウに向かってニヤリと笑った。

「補給パイプを断ち切って火を点けてやるのさ」

「おお!そいつは見物だ」

ゴウは高笑いした。タケルがタッチパネルで船首からマニュピレーターを出し、サポート機から延びている補給パイプを掴む。

「船長、変な触手が‼」

モニターを観ていた海賊船のクルーの一人が異常に気付いたが、既に手遅れである。

「やるぞ!おりゃあああ‼」

マニュピレーターの先端に付いたレーザーカッターが勢いよく補給パイプを切断した。高純度液体燃料が宇宙空間に飛散する。

「ゴウ、サポート機に直ちに此処から離れるよう指示してくれ」

「了解♪ サポート機、補給パイプを切断した。急遽離脱すべし!」

一瞬間が空き、ゴウの通信に呼応するようにサポート機は急発進した。

「飛燕、こちらサポート機。貴殿らのに機転に感謝する」

「さあ、これで気兼ね無しに暴れられるぜ。先ずは花火を打ち上げないと、な」

タケルはマニュピレーター先端に付随したバーナーに点火した。火花は給油パイプに引火し、導火線の如く海賊船に向かって燃え上がっていく。

「さあ!緊急避難だ‼」

タケルは大急ぎで飛燕を発進させた。飛燕が離脱すると同時に海賊船アルゴ号の左舷船尾が爆発!

更に連鎖した業火は船腹へと移っていった。

「敵の攻撃か⁉さっき迄は周囲に敵影は無かった筈だぞ」

モルガン船長が喚き散らす。レーダー手が答えた。

「船長❗レーシングマシンが一機宙域から離脱して行きます。爆発は給油槽からの様です」

モルガン船長は驚きながらも適確に指示を出す。

「何だと⁉何時近づいたんだ?兎も角動ける者は船首に移動!避難次第、船体後部を切り離せ‼」

「イェッサー❗動ける者はブリッジに移動せよ」

操舵手が艦内放送でアナウンス。手下達は我先にと走り出した。頃合をみてモルガン船長は号令した。

「船尾を切り離せ‼」

「イェッサー❗」

操舵手が操作。艦後部が轟音と共に射出された。

切り離された直後、艦尾は大爆発を起こし、砕け散った。

「ふう、危ないとこじゃった。しかし、何者じゃ儂の船に悪さするとは」

難を逃れたアルゴ号の通信士が情報検索した結果をモルガン船長に伝えた。

「どうやらJACWのレース機の様です。先程の補給機もJACの物ですし、おそらく救援に来たものかと」

モルガン船長は苦々しく呟いた。

「たかだかレース屋風勢がこのモルガン様に楯突くとは良い度胸だ。目に物見せてくれる!操舵手、ヤツを追え‼全速でだ‼」

操舵手は呼応して叫んだ。

「イエッサー‼全速前進!」

アルゴ号は飛燕に向かって進み出した。艦尾を切り離した為、通常より軽量化された機体は猛加速する。が、大型船ではとてもレーシングシャトルには敵わない。ただ、スプリント仕様のマシンなので燃料には限りがある。案の定、補給を受けてない飛燕の燃料は底を付き欠けていた。

「ヤバいぜタケル。残量あと僅かだ」

ゴウの警告にタケルは暫し思案してレイラに尋ねた。

「レイラ、周囲の小惑星に内部が空洞化してるのはないか。できるだけデカいヤツがいい」

レイラは答えた。

「承知しましたキャプテン。直ちに周囲を検索します」

レイラは飛燕のセンサーとネット情報を駆使してサーチした。

「一件ヒットしました。2時方向1,243kmの赤色惑星です」

「よし、その星に逃げ込むぞ。隠れて海賊船を遣り過ごす」

タケルは件の惑星に機首を向け猛ダッシュをかける。飛燕は残り少ない燃料の大半を消費してようやく赤色惑星に辿り着いた。表層の亀裂 ーと言っても幅は優に1kmを越えているがー に潜り込む。中心部は最早地底世界の様相である。飛燕はクレーター状の地面に着床した。照明弾を打ち上げて洞内部を見渡す。

