表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

第3話 どんな時でも日常系【ジャンル:アニメ】

「面白いから見てみろよー。」


 時々シンは、リョウに追い駆けられる。

 執拗しつように、自分の好きなモノ(大抵2次元)を貸そうとして。

 シンを同志にしようと言うのだ。

 所謂いわゆる、〔布教〕と言う奴だ。

 今回は日常物のDVD、それも。

 女の子だけ出て来る、今流行りの作品。


「ちょっとだけでも良いからさ、な。損はさせないって。」


 この前も、その台詞を聞いたぞ。

 シンは、そう突っ込みたくなったが。

 何だかんだで今回は、リョウに押し切られた。

 事も有ろうに、姫が興味を持ってしまったのだ。


「姫ちゃんも、お目が高いねえ。ハマる事、間違い無しさ。」


 リョウのお世辞も、今日は3割増し。

 ご機嫌のまま、リョウは帰って行った。


「女の子達の日常を、ただ見てるだけなんて。本当に面白いのかしら?」


 帰る途中で、姫が呟く。

 智花が、それに同意する。


「さあ。あいつ、良く分かんないとこが有るんだよねー。」


 姫が転入してきてからしばらく経ち。

 姫と智花も、或る程度仲良くなっていた。

 心の奥底までは分からないが。

 それに伴って。

 シン・姫・智花の3人で帰る事が多くなった。

 投げやりな感じで、智花が言う。


「取り敢えず見てみたら?それであいつも納得するでしょ。」


「まあな。あいつも、変な所で勘が良いからな。見てないかは直ぐバレる。」


 シンも半分同意する。

『そうですねー』と、姫は能天気。

 気が付いたら、シンの家に着いていた。


「じゃ、またね。」


 ちらっとシンの方を見て、智花は別れた。

 それにシンが、気付く訳も無く。

 さて、今日の夕食は何だろなぁ。

 呑気に、そんな事を考えていた。




 見終わりましたけど、何か既視感が……そうだ!

 〔私がこの世界で散歩してる光景〕に似てるんですわ!

 姫は気が付いた。


「そうか。時々天界から降りて来て、世界の様子を見て回ってたんだっけ。」


 シンは、初めて会った時の姫の言葉を思い出していた。

 姫は妙に納得している。


「それで親近感が湧いてたんですね。いつも、皆さんの暮らし振りを。こうやって、遠くから見守ってましたから。」


 でも……。

 そこまで言って、姫は急に考え込む。


「この、映っていない時の主人公達の生活も。こんな、ゆったりした物なんでしょうか?」


「どうしてそう思う?」


 また変な事を言い出したぞ?

 シンは考えながら、姫に尋ねる。

 神様らしい事を、姫は告げる。


「人は、何かしら。〔真剣に取り組んでいる時〕と〔まったり過ごしている時〕が、必ず有ります。」


「まあな。」


「でもこの作品の内容は、ずっとまったりしています。変では無いですか?」


「幾ら何でもだらけ過ぎ、と言いたいのか?」


「はい。これ程メリハリの無い生活を送っているとは、到底思えません。そこでですね……。」


 嫌な予感がするシン。

 姫の目は、らん々と輝いている。

 これは、例の展開か?

