22 ヒヨコがハーピィ?(挿絵あり)
フレアバードと聞いてからは、マットも無理に抵抗する気はなくなったらしく大人しく従っている。
俺は一体何を申し開きすればいいのだろうかと考えつつ、連れて行かれたのは祠から一日も掛からない距離の小さな村だった。
細い丸太組みの入口から見えた簡素な木の家の数から想像すると、住人は百人にも満たないだろう。
村の中でも比較的大きな家に連れて行かれると、玄関口で出迎えた小柄で白い髭を蓄えたじいさんは俺の手を取って嬉しそうに告げた。
「次の村長はあなたです」
知らねーよ、本当に。
勘弁してくれ。
うんざりする俺の周囲を村人たちが取り囲んで、口ぐちに言いたいことを言っている。責められたり殺気立ってもいないので身の危険はないが、面倒には違いない。
「祠へ行った者の話だと、あなた様はいきなりフレアバード様と言葉が交わせるらしいですね」
「なんとなくなだ」
「やはりあなたしかいない」
「だから知ったこっちゃないんけど」
「本当にうらやましい」
「いくらでも変わってやるぞ。こんな鳥に興味ねーし、用もない」
「あら、つれないことを言ってくれますわね、プリ様」
「だ、誰、あんた?」
村長宅で聞き分けのない村人達と押し問答をしていたら、唐突に刺激的な格好をしたムンムン系のおねーさんが現れた。
「ひどいっ、わたくしを忘れるなって!」
「あー、フレアちゃんだー」
「スー様、そうです、フレアです」
「フレアって……まさか?」
「はい、フレアバードです」
「ちょっと待って! どう見ても大人のお色気ムンムンおねえさんにしか見えないだろう‼」
「やはりスー様とプリ様には、フレアバード様が見えているのですね」
スーがフレアバードらしいおねーさんの両手を嬉しそうに握って、ブンブン振り舞わす様子に、村長がおもむろに呟いた。
でかいヒヨコがムンムンおねーさんに変身とはさすがファンタジーな世界。
俺にはまったく信じられないが、スーがいきなりわかったのはどうしてだろう。
「スー、本当にフレアなのか?」
「翼も瞳もヒヨコのフレアちゃんと同じ色なのです」
「……それだけ?」
「はいですっ」
自信満々に言い切る我が相棒殿。
ま、まあ、普通の人には翼は無いから、言っていることは何も間違ってはいない。しかしフレアと断定するのはどうなのだろうか。
「村長には見えてないのか?」
「先代のフレアバード様は見えておりました。今は大きなヒヨコにしか見えないことが、男として本当に残念でなりませんっ」
「あ、そう……」
いい年をして心底悔しそうなのはどうなんだと思わなくもないが、男のロマンに年は関係ないのだろう。この状況では、逆に説得力が増すのは何とも複雑な気分だ。
「本当にあんたも見えていないか?」
俺は念のためにマットへ確認をすると、マットも苦笑いしながら頷いた。
どうも厄介な方向へ事態が動き始めている気がする。
俺よりわかっていそうなスーは……いつの間にか寝てる。
「こらっ、起きろ‼」
「あー、プリちゃん。スーは疲れて急に眠気がぁ……お休みなさい」
「さっきまでフレアと遊んでただろうが!」
おいおい村人たちよ、説明を求める視線を集中させるな。
俺だってわけわかんねーよ‼
弱り切ってフレアを見たら、また鳥になってるし……。
俺も疲れているのか?
「プリ様、そんなに大した話ではありません。フレアバード様はとても大きな木の幹に巣をつくって番で住まれます。それを見届けるだけのお役目ですから」
「でも村長なのだろう?」
「呼び名だけで、実際は普通の村人です」
「どういう意味だ?」
「村のことはみんなで話し合って決めますので、代表でフレアバード様と交流を持つ者程度の意味でお考えいただければ」
「実際に村を治める必要はないと?」
「ええ。今回のように新たなフレアバード様が来られると、村長も新しくなります」
考えていたほど深刻な状況ではないことに安堵した俺は、もう少し詳しく話を聞くことにした。
「フレアバードが巣をつくる木って何だ? フェニックスの系譜なら山とか岩場のほうがいいだろう? 燃えるんじゃない?」
「フレアバード様はフェニックスとハーピィの混合種です。火の魔法を出されるところを私達は見たことがありません」
「つまり使えないのか?」
「伝承では使えるとはなっていますが」
自信がなさそうな村長の言葉に、改めてフレアを見るとムンムンおねーさんに戻ってる。どうすればこうなるのか基準がわからない。
「今の話聞いていたか? どうなんだ?」
「私のような若輩者ではフェニックスの足元にも及びませんが、一応は使えます」
「一応?」
「バード時に限られるとか、一日一度とか制限があるのです」
ムンムンおねーさんのハーピィ時に使えないのは何となくわかる。回数制限も、単に純粋種ではないので力が弱くなっているのだろう。
徐々にだが状況は呑み込めてきた。
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