「上手く遣り過ごせるかな」

ゴウが不安げにタケルに尋ねた。

「無理だろう。おそらく航跡探知機能はあるだろうし、何より海賊という奴等は獲物を追い詰める時の勘は半端ないからな。だが、次の一手を考える時間は出来たさ」

タケルは妙に冷静である。歴戦を乗り越えた経験が彼をそうさせているのだろう。

「レイラ、飛燕の周囲を探索してくれ。特に戦闘車輛の残骸あたりを。この星の周辺は前の大戦の激戦地だったからな。」

レイラは飛燕のセンサーをフル稼働してサーチ開始。すると…

「キャプテン、本機後方に太陽系連邦の機動歩兵が。損傷は軽度で、おそらくパイロットが乗り捨てて逃げ出した物かと」

「は?敵前逃亡かよ⁉連邦の兵士とは思えないクズ野郎だぜ」

ゴウは現況を一瞬忘れたかのように怒った。タケルはゴウを宥めるように答えた。

「まあそう言ってやるな、誰だって命は惜しい。いざとなりゃ俺達もわからんぞ。何より武器を残していってくれた事に感謝すべきさ」

タケルは早速、外宇宙服を着用し始めた。

「お、俺も行くぞ。装備が使えるかどうか確認しなけりゃな」

ゴウも宇宙服に着替える。二人は後部扉から外に出た。惑星の重力は10分の1位か。ゆっくり跳躍しながら膝を突いて朽ち果てた機動歩兵に近づく。体高11.5mか、形はブロックを組み合わせて球体で繋いだようである。登頂部はボウルで蓋をしてカメラアイを差した、絵に描いた様なロボ。

「こりゃ旧式のマローダーMarkⅠだな。パイロットが逃げ出した気持ちが解るぜ」

ゴウが溜め息ついて呟いた。

「いや、だから武器類はそれ程使用してないかも…乗り込んでみよう」

タケルは頭部ハッチを跳ね上げコックピットに座った。直ぐ様計器類をチェックする。

「さあ、動いてくれよ~❗」

タケルはスタータースイッチを押してみる。一瞬の静寂の後、鈍い作動音と共に計器盤に明かりが灯り、機体が甦った。脚部のキャタピラーを動かしてみると、ゆっくりと前進。アームもぎこちなくではあるが可動する。

「大丈夫そうだな。幸い弾倉もビーム蓄熱量も十分だ。これなら何とか戦える」

だがゴウはまだ不安そうである。

「何せ古い型のマシンだからな、まともに動いてくれるのか?そもそも弾は出るのか?」

タケルは計器類を触りながら軽く答えた。

「今からそいつを確かめてみるさ」

タケルは右手でバルカン砲のグリップを握り、トリガーを引いた。

ヒュウウウウー…ズガガガガガガガガ‼

ガトリングのシリンダーが高速回転し、射出された40mm榴弾が辺1面に激しい弾痕を残した。続いてブラスター砲を試してみる。数km先の対空砲台に照準を合せビームを放つと物凄い轟音と共に爆裂・飛散した。

「この分だとミサイルも大丈夫そうだな。」

ゴウもレーダーやセンサー類を検証している。

「こっちもちゃんと機能してるぜ」

二人は顔を見合わせ、同じ言葉を呟いた。

「これで戦えるぜ‼」


モルガン船長は鬼の様な形相でレーダー手に檄を飛ばしていた。

「どうだ、奴等は見つかったか⁉」

レーダー手は冷静に答えた。

「航跡では前方の小惑星郡に逃げ込んだ模様です。恐らく一番大きな惑星ではないかと…」

モルガン船長は嬉々として叫んだ。

「よし、その星に突入じゃ❗」

アルゴ号はタケル達の潜む小惑星に接近、軌道上から探査を開始した。するとレーダー手が微細な反応を感じ取った。

「船長、惑星内部に熱反応があります。強力な電磁波を帯びていますので何かの動力源かと」

「そいつじゃ‼中に進入するぞ、地表に降下しろ」

アルゴ号は一直線に飛燕の待ち構える空洞の中へと入って行った。赤外線モニターで周囲を監視しながらゆくりと進んで行くアルゴ号。すると、マントルの中心附近をゆっくり航行している機体を探知した。飛燕である。

