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26 新村長代理登場

 何処の世界でも、成れる人間と成れない人間には絶対的な差がある。

 才能なのか適性なのか。もっとこの世界らしい不思議な条件なのかはわからないが、それをどうしても今知る必要性は感じない。


「悪かったな、俺って何も知らないから」

「それはいいのです。プリちゃんはカッシーさんでしたから。でも早く剣を手に入れなきゃです。次の町で鍛冶屋さんか武器屋さんにでも行くのです」

「剣を持つのはいいが、そもそも武器自体をお前は扱えるのか?」


 何時まで経っても入口から出ない俺達を待てずに、マットがやって来た。この言葉は、シルビアでの襲撃時の俺の対応も含んだ疑問だろう。


「使ったことなんてないし、マットが教えてくれよ」

「お断りだ。面倒くさい」

「やっぱりか」

「俺よりも師匠に頼めばいい。あの人は若い女の子が好きだから、やらしく――やさしく教えてくれるだろうよ」

「……今、言い直しただろう」

「ん?」

「とぼけやがって。まあ、男なんてどこでもそんなものだ」

「若い女の子のくせに、妙に理解が良いな。男っぽい格好やしゃべり方をしていると、考え方もそうなるのか?」

「お、おお、そうかもな」


 不思議そうに首を捻るマットを見て、ふと思い出した。

 今一つ実感は湧かないが、俺、女の子。


「しかしどうするかな、誰かフレアバードの面倒を見れる人間はいないか?」

「でなければ、何時までもこの村に居ることになるのです」

「俺は構わないぞ。何だか面白そうだしな」

「だったらあんたが村長やれよ」

「残念ながら無理だ。ついさっきも、フレアバードが飛んできてここへ行けって。嘴で俺を突いて向かわせるから来たんだぞ」

「フレアが?」

「クエクエ言って何のことが全然わからんかったが、来てみたら、お前達と会う前にオークと遭遇だ」


 想像だけどフレアバードはあの大狼の存在を感じたから、マットを寄越してくれたのではないだろうか。Bクラス冒険者のマットで勝てるかわからないが、大狼も入口にマットがいたから、引き下がったのかもしれない。


「――そうか。マットもありがとうな。フレアにもお礼を言いに行かなきゃだ。まだ村か、村長の言ってた大樫のところか、どっちだろうな?」

「大樫に戻ったはずだ。けど行くならお前達だけで行けよ。俺は疲れたから村へ帰る」


 マットと別れた俺達は、村の入口手前の脇道を左手へ進み、大樫を目指した。  

 大狼やらオークを見て神経質になったのかもしれないが、周囲に何かがいそうな気がする。


「スー、おかしな気配はないか?」

「特にはないです」

「何か視界に黒い影が走ったような」

「マットさんはもう村でしょうし、フレアちゃんのところはまだですし、特に危ない感じはないのです」

「そっか。気のせいだな」


 俺よりも鋭い感覚を持つスーが察知しないのなら、大丈夫だろう

 それでも周囲への警戒を怠らず、暫く木々の間を進み、目的の木の根元へと俺達はやってきた。

 確かに立派なものだった。高さは二十メートル以上ある。幹回りも、大人が三人で手をつなげば何とか抱えられるほど太い。

 ここにフレアが居れば、村が守られるのも何となく納得できる。

 木の大きさと守護獣フレアバードに圧倒されるのだろう。


 見上げた大樫の枝は細い木の幹ほどある。かなり高い位置に鳥の巣のような塊があったが、フレアの姿はなかった。俺達が無事戻るのを、確認しに行っているのかもしれない。

 スーも同じ考えだったので、すぐに村へ引き返すことにした。

 滞在先の家の前まで戻ると、入口には人だかりができている。

 思ったとおり、でかいヒヨコが待ってくれていた。


「フレア、マットを寄越してくれてありがとうな」

「くえーくえくえっ(ご無事でよかったですっ)!」

「ああ……あ? 今、ハーピィじゃないのに、お前の言うことがわかったぞ⁉」

「くえくえくーえ(これが最終的な理想形です)」

「だったらムンムンおねーさんは何のためだ?」

「くええ、くえええくえ(人間の、モチベーション維持のためです)


 なるほど理に適っている。男だったら目の前にきれいなおねーさんがいたら、コミュニケーションのために必死にもなる。

 スーにも確認をしたら、今はヒヨコがクエクエ言っているだけらしい。

 俺とスーでも、フレアバードへの感じ方に差があることがわかった。


「そうだ、これも記録に残そう」

「くえ(記録)?」

「日課みたいなものだ」


 俺は荷物の中から書くものを取り出して、ミランの町で始めた日記をつけ始めた。一方でスーは、道具の手入れをしている。

 腕やら靴やらにスーは刃物を隠しているので、汗を掻いたりすると刃が汚れるらしく、頻繁に磨いている。

 自分で書いているのに言うのもおかしいが、紙面の文字は間違いなく習ってもいない。当然日本語でもない。


「くえ、くえくえくくえ(今日は、あの木まで行かれたのですか)?」

「ん? フレアはこれが読めるのか?」

「くえ(もちろんです)」

「……じゃあ書けるか?」

「くえ、くええ(今は、無理です)!」

「んなことはわかってる。ムンムンおねーさんのときだ」

「くえ(書けます)!」

「――よしっ‼」


 俺は急いで外へ出て、スーダンを大声で呼んだ。


「おーい、しょんべん小僧!」

「誰がだ‼」

「お前、字の読み書きができたよな?」

「お、おう、まあな」


 少し向こう気の強そうな顔をした若者が鼻の下を指ですすり、とても自慢げな表情を見せる。

 やっぱりやめようかと思ったが、背に腹は代えられない。


「お前が今から村長だ。フレアと意思疎通しろ」

「何だと?」

「ちょうど良かったじゃないか。名誉挽回にもなるぞ」

「お、おう?」


 目をキョロキョロとさせるスーダンをほっぽり出し、俺はフレアバードを連れて村長に事情を説明した。

 最初はスーダンが一方的に読み書きをするが、必然的に親密になる。そのうちムンムンおねーさんも見えるようなるだろう。色気にやられて彼女にフラれなければいいが、そこまで責任は持てない。

 フレアバードが妙にあっさり納得してくれたのは拍子抜けだったが、俺はほくそ笑みながら、村を去ることに成功した。

お読み下さいましてありがとうございます。

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