表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

第4話 虚像の中の虚像【ジャンル:洋画】

「これ、代わりに返しておいてくれないか。」


 父親からDVDを渡されるシン。


「じゃ、頼んだぞ。なるべく早くな。」


 そう言って父親は、書斎に戻って行った。

 パッケージの裏を見ると、あらすじが書いてあった。

 なになに?


 《主人公のジョンは、いつの間にか同じ日を繰り返している事に気付く。》

 《初めは〔これ幸い〕とばかりに、あらゆる悪行を尽くしていたが。》

 《突然訪れた或る出来事により、何とかこのループから出たいと願う。》

 《すると一枚の紙が落ちて来て、そこにはこう書いてあった。》

 《〔抜け出したければ、我の指示通りに動け〕。》

 《その後、変な指示が次々と続く。》

 《とうとう最後になった、その指示の内容は。》

 《ジョンにとって、到底受け入れがたい物だった。》

 《ループを抜け出すか否か、ジョンの究極の選択が迫る。》


「何だ、B級映画か。良くそんな物見る暇が有るな。」


 シンの父親は大手広告代理店に勤めていて、結構忙しい地位に居る様なのだ。

 それなのに、ゲームや映画鑑賞などの時間もきっちり確保する。

 かなりのやり手だ。


「この指示書を出している人って、どんな方なんでしょうね?」


 姫が横から、ヌッと顔を出す。

 軽い感じで、シンが答える。


「さあ。姫と同じ部類なんじゃないの?」


「〔部類〕は無いでしょう!……まあ、そう言った類の方が。私も納得出来ますけどね。」


 ムスッとした表情に変わる姫。

 余程シンの物言いが不本意だったらしい、機嫌を損ねてしまった。

 それを取り繕う様に、シンが姫に話し掛ける。


「どんな奴か気になるなら、入ってみるか?」


 実はシンも、その点に関して興味が有った。

 別の世界の神とやらに会ってみるのも、案外悪く無い。

 シンの心の内を感じ取ったのか、『しょうが無いですねぇ』と言った口調で。

 姫も同意する。


「それ位なら、シナリオに関与しないでしょうから。良いんじゃないですか?」


「決まりだな。」


 2人は早速、シンの部屋へ向かい。

 DVDを早送り再生して、最初の指示書が落ちて来るらしき場面で一時停止した。

 この期に及んで、姫が呑気な事を言う。


「何か、お土産をお持ちした方が……。」


「そんな事良いから、さっさと行くぞ!」


 もぅーっ!

 妙にあっさりしたシンの態度が気に入らない、姫なのだった。




 最初の指示書が落ちて来るのは、主人公のジョンの部屋。

 窓を通して部屋の中が見える場所へ、2人は現れた。

 元は字幕無しの英語バージョンだったが、力のお陰で日本語に聞こえ。

 標識などの文字にも、日本語訳が添えてあった。

 何とも便利な物だ。


「そろそろですね。」


「だな。」


 2人は呟く。

 部屋の中のジョンが、一生懸命に祈る。

 すると空中に、紙が一枚現れた。


「あれ?何も存在を感じないぞ?」


 不思議そうな顔をしたシンが、そう漏らす。

 ネタバレが嫌で、映画の中身を全く見ずに来た2人。

 中に入れば、簡単に確認出来ると思っていた。

 ところが。

 神の様な特別な存在は、全く感じられなかった。


「おかしいなぁ。神じゃ無かったら、何者なんだ?」


「〔差出人不明〕、ですか。ます々お会いしたくなりましたね。」


「しょうが無い、次に行くか。」


 この場面は早々に諦め。

 次の指示書が落ちて来るタイミングまで、2人は飛ぶ事にした。




 何回か、指示書が落ちて来る場面は有った。

 紙が現れるその度に、意識を集中して。

 何者かが居るかを探ったが。

 シンも姫も、存在を全く感じ取れなかった。


「是非ご挨拶したかったのですが、残念です……。」


 最後の指示書が現れる瞬間を見届けて、姫は残念がった。

 肩を落としながら、シンも呟く。


「職場の同僚みたいなもんだからな、姫にとっては。」


「それ、何かニュアンスが軽いですー。」


「冗談だよ。さて、戻るか。」


 そんな軽口を叩きながら、シンは思っていた。

 どうも、何かおかしい。

 そもそもこの世界に、神は存在するのか?

 と言うか、現実世界とこの世界をイコールに考えても良いのか?

 違和感が頭の中をぎったので、戻って映画を見ようとシンは考えたのだ。

 きっとその方が早い、謎の違和感も解けるだろう。

 姫も、シンの意見に同意する。


「そうですね。徒労に終わらせてしまって、申し訳有りません。」


 シュンとする姫。

 そんな姫の頭を、軽くポンと叩いて。

 シンはニコッと笑う。


「まあ暇潰しだったからな、元々。気にすんなって。」


「はい……。」


 まだ少し元気の無い、姫なのだった。




 映画を見終わって、二人は納得した。

 なるほど、そう言う事だったのか。

 確かに、これでは。

 あの世界で、神が不在になる筈だ。

 気持ちがすっきりした所で、シンは立ち上がる。

 コンビニに行くついでに、レンタル屋の返却口へこのDVDを突っ込んで来よう。

 そう思い立ったシンは。

『待って下さーいっ!』と叫ぶ姫を置いてけぼりにして、バッと玄関のドアを開けた。




 あらすじの下に表示されているジャンル、【SF】。

 それが全て。

 勘の良い方には、それでお分かりかも知れないが。

『それだけじゃ分からん』とおっしゃる方の為に。

 映画の中身を、別作品としてご用意致しましょう。

スピンオフの様な形で、この話の中に登場するB級映画の内容を、

「従え、さすれば報われん」と言う短編小説として公開しています。

そちらも読むと、今回の話がより良く分かると思います。

宜しければ是非、御一読下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