健康勇者 〜国王「お前はこれから魔王討伐の旅に出るのじゃ」勇者「断る」〜
「よくきたな勇者よ、お前はこれから魔王討伐の旅に出るのじゃ」
「断る」
「そうかそうか、喜んで引き受けて……って断るんかあああい! なんで? 普通ここは受ける流れだよね? どうして断るの? お前、勇者の子孫だよね」
「そうだ、俺の使命は魔王を討伐することにある」
「なるほど、討伐する気はあるのじゃな。ならば今どうして断った?」
「お前に指示される筋合いはない。そう言うのは城の衛兵にやれ」
「ぐぬ……、わっ、わかった。わしの頼み方が悪かったのだな。では勇者よ、お前は自分の意志で魔王討伐の旅に出ると言うのだな?」
「出ない」
「そうか、それならわしも文句は……って出ないんかああああい! なんで? 魔王はめっちゃ悪いやつだし、世界が闇に飲まれるよ? お前、勇者の子孫だよね」
「そうだ、魔王は俺が倒す」
「う、うむ。その言葉は頼りになるが、ならばなぜ旅に出ない」
「魔物が邪魔だ」
「えー……、そりゃまあ人間の邪魔をするためにいるからね、あいつら。だってそれがあいつらの仕事でしょ? だから、その魔物どもを魔王城を目指す途中に討伐して、経験値積んで、レベル上げて、それで魔王を倒せばいいじゃないか」
「勇者の相手は魔王のみだ、雑魚はお前ら雑魚が片付けろ」
「わしらまで雑魚呼ばわりかああああい!」
「不服か? 雑魚」
「お前、不敬罪でぶっころすぞ!」
「立場をわきまえろ、俺は勇者でお前は豪奢な椅子に座ったただの老人だ」
「よし、ぶっころそう! おい、そこの衛兵!」
「……はっ!」
「この勇者をひっ捕らえて牢屋に叩き込め! 少し灸を据える必要があるようだ」
「……畏まりました! おい、勇者! 両手を上げて後ろで組んでもらおうか」
「灸を据える必要があるのは貴様だ、『蹂躙する神殺しの雷槍』」
「超失礼致しました!」
「おい、衛兵。あの王様を牢に叩き込め。少し立場をわからせてやる必要があるようだ」
「……畏まりました! おい、王様! 両手を後ろで組んでもらえますか」
「その前に衛兵よ、お前が両手を後ろで組んでみてくれぬか」
「え? こうですか、おや? なんでそんな力強い拳を作っているのです? そして肩幅に足を開いて、腰を落とす。それから流水のごとき流れで静かに構えてから、私のがら空きの腹にめがけてズドンんんんん!!」
「弱卒はいらぬ。おい! そっちの衛兵、代わりに行け」
「……は、はい。あの王様……その前に少しばかりよろしいでしょうか」
「なんじゃ」
「あの勇者……ちょっと卍入ってるけどほんとヤバめって言うかあ、ここは一回チルした方がよくない?」
「…………なんつったお前。ま、まんじ? チル? てかよくない、ってお前も王様に向かってなんつー口の利き方しとるんじゃ! お前もしばくぞ!」
「いやいや、でもね、ここはちょっと一回さ、みんなでファミレスでも行ってパフェでも食べながらワショーイすれば、バイブス上がるっしょ! そしたらすぐニコイチっすよ!」
「……おい、勇者よ。雷槍をこいつに触れさせるとどうなるか見せてみろ」
「ええー? MJK、そんなことしたら俺ロスしちゃうよおおおおおお!」
「……ろくな衛兵がいないようだな」
「ふん、わかっているのか? お前は今、衛兵を手にかけた。その上、国王を敵にしてはこの国に貴様の居場所はないぞ」
「よその国に行くだけだ。お前こそ、勇者のいないこの国に未来はないぞ。魔王に滅ぼされた後、ゆっくり世界を救ってやろう」
「……ふん、口の減らないやつじゃ。結局のところお前は何が望みなのじゃ」
「最初に言った通りだ、魔王を討伐する。そのために魔王以外の魔物は全てお前らが討伐しろ。そうすれば魔王自らこちらに向かってくるはずだ。俺はその時まで力を磨いていよう」
「……なるほど。魔王対勇者の決着を持って世界の未来が決まるなら、人類が全力で支援するのは当然ということか」
「……? 当然だろう。まさか気づいていなかったのか」
「うむ、勝手に倒してくれると思っとった」
「……その間、お前は何しているつもりだったんだ」
「城でゴロゴロしておる」
「この雷槍……お前も少し触ってみるか?」
「お断りじゃ。だが、それだとお前も困りはせぬか? 古来より魔物を討伐することで経験値を積み、勇者は力を高めてきたというがお前はどうやって強くなるつもりだ?」
「体づくりの基本は食事と適切な運動、そして睡眠にある」
「……なんて?」
「聞こえなかったのか? 食事と運動、そして睡眠だ。それだけで人は無限に強くなれる」
「いや、経験値は? 倒すともらえるよね、レベル上がるでしょ?」
「あんなのはまやかしだ」
「まやかしじゃねーよ! ちゃんとレベル上がってHPも上がるし、ステータスも上がるだろ!」
「仮に強い敵と戦ってレベルが上がったとしても……それは肉体に負荷をかけた結果だ。確かにトレーニングにはなるだろうが、狙った部位を鍛えるなど不可能だし何より非効率だ」
「実戦だからな? トレーニングじゃねーから」
「しかも自分に適切な負荷を掛ける魔物を探して討伐するなど現実的に困難だ。怪我のリスクも高い」
「怪我のリスク」
「重要なことだ。長く現役を続けたければ怪我のリスクは無視できない。敵の攻撃はただ俺の身体を傷つけるだけで、強く鍛えてくれることは一切ない」
「敵も鍛えてるつもりは一切ないからな。トレーナーではないぞ、魔物は」
「さらに旅の途中で、きちんとした栄養を確保できるかも心配だ。肉体はただ痛めつけるだけでは強くならない。タンパク質や豊富なビタミンなどが含まれた十分な食事も必須なのだ。そして最後に良質な睡眠だ。ジジイは人間がいつ強くなるか知っているか?」
「……敵を倒して経験値が手に入った時だろう。レベルが上がれば力の上昇を実感できるはずじゃ」
「それは錯覚だ」
「錯覚じゃねーよ!!」
「答えは、寝ている時だ。昼のトレーニングで傷ついた筋肉は睡眠時に回復することで以前より強靭になる。それが繰り返されることで人の身体は強くなる。これを超回復と呼ぶ」
「……じゃ、じゃが」
「いいか、ジジイ」
「……なんじゃ」
「あんたは少しゲームのやりすぎなんじゃないか? それじゃゲーム脳と呼ばれても仕方ないぞ」
「黙れえ小僧おおおお! やはり今この場でしばいてくれる『魔を穿つ灼熱の双拳』」
「ほう……、人の王もなかなかやるではないか。見直したぞ『蹂躙する神殺しの雷槍』」
「……あの、二人で魔王討伐に行かれてはいかがでしょうか」