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33 山賊

 抵抗も何もできなかった。大きなマントへ布団のようにくるまって身動きができなかったのも仇だった。山賊達に剣で脅かされながら立ち上がると、武器を外され縄で縛られ、木の根元へ文字通り転がされる。

 どうにもならない状況の中、聞きたくもない山賊の下卑た声が耳に入ってくる。お決まりの慰みものコースの後、売り払いだ。

 だがお楽しみはこの場では許されず、アジトへ連れ込んでとの取り決めが下衆にもあるらしい。

 今すぐは何もないと知った俺は密かに安堵をしたが、続いて聞こえた言葉に絶対に逃げる決意を固めた。


「今から戻って昼過ぎか。なかなかの上物を捕まえたし夜が楽しみだぜ」

「俺の番までどのくらいかかるんだ⁉ くっそ、アジトにいる奴ら、どっか狩りにでも行ってろよ!」

「俺達以外に戻ってないのを淫欲の神にでも祈っておくんだな、くくく」

「誰かアジトの様子を見て来いよ。お楽しみの準備もしておけば手っ取り早く始められるぜ!」

「前の女は全員終える前に使い物にならなくなって、売り飛ばすのもできなかったからな」

「お前がおかしな道具を使うからだろうが、ひゃあははは!」


 反吐が出そうだ。胸糞の悪い。

 スーは、かわいそうに顔を真っ青にして震えている。


 クルリンパの神様!

 フレアバード‼

 誰でもいい、この状況をなんとかしてくれ‼


 藁へもすがる気持ちを抱き、心の中で叫び続ける。

 来るはずがないのはわかっているのだが、必死に何かを考えていないと気が変になりそうだった。

 こうしている間も、不愉快な山賊どもが俺やスーの顎を持って品定めをしながら体をまさぐってくる。

 勝手に一人で興奮したムサ男の荒い息が、また臭いこと臭いこと。

 マジで吐きそう。勘弁してくれ。

 だがここで、イヤとか、ヤメてとか口にするのは逆効果。

 男だった俺はとてもよく知っている。

 ましてや涙を浮かべて哀願なんて、クソヤロウ共の嗜虐欲を煽るだけだ。


 だけどそろそろ我慢の限界。

 俺は溜めた唾を目の前のクソヤロウに向けて思い切り吐きつけた。


「汚ねー手で触んな! お前、臭いんだよ‼」

「このクソアマがっ‼」


 クソヤロウは、クソアマらしい俺のほっぺたを力いっぱい叩こうとして、仲間に腕を掴まれた。


「商品に傷つけるんじゃねえよ」

「だがよっ」

「そんな時は体にしておけっ」


 仲間の男は、俺の腹を思い切り蹴り上げる。

 痛ってぇ! 

 声は絶対に上げないと決めていたから無理矢理抑え込む。だけどクソヤロウのせいで気分が悪くなっていたところだったので、おもいきり腹にあったものをぶちまけてしまった。

 更に吐しゃ物で息がつまりそうになって、俺は体を丸める。ロの中を酸っぱい物が広がりつんと鼻を突いた。


「ひゃははは‼ お前の方がくせーんだよっ!」


 どうやらかなり気に障っていたようだ。

 唾を掛けてやった山賊が、俺のゲロを見て嬉しそうにところ構わず蹴りを入れて来た。

 肩、痛くない。背中、痛くない。膝頭、痛い。太もも裏、痛くない。後頭部、痛くない。ふくらはぎ、痛くない。師匠のところで確認したよりも広範囲がわかった。


「ヤメテなのですっ! お願いなのですっ‼」


 俺の隣でスーが泣いて叫んでいる。

 そんな顔をするな、俺は大丈夫だ。

 腹以外はさほど効いていないと、側へ行って教えてやりたいができない。

 若い女の子が弱音を吐かなさすぎるのも不自然だとスーを見て思った。少しは悲鳴っぽいものを口にして、やられたフリを始めたら急に攻撃が止まった。

 俺が目を細めて様子を窺うと、山賊は足を抑えてうずくまっている。俺もすかさず気を失ったフリをした。


「プリちゃんっ‼」

「こ、これに懲りたら俺様へ反抗的な態度は止めておくことだ! そっちの女もだぞ!」


 最後にもうー度、山賊が俺の尻を蹴ったようだが、最初の勢いはまったくない。きっと自分の足を庇ったのだろう。おかげで俺は自分の強化された部分が確実に理解できた。

 単純に考えると、盾だった俺がプリに背負われていた時に守れる部位に一致している。

 こんなことを密かに試していたなんて知れたら間違いなくスーに怒られるだろうが、縄を切る方法も思いついた。


 極端に言えば、逃げて背中の縄へ斬りかかられてもいいのだが、スーを人質にされて戻れと脅されたら、俺は言うことを聞かざるを得ない。わざと斬られるために逃走はやめておくべきだ。

 一番地道なのはどこかでこすって切ることか。木にもたれかかるなり、地面の石にこすり付けるなりすれば、俺の背中なら何も問題ない。どれだけ見逃してくれるかだ。

 俺はようやく気がついた態を装い目を覚ました。


「プリちゃんっ⁉」

「静かにしてくれ」

「でもっ」

「今の俺はプリじゃない。大丈夫だ」

「わ、わかったのです」


 余計な注意を惹きたくない俺は、低めの厳しい声でスーを制した。

 カッシーであるとの意図もすぐに理解してくれた。

 ゴメン、心配してくれてるのに。後で謝るから。

 しかし、めぼしい岩もない。もたれかかれそうな木は既に山賊が使って居眠りをしている。

 火の回りには二人だけ見張りが起きているが、酒が回ったらしい他の奴らは、高いびきで眠りこけている。賊の人数は八人。


 俺が気絶をしたと考えて油断しきっているのなら、今が一番逃げ出せるチャンスが高い。

 奴らは、アジトまで俺達をできるだけ傷を少なく歩かせるつもりなので、武器や荷物は奪われたが衣服はそのままだ。

 何気にこれが一番ありがたかった。

いつも読みくださいましてありがとうございます。

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