23 新村長誕生!?
「それでフレアバードが棲みつく木ってどこにあるの?」
「これまでの記録から、村の周囲では二本しかありません。そのどちらかと思われます。少なくとも樹齢二百年を超える大樫にのみ巣を造られます」
村長たちにはわからないだろうが、自然と俺に懐くわけだ。ヒナでこの大きさなら成長したら更に重くなる。堅い木を好む理由ももっともだ。
これを聞いた俺は吹っ切れた。
「フレアバードが居れば何か良いことをしてくれるのか?」
「いやですねぇ、そんなこと私の口から言えるわけないでしょう」
おい村長! ニヘラって笑いながらおかしな返事をするな!
普通に聞いているのに話がややこしくなるだろうが。
「例えばさ、雨を降らしてくれるとか、豊作になるとかだよ!」
「特にはありません」
「は? だって聖なる守護獣だろう?」
「見れば幸せな気持ちにさせてくれます」
……村長、あんたはさっきから色っぽいハーピィねえさんの話しかしてねーぞ。
ニヤけたこの爺を見ていると、真剣に聞くのがだんだんアホらしくなってくる。
「何かあるだろう?」
「これと言って――いいえ、村の入口にフレアバード様が居られるので、魔物や厄介なもの達が入って来ようとしないことは、大きいかもしれません」
やっとまともなことを口にした村長の言葉は、決して無視ができない。
フレアバードがその木へ居つかなくて、俺のせいで村が襲われたなんて言われたら非常に寝覚めが悪い。
「わかった。こいつも親の後ろを何時までも歩いてはいないだろうし、それまでと諦めるか」
「ありがとうございます」
「ちなみに前のフレアバードは、どのくらいで親離れをしたのか覚えているか?」
「二、三年でしたかな」
「長い‼」
「本当にエロかわいくて」
……あんたが子離れをしたくなかっただけじゃないか?
だが三年はあり得ない!
「フレアバード、今すぐ親離れしろ」
「残念ですが仕方ありません。わかりました」
「へ?」
勢いで言ってみたら通っちゃったよ。
開いた口がふさがらない俺の様子がおかしいのか、ムンムンおねーさんはクスクスと笑っている。
「だってプリ様は、もう私の顔も言葉もおわかりでしょう?」
「あ、ああ」
「親離れと言うよりは、人間側がフレアバードに心を開いて、言葉が交わせるようになったら離れるのですよ。プリ様のように最初からこれだけわかってもらえるのは特別です。でも、少しだけ私を見失われたでしょう?」
「さっき鳥に戻っていたな」
「私は何も変わっていないのですが、プリ様には鳥に見えた。そういうことです」
「こちらの気の持ち方に影響されるんだな。普通は村長の言ったとおり二年くらい必要なのか?」
「少し長すぎる気はしますが、一年くらいは必要でしょう。私達が棲みつくことへ畏怖を感じたり、邪険に扱わないよう人間へ伝えるための姿形なのです。少しでも忌避の気持ちがあれば見えなくなります」
「つまり摺りこみでもなく、親離れでも何でもないと?」
「言い換えれば慣れあいの時間です。卵へ近づくということは、興味を持ってくれている人の可能性が高いです。こちらも接触をしやすいのです」
「確かに、マットなんか近寄りもしなかったからな」
「けれどフレア的にはもう少し一緒に居たいので嬉しくないです。プリ様は不思議な匂いがしますから」
クンクン。
俺は自分の腕や肩を嗅いでみた。
最近水浴びもしてなかったから気になるか?
俺のしぐさを冷たい目で見るフレア。
スーは寝ているので最初から除くが、他の者達はフレアの言葉が鳴き声としか聞こえてないので事情もわからず、ポカーンとしている。
「冗談だよ、そんな目で見るな。でもこれで俺は村長にならなくてもいいんだよな?」
「そうなってしまいますね」
「本気で焦ったぜ。よし、じゃあそういうことだ。スー、起きろ。マットも帰るぞ」
「ふぁーい?」
「本当にいいのか?」
「大丈夫。フレアと話はついた」
「そうなのフレアちゃん?」
「親離れと言う点はそうです。フレアは何時でも村を出て樫に住みつきます」
「じゃあ、村でフレアちゃんと話ができる人は誰ですか?」
「スー、このバカっ。勢いで逃げ出そうとした俺の緻密な計画が!」
「――どこが緻密だ」
マット、冷静に突っ込むな。
仕方がないので俺は元凶へ助けを求めた。
仮にも守護獣と呼ばれるのだし、何か妙案を持っているかもしれない。
「フレア、どうしたらいい?」
「クエッ?」
ああ、愛くるしくて抱きしめてそのまま首も絞めたくなるな。
肝心な時に鳥になりやがって……いや、人間として見えるには俺がおかしな気構えをしていないことが必要で、どう見えるかも俺次第だ。
村から逃げ出すつもりなのはフレアからも逃げることになるし、忌避と思われたか。
ったく、面倒だけど仕方がない。暫く逗留して考えよう
「と言う訳で、ちょっとだけここに滞在だ」
「わかりました、新村長!」
……スー、意味不明の敬礼をしておかしな掛け声は止めてくれ。既成事実になってしまう。
お読み下さいましてありがとうございます。