「見つからんだろうと油断したな、間抜けめが。すぐさま奴を捉えろ❗」

モルガン船長は操舵手の座席背面を蹴飛ばし怒鳴った。慌てた操舵手が舵を切り猛スピードで飛燕を追いかける。アルゴ号が近づくと飛燕は逃げる様に加速した。

「逃がすな❗弾幕でヤツの足を止めろ」

砲撃手は飛燕をロックオン、全8門の速射砲を斉射。バルスレーザーが雨の如く放たれたが紙一重でかわす飛燕。砲撃手は続けてミサイルを射出、6基の追尾式ミサイル弾が迫る。飛燕は壁面ギリギリを掠め飛行、次々と壁に誘爆させた。モルガン船長は苦々しく唸った。

「ヤツを追いかけろ‼何としても撃ち落とせ‼」

壁面を這う様に飛ぶ飛燕に近づいたアルゴ号。その時、艦内にドスン❗と鈍い衝撃音が⁉

「船長、甲板に何か落ちた様です」

レーダー手がモニターを観ながら告げた。モルガン船長は直ぐ様指示。

「センタースクリーンに映し出せ❗」

レーダー手が中央画面を切り替えるとモルガン船長の眼に飛び込んだ物は…何とマローダーMarkⅠの姿であった。飛燕はレイラの操る囮だったのである。アルゴ号をマローダーの待ち構える地点まで誘導、タケルとゴウは接近したアルゴ号を目掛けロケットブースターで飛び移ったのである。戦艦であるアルゴ号は外部からの攻撃には強い。ならば装甲の最も薄い甲板から直接内部に攻撃を仕掛けよう、と。

「ゴウ、ぶちかませ‼」

タケルはマローダーの脚裏からドリルを突き刺し、回転させて機体を固定した。

「おう❗」

ゴウがマローダー背面のガトリング砲を前に回し掃射。タケルは機体上部を回転させた。たちまち甲板の周囲は銃弾で蜂の巣に、爆発炎上して火の海となった。駆けつけた乗組員は成す術も無く散り散りに逃げ惑う。頃合と見たタケルはロケットブースターで艦上に飛び上がった。空かさずゴウが背中のランチャーからロケット弾を撃ちまくる。放たれたロケット弾はアルゴ号甲板の破損面に当たり、連鎖爆発を起こした。激怒するモルガン船長。

「やりやがったな❗損壊部を切り離せ、あのポンコツ・ロボを何としても捕えるんだ‼」

破損面が次々切り離され、アルゴ号は宇宙ステーションさながら剥き出しの骨格だけの状態になった。身軽になったアルゴ号は尚もマローダーに迫る。アルゴ号のレーザー機銃攻撃にタケル達はブラスターで応戦するが巨大戦艦相手に起動歩兵では圧倒的に不利である。エネルギーも底を尽きかけ、危機に瀕したその時、飛燕が二隻の間に割って入ってきた。

「待ってたよレイラちゃん❗」

ゴウが満面の笑みで叫んだ。レイラの操る飛燕は通り抜けた後、Uターンして戻ってきた。そして。

飛燕に追随して、太陽系連邦軍の駆逐艦隊が現れた。その数8隻。タケル達が時間稼ぎしている間にレイラが連邦軍に通報、応援要請したのであった。流石に複数の駆逐艦には敵わぬとモルガン船長はその場から脱出を試みる。が、マローダーが一瞬の隙を見てブースターにブラスターの一撃を撃ち込み推力を半減させた。アルゴ号は連邦の駆逐艦に包囲され、海賊達は御用(逮捕)となったのである。