 そう思いながらも、シンから敢えて言う。


「入って観察してみよう、と?」


「正解です!」


 姫はシンに、にっこり笑う。

 こう言う時の姫の表情は、本当に可愛いから困る。

 シンは少し、姫から目をそむけた。

 しかしここで、とある問題が。


「でもこれ、【設定が女子高】だぞ。俺はどうするんだよ?」


「そこは、お気になさらず。どうにでもなる事は、前回で証明済みでしょう?」


「ま、まさかな……。」


 姫は、アニメのオープニング曲が流れる所で一時停止ボタンを押す。

 そして、声高らかに宣言する。


「いざ!参りましょう!」


「参りたく無いんだけど……。」


 この先の事を想像すると、シンは頭が痛くなり。

『はあっ』とつい、大きなため息を付いてしまうのだった。




 アニメの世界に入り、2人が出現した先は。

 舞台となる女子高の屋上だった。


「ここなら、潜入出来そうですね。」


 姫は、いつもとは違う格好に身を包んでいた。

 これは明らかに、主人公達が通う女子高の制服。

 勿論シンも、制服姿。

 しかも性転換して、〔女の子〕になっていた。

『うわぁっ』と思わず漏らした後、シンならぬシン子は。


「だから嫌な予感がしたんだよなあ、トホホ。」


 声も甲高くなっていた。

 脳内で、自分の言った台詞を考える分には。

 男のままなのに。


「くよくよしていても、仕方有りませんよ。さあ。」


 姫に促されて、シン子は。

 主人公達が居るであろう教室へ向かった。




 教室に着くと、女の子5人組が。

 主人公オーラ全開で、仲良く話していた。

 どうやら今は、昼休みの様だ。


「俺た……私達は〔その他大勢〕になってる筈。自然な感じで行動しましょう。」


「それは分かりましたけど。私と話す時は、無理して女言葉にしなくても良いですよ。」


 姫は、『ふふっ』と笑いながら。

 シン子へ対し、気を遣う。


「そうしてくれると助かる。自分で言ってて、背中がかゆくなるからなぁ。」


 ホッとしたシン子。

 すると、姫が。


「あ、授業が始まるみたいですよ。」


 慌てて自分の席を確かめ、着席する2人。

 主人公達を観察するのに、適度に離れた場所だ。

 これなら、怪しまれる事も有るまい。

 シン子は、主人公達を眺めながら。

 そう思うのだった。




 午後の授業中。

 先生の説明なんかそっちのけで、2人は主人公達を観察していた。

 真剣にノートを取っている子、窓の外をぼんやり眺めている子。

 こっくりこっくりしている子も居る。

 授業態度は、左程さほど現実と変わらなかった。

 しかし、日常系の本番は放課後である。

 アニメ中では、いつも1か所に集まって。

 何やらお喋りをしていた。

 耳に意識を集中すると、主人公達の会話が聞こえて来た。


『もう直ぐテストだねー。みんな大丈夫?』

『私、自信無ーい。』

『私もー。』

『じゃあ、誰かん家で勉強会しよっか。』

『そだねー。』

『そろそろ帰ろっか。』


 そんな事を言いながら、主人公達は。

 三々五々と、教室を後にしていった。


「あの子達、いつもあんなんだっけ?」


 周りの子達にシン子は、さりげなく尋ねる。

 するとすんなりと、答えが返って来る。


『そうよ。今更、何言ってんの。』

『仲良いよねー、あの5人。』

『ねー。』

『最初は、あんなんじゃ無かったんだけどねえ。』


「え?そうでしたっけ?」


 最後の言葉に、姫が反応した。

 周りの子達は、こう続ける。


『最初は、別々のグループに居たんだけど。マラソン大会やら体育祭やらで、それぞれのリーダーにされて。色々駆り出されてる内に、仲良くなったんだっけ?』

『そうそう。性格的には、かなり違うのにねー。案外その方が、お似合いなのかもだけど。』

『去年同じクラスだったでしょ?あなた達、覚えて無いの?』


「いやー、ちょっと記憶力が悪くって。ははは……。」


 シン子が何とか誤魔化した。

 ここからは、シン子と姫のひそひそ話。


『おい、どうする?後を付けるか?』


『いえ、屋上に行きましょう。目に力を集中すれば、遠くからでも様子が見える筈です。』


『何でも有りだな、この世界では。』


『そうでないと、夜中それぞれ何をしてるのかとか描けないでしょう?〔マルチ視点?〕とか言う物ですよ。』


 姫よ、それは所謂【ご都合主義】って奴だぞ。

 そう突っ込みたくなった、シン子だったが。

