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第5.5話 智花の様子が変です……【日常回その2】

 土曜日の夕方頃。

 シンは、散歩がてら。

 近くの繁華街を歩いていた。

 ネオンが、きらびやかに点灯している。

 今日の姫は、クラスメイトと遊びに出掛けていた。

 姫自身の為にも、たまにはそう言った交流が必要だろう。

 そう考え、笑顔で姫を送り出したのは良いが。

 シン自身、何もする事が無かったので。

『じっとしてるよりはましか』と、一人でブラリと外へ出たのだ。




「ん?」


 シンは、或る人影を見つけた。

 良く見るとそれは、〔智花〕だった。

 何やら周りを警戒しながら、目的地が有るのか。

 スタスタと、早足で歩いていた。

 ちょっとその光景が珍しかったシンは、好奇心で。

 こっそりと、後を付ける事にした。




 繁華街の奥へと、ドンドン進んで行く智花。

 シンは少し、心配になって来た。


「何か、いかがわしい事でもしてるんじゃないだろうな……。」


 変な事だったら止めないと、幼馴染として。

 シンは、そう考えていた。

 すると、智花は。

 明らかにキャバクラらしき店の入り口で、ふと立ち止まる。

 チカチカ光る看板を、智花は見上げていた。


「不味い!」


 咄嗟とっさにシンは、止めに入ろうとする。

 しかし、そこをあっさりと離れ。

 智花は直ぐにまた、スタスタと歩き出した。


「な、何なんだよ……。」


 ブツブツ文句を言いながらも、心の奥底では。

 シンはホッとしていた。




「あれ?」


 結局智花は、繁華街を抜けて。

 その先へと向かって行く。


「てっきり何処かの店に、用事が有るのかと思ってたけど……。」


 そして智花は、少し古びたビルの前へと辿り着き。

 横に在る階段を上って行った。


「一体、何が有るんだ?」


 気になったシンは、後に続く。

 二階に在るドアを開け、智花はスッと入る。

 ドキドキしながら、シンも。

 ドアの前に立つ。

 その横に書いてある文字を読むと……。


「……【手芸教室】?」


 そっと中を覗いてみると。

 20人程の人が、わいわいと。

 編み物やビーズなどの作り物をしている光景が見えた。

 その中に、智花も居た。

 真剣な眼差しの智花。

 へえ。

 あいつ、あんな顔もするんだな。

 シンは素直に感心する。

 すると智花が、シンの気配に気付いたらしい。

 急に顔を真っ赤にさせ、ズンズンとこちらへやって来る。

 他の人達の邪魔にならない様、ドアをそっと開けると。

 小声で智花が聞いて来た。


『こんな所で、何してんのよ。』


『それはこっちの台詞だ。』


 さらっと切り返すシン。

 智花が更に尋ねて来る。


何時いつから見てんのよ。』


『お前がここに入ってから、ずっとだよ。』


 追い返せないと思ったらしい。

 智花がシンに言う。


『な、内緒にしててよねっ!』


 智花は、教室へ引っ込むと。

 先生らしき人と、何やら向こうで会話している。

 その後シンは、特別に。

 見学と言う形で、中へ招き入れられた。




「ここは、いろんな物を作る教室なの。服とか、バッグとか、小物とか。」


 誤解を解こうと、シンに説明し出す智花。


「お母さんの友達が、ここの先生をやっていてね。紹介して貰って、通ってるの。」


「へえ。何の為に?」


 何と無く、シンが尋ねる。

『ここだけの話だからね』と断った上で、智花が答える。


「もう直ぐ楓ちゃんの誕生日でしょ?どうせなら、手作りのプレゼントが良いかなって。」


 なるほど、楓の誕生日は6月9日。

 今は、5月の下旬に入ったばかり。

 タイミング的には、ギリギリ間に合う時期だ。

 智花の心遣いに、素直に感心し。

 シンが礼を言う。


「いつも済まないな。」


「な、何かしこまってんのよ。当然じゃない。楓ちゃんは、私の妹同然だもの。」


 智花は一人っ子。

 兄弟が居なくて寂しい、そんな時。

 シン達と知り合った。

 智花は、楓をとても可愛がり。

 楓も、実の姉の様に智花へ甘えた。

 智花にとって楓は、シンよりも繋がりの強い相手なのだ。


「で、何をあげるつもりなんだ?」


「時間が無いから、小さなクマのぬいぐるみ。今はこんなのしか作れないけど……。」


 そう言い掛けて、智花はめた。

 そこへ。


「あら、仲が良いわね。智花ちゃんの彼氏?」


 如何いかにもお節介せっかいの塊みたいなおばさんが、智花に聞いて来た。

 また顔を真っ赤にして、必死に否定する智花。


「ち、違いますよ!ただの幼馴染です!」


「はいはい。じゃあ、そう言う事にしておきましょうか。」


『ふふふ』と笑いながら。

 おばさんは離れて行った。


「んもう……。」


 少しふくれっ面の智花、その表情に。

 不覚にも愛らしさを感じた、シンなのだった。




「絶対、内緒にしておいてね!誰にも言わない事!いいっ!」


 帰り道で智花が、何度も念を押して来る。

 智花の気迫に、押され気味のシン。

『分かった、分かったから』と答えるので精一杯。

 そんな無粋な真似をするつもりは、毛頭無い。

 シンは智花に、ポツリと。


「楓の奴、喜ぶと良いな。」


「うん。」


 久し振りに、シンと2人きりの帰り道。

 ちょっと嬉しい、智花だった。




 智花が手芸教室へ通い出した目的は、実はもう1つ有った。

 シンにも、手作りをプレゼントするんだ……。

 姫乃さんには負けないんだから!

 智花の野望は、まだ始まったばかりだ。

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