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14 回復後もひと騒動

 スーの完全回復を待って旅の準備を始めた俺達のところへ、とても疲れた顔をしたマットがやって来た。彼の大活躍は冒険者ギルドヘ顔を出すたびに耳にした。本当に忙しかったのだろうが、それらをおくびにも出さず、いつもどおり淡々とした様子だ。


「元気になってよかったな」

「はいなのですっ」

「マットがくれたバイタミンのおかげかな」

「だったら嬉しいが、全部よく飲めたな。マズかっただろう?」

「あ、い、いえ、実はあまり覚えてないのです」

「あの苦いのを覚えていない? まさか?」

 急にギクシャクした動きになったスーを横目にしながら、眉を顰めたマットが俺へ顔を向けた。


「いやいやいや、俺は飲んでないからな‼ 間違いなくスーに飲ませた‼」

「覚えてないらしいぞ? お前もあれの強烈な味は知ってるはずだろう」

「ね、熱にうなされてたからだろう‼ なっ、スー!」

「も、もちろんなのですっ! プリちゃんが優しく飲ませてくれたのですっ」

「はあっ!?」

「――そこは覚えているのか? だとしたら熱で味覚がなくなっていたのかもしれんな。新しい情報なので師匠に報告させてもらうぞ」

「き、きっと、そうなのですっ。スーが元気になったから、この話はもう終わりなのですっ!」

「そ、そうだよな! あまり気分良くないよな!」

 俺もこの話題には極力触れたくない。まだ不可解な表情をしているマットへ小さく首を振って止めるように頼むと、彼も小さく頷いてくれた。


「お前達は、体調も戻ってこれからどうする気だ?」

「じ、実はスーとの約束で、ダンジョンめぐりをすることになっている。この周辺で適当なのを探しながら、これまでどおり気ままに旅を続けるさ」

 マットの切り替えの早さに少し戸惑いながら、俺がこれからの予定を伝えるとスーがいきなり立ち上がった。


「そ、そうなのですっ! 今回のことで思い知りました! もっと力をつけなくてはダメなのです‼ この程度で体調を崩すなど、近頃良いものを食べすぎていたのですっ!」

 右拳を固めて天へ向かって振り上げたスーを、マットが困った顔をしながら見ている。スーは真剣にやっているだけに始末が負えない。

 しかしダンジョンめぐりは本当だ。プリとスーが行動を共にするようになってからは、クエストの合間を縫ってやっていたのを、盾をしていた頃の俺も覚えている。


 一度攻略がされたものにも暫くすれば再び魔物が棲みつく。その際、以前の魔物の臭いや痕跡が残るので、同種のものが棲みつく傾向が強く、未踏のダンジョンヘ入るよりは安全に経験を積むことができる。

 二人は俺とは違って向上心に富んだ女の子なのだ。


 そういえば魔物ってどうやって発生するんだろうな。

 あの神様は、生きてきた記録を総ざらいして俺を木にしたよな。つまり悪行を重ねたりした場合には、魔物にされているとかあり得そうだ。

 つまり元は人間もありえる?


 あまり考えると何もできなくなりそうなので、そのことは気にしないようにしよう。とりあえず魔物が出る。それは俺達に害悪をもたらす。だから討伐をする。

 しかし良く考えたら、スーがこれほどダンジョンにこだわる理由を今の俺は知らないので、いい機会だから聞いてみた。


「スーはどうしてそこまで強くなりたいんだ?」

「スーのお父さんはSAクラスのスカウトだったのです!」

「本当か⁉」

「それはすごいぞ」


 俺もマットも思わずうなった。冒険者にはSS、SA、A、B、C、D、Eとの7つのクラスがある。スーもプリもまだまだ駆け出しのDクラスだったはずだ。いわゆる伝説の英雄クラスがSSとされるが、実存はしないと聞いている。つまりSAが生きている者の中で最高クラスになる。出るところに出れば、かなり名前が知れ渡っている有名人でもある。


「でも前の戦争で敵国へ密偵をしていて、捕まって死んじゃったのです」

「――そうだったのか」


 うっすら覚えているこの世界の歴史をたどると、スーの父親くらいの年齢の人が戦死するような戦いが、シルビ公国内であったような気がする。などと思いを馳せていると、スーがペロッと舌を出した。


「冗談なのです」

「何⁉」

「……本当にプリちゃんじゃないのです」

「お前――」

「だって、スーがプリちゃんと思って色々しゃべったら、カッシーさんも困るでしょう? だから確認させてもらったのです」

「今さらだろう?」

「いえ、その……熱にうなされている時にプリちゃんを想い出させる出来事があって――でもカッシーさんもスーのお話を聞いていたはずですよ?」


 顔を真っ赤にしたスーが、寝台の上で体をモジモジと動かしながら俺を見る。

 以前の俺はプリに背負われて、いつも寝ている盾だったから、二人の会話などあまり覚えていない。

 頬を膨らませたスーの責める視線にさらされながら、俺はもう一つ不思議そうな目があることを思い出した。


 しまった、マットが居たのだった。

ご評価、ブックマーク、本当にありがとうございます!

とても励みになります。

おかげさまで本日、一話載せることができました。

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