連邦軍駆逐艦・旗艦エンデバーよりマローダーの二人に入電。モニター越しの艦長の顔は旧知の戦友、ジョシュアだった。タケルもゴウも、無論ジョシュア本人も驚いた。

「お前達、久しぶりだな。まさかこんな所で再会するとは」

ジョシュアの言葉にゴウが答える。

「おう、暫く見ない間に随分と偉くなったもんだな。今や司令官殿か」

「久しいな、ジョシュア。いや、ジョシュア大佐か?寸での処で助かった、ありがとう」

タケルの台詞にジョシュアはクスっと笑った。

「相変わらず堅物だな、タケル。そんなだから上司と衝突して軍を辞める羽目になるんだ」

タケルはむっとして言い返した。

「大きなお世話だ。辞めたお陰で今はストレス0だぜ。まあ金回りは悪いがな」

「そうか。断言は出来ないが海賊退治には軍も苦労していてな、特にアルゴ号のモルガンはギルドの幹部だから其なりの報償は期待して良いぞ」

ゴウは色めきたった。

「マジか⁉ボクちゃんハッピー♪」

ジョシュアは爆笑。

「兎も角貴殿らの勇気ある活躍には感謝している。上層部にもSIA(S-1グランプリ主催)にも進言しておくからな」

捕まったモルガン船長が割って入ってきた。

「覚えてろよ‼てめぇら、この借りはぜってぇ返してやるからな❗」

捕らえられたモルガン船長は棄て台詞を吐きながら連行されていった。

「また何処かで会えるといいな。それまで達者でいろよ」

別れの挨拶と共にジョシュアは艦隊を率いて去って行った。

「これにて一件落着、てか?」

ゴウのおどけた台詞にタケルはハッと我に返った。

「そうだ、レースの続き‼戦線離脱した俺達は最下位どころかリタイア扱いだぜ」

「だな。これで栄光のS-1パイロットもお払い箱、明日からまたしがない貨物輸送船乗りだ」

ゴウは肩を落として相槌を打った。するとレイラが事務的に語った。

「心配には及びません。今回の騒動でレースは一時中断、皆が事の顛末を見守っています。事態が収束次第再開するそうです」

二人は思わずハイタッチした。

「やったな、首の皮一枚繋がったぜ!」

三人を乗せた飛燕は大急ぎで離脱した地点に戻っていった。


再開されたレースではPAN-NAMが大方の予想通り優勝、2位ユナイテッド、戦闘で損傷の多い飛燕は何とか3位に食い込む。表彰後でのパドック。スタッフ全員が揃う中、チーム統括の嶋津監督から訓辞があった。

「諸君、ご苦労様でした。アクシデントがありながらの3位は立派なものです。S-1サーカスはまだ始まったばかり❗次回の金星戦はチャンピオンを目指してチーム一丸となって頑張って行こう‼」

嶋津監督の話も二人には自分達の処遇の事で頭に入らない。監督は続けた。

「時にタケル、ゴウ。今回の事件に対する活躍とレースでの功績。何より太陽系連邦軍本部とSIA運営委員会の賛辞及び進言により正式に我がチームの選手に採用する。残り22戦、年間チャンプ目指して頑張ってくれ」

驚愕である。二人は抱き合って歓びを体現した。

「最高だぜタケル!これで貧乏暮らしとはおさらばだ」

ゴウが歓喜していると嶋津監督は更に情報を付け加えた。

「で、レイラの件なんだが…製造元のi-android社は金銭次第でなんとか説得できたんだが、提携のPAN-AMが難色を示していてな」

タケルは覚悟した。ゴウは苦渋の表情である。

嶋津監督が続けた。

「ところが、だ。奴さん達のサポート機も例の海賊にやられていてな。お前さん達がやっつけた事で英雄視されたらしい。特別にレイラのみ、譲ってくれる事になった。何でもレイラはプロトタイプで汎用型がもう出来てるそうだ」

ゴウは目を見張った。

「監督、本当ですか⁉タケル、こんなに上手くいって大丈夫か?もう運を使い果たしちまうんじゃねえか⁉」

「何言ってるんだ、ゴウ。俺達の努力の結果だ。甘んじて受けいれようぜ」

二人の会話に嶋津監督が割って入った。

「それとな、軍と委員会から其々報償金が出るそうだ。ウチからも臨時ボーナスを出すらしい」

二人はレイラを抱き締めたがレイラは何でされているのか理解できない。歓喜の声は火星の空に響き渡っていた。


ー第一話・アステロイドグランプリ 完ー

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