『まあ良いや』と思いつつ。

『バイバーイ!』と挨拶し、クラスの人達と別れると。

 急いで姫と、屋上へ向かった。




 シン子が屋上のドアノブに手をかざすと、カチャリと音がして鍵が開いた。

 屋上に出ると、誰も来ない様に。

 開けた時と同じ要領で、鍵を閉めた。

 〔万能の力、発揮〕の瞬間である。

 高いフェンス越しに、気配を探る2人。

 確かに主人公達は、仲良く買い物をした後。

 誰かの家へと向かっていた。

 シン子は少し考え込む様に、姫へ言う。



「流石に今日は、このままなんじゃないか?」


「そうですね。」


 姫もそう思っているらしい。

 続けて、姫が言う。


「でも、意外ですね。出会ったその時から、仲が良いのかと思ってました。どうして、その場面を描いていないのでしょうか?」


 姫が不思議がるのも、無理は無かった。

 アニメの格好の題材になるからだ。

 シン子は、自分なりの見解を述べる。


「多分日常系には、そう言うのは不必要なんだよ。美少女達がキャッキャウフフしてるのが需要なんだろう。こう言った話を好む層は、現実のせせこましい場面を見たくないだろうからな。」


 普段のリョウを見るに、シン子はそう考えていた。

 ここだけは、姫も同意する。

 そんな姫が、ポツリと。


「ついでにもう一日、観察してみましょうか。」


「良いけど、どうやるのさ?」


「時間跳躍ですよ、ほら!」


 え、そんな事も出来んのかよ!

 シン子は驚いているが、姫は話を続ける。


「この様な世界では、急に何日も過ぎたりしてましたよ?見たアニメ、つまりこの世界では。少なくともそうでした。ですから、シン子にも出来る筈です。」


 〔シン子〕と自分で言っておいて、『プッ』と吹き出す姫。

 それは失礼じゃ無いか?

 そう思いながらも、シン子は呟く。


「安直だなあ。」


 その言葉と同時に、姫が腕にしがみ付いて来た。

 お、おい!

 いきなり何すんだ!

 動揺するシン子、それに構わず姫は。


「さあ、次の場面を頭に浮かべて下さい!せーのっ!」


 その瞬間。

 屋上から、2人の姿が消えた。




 辿り着いた先は、テスト結果の発表日だった。

 屋上から2人が、2階の渡り廊下へ降りて来ると。

 テストの結果が張り出される場所の前に、例の5人組が。

『ぐぬぬ』とした顔で、前のめりになって立っていた。


『どうかなどうかなー。』

『やっぱり見ない!教室に帰る!』

『大丈夫だって。あんなに勉強したじゃない。』

『お喋りばかりで、ほとんど一夜漬けみたいなもんだけどねー。』

『不安になる様な事、言わないで!』

『でも、或る意味さぁ。〔公開処刑〕だよねー、これ。』


 どうやら在校生の人数が少なく、全員の結果が張り出されるらしい。

 そこでシン子は、ふと気付く。


「あれ?俺達、テスト受けてないぞ?どうなるんだ?」


 シン子が首をかしげる。

 姫が、その辺りの事に付いて説明する。


「目立たない様に、中間位の順位になると思いますよ。」


「そりゃそうだ。俺達は何しろ、〔その他大勢〕だからな。目立つ筈無いか。」


 シン子は安心する。

 そしてとうとう、テスト結果が張り出された。

 主人公達は、何とか恥を掻かずに済んだらしい。

 トップに近い成績の子も居た。

 みんな、すごく喜んでいる。

 アニメの画面では見せない表情、これもきっとカットされるんだろうな。

 シン子はそう思った。

 使われるのは。

『あー良かった』と、教室でホッとして。

 のんびりしている場面からだろう。




 女子高の屋上から、現実世界に戻って来た2人は。

 つくづく思った。

 日常系でも、中の世界は。

 現実と、大して違いが無い。

 でも視聴者が、このアニメに望んでいる事は。

【どんな時でも、のんびりまったり】。

 それが日常系なのだ。

 それで良いじゃないか。

 最後に姫から、一言。


「何か勘ぐった考え方で、この手のジャンルを見てる君達!それじゃあちっとも楽しめないぞっ!シンと私からのお願いですっ!」




 ちなみに。

 姫がこのアニメにハマる事は無く、リョウは大層残念がった。

 リョウは、心の雄叫びを上げる。


「同志が増えると思ったのに……何故だっ!」


 寧ろ何故、そう思った?

 呆れるばかりの、シンなのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