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17 高い報酬の理由

「マズイな、ちょっと多すぎる。せめて四辻でなければ良かったのだが」


 マットの腕が立つのは間違いない。スーもそこそこ戦える。俺だけが完全にお荷物だ。マットは俺を庇いながら戦わざるを得ず、憂慮の表情を浮かべる。


「五、三、三、二。右が比較的手薄なのです!」

「お前達はそちらへ向かえ、俺は背後を守る!」


 夜目の効くスーが素早く状況を確認して逃げ道を見出すと、マットに返事をすることもなく俺の手首を掴んで路地へと走り込む。

 待ち構えていたのは二人の黒ずくめだったが、細い路地なのに大きな剣が逆に仇になった。振り回すことができずに直線的な攻撃ばかりだった。

 スーはそれらの届く前に俺の手首を離すと、路地の脇に積まれた木樽へ飛び乗り、見事な跳躍で二人の背後へ素早く降り立った。

 彼らの狙いはこちらの読み通りだったらしく、黒ずくめは俺に見向きもせずにスーを追い掛けようとした。


 いくら俺でも、目の前から敵の剣がなくなり、背中を向けられたら何とかできる気がする。いっそのこと手にしたメイスをぶん投げて当たれば、かなりのダメージを与えられるだろう。でも外れた上に無手になっては目も当てられない。

 やはり普通に背後から攻撃を仕掛けることにして、メイスを振りかぶって追い掛けたら、いきなりけ躓いた。


「うおっ⁉」

「プリちゃん⁉」


 夜目が効かないことを忘れて、スーと同じように走ろうとしたのが失敗だった。しかしこうなると、コケる時に手をつく準備としてメイスが邪魔になる。 

 そんなことを冷静に考えたわけではないが、さっさと放り投げると、ゴイーンと鈍い音がした。スーを追っていた一人の頭に直撃したのはラッキーだったが、同時に俺も思い切り地面へ転がった。


「大丈夫か⁉」

「問題ない‼」


 すぐ後ろまで俺達を追って来たマットが敵を防ぎながらの怒鳴り声に、俺も大声で答える。結構派手に転んだが不思議とあまり痛くなかった。

 すぐに立ち上がった俺はメイスを拾うために駆け寄ると、敵もふらふらと立ち上がって俺のメイスを拾おうとしていた。


 武器を取られてしまっては何ともならない。幸い、敵も使っていた武器を転んだ拍子にどこかへやったようで手ぶらだ。

 俺はそのまま走る勢いを殺さず敵に体当たりをかました。フラつく男と俺が接触をすると、男は結構な距離を弾け飛んだ。

 重い鉄の盾を背負い続けて鍛えたプリの足腰に感謝だ。


 俺はすぐにメイスを拾い追撃に入ろうとしたら、相手はとっくに大の字になって気を失っている。そしてスーがもう一人を片づけて息を切らしながら戻って来たと同時に、俺達の背後が突然騒がしくなった。

 これまでよりも遥かに大人数の男達が現れたのだ。


「新手か⁉」

「すぐに逃げるのですっ‼」


 スーの声の切迫度が一気に上がった。本気でマズそうだ。

 すぐ目の前の路地には敵がいないので、走り出すなら今しかない。あんな連中に捕まったらどうなるかわかったものではない。

 俺はマットを振り返ったが、彼は何故か長剣を鞘に閉まっていた。


「おい‼ 降参する気か⁉」

「……心配ない、味方の到着だ。もう終わった」

「味方だと⁉」

「さっき言っただろう、俺達は囮にされたんだって」

 

 戦いは終わったと自分で言いながら、剣を握っていた時以上の不穏な表情でマットは答えた。

 俺も彼の視線の先を追うと、襲ってきた男達は新手といきなり剣を交え始めている。俺達の味方らしき者は圧倒的多勢で、路地に剣戟が響かなくなるのにそう時間は掛からなかった。


 俺とスーが呆然とする中、戦い終えた者達は三々五々に帰って行くが、その途中で一人の若い男から報酬らしき銀貨を受け取っていた。

 マットも大股でそちらのほうへ向かったので、俺達も遅れないように後を追ったが、若い男はマットの姿を見ると、口をとがらせて文句を言い始めた。


「言ったとおりの宿に向かってくれないと、段取りが変わって困るじゃないか! せっかく豪勢な宿を準備してやったのに!」

「――ディーノ、文句を言いたいのはこっちだとわかっているな?」

「も、もちろんだけど、そこは君と僕達の仲じゃないか、そ、そうだろ?」

 

 最初の勢いはどこへやら、マットの一睨みで尋問の書記役の若い男は急に小声になってしまった。


「ギルドとシルビと教会の悪巧みか? まさかフォレストが絡んでいないだろうな?」

「そ、そのフォレストも――」

「くそっ、いや今はいい。で、聞かせろ」

「エ――じゃない、Bクラス冒険者マットの見立てを事前に聞いたシルビのお偉方が、もし本当なら大ごとだから大至急背後を焙り出さなければ仰られ、フォレストとギルドも断れなかったのですっ」

「だったら前もって俺には言っておけ‼ こいつらを無駄な危険に巻き込んだことになるだろうが‼」


 マットは今回のイチヨ騒ぎがシルビを最終的に標的とした論を展開した手前、これ以上抗議をすることができないようで、俺達の前に来て深々と頭を下げた。


「面倒事に巻き込んで本当にすまなかった。ディーノ、お前も謝れ」

「は、はいっ。プリさん、スーさん、申し訳ありませんでした!」

「……だから報酬が異常に高かったんだな?」

「まあ、そういうことになります、かね?」


 単なるお使いクエストにしては、尋常ではない額が報酬欄に記載されていたので、何か裏があるとは思っていた理由がよくわかった。

お読み下さいまして本当にありがとうございます。


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