第23話 ストーリーに絡まない程の力で【ジャンル:アニメ】
「今回の作画、気合入ってるなあ。」
シンが見ているのは、肉弾戦バトル物のアニメ。
今回は何人もの乱闘戦で、入り乱れた動きに迫力が有った。
じっと見入りながら、シンはポツッと。
「俺がこの中に入ったら、どれだけ戦えるだろう?」
それがうっかり、姫に聞こえてしまったらしい。
気になるなら、確かめれば良い。
その為に、力を与えたのだから。
シンを顔をまじまじと見ながら、姫は半ば強引に勧める。
「実際に、入ってみれば良いじゃないですか。」
「でも、これ見ろよ。凄い戦いだぜ?俺なんか、雑魚同然……。」
「ぐだぐだ言ってないで、とっとと行きなさい!」
うわっ!
シンは姫に、後ろから『ドンッ!』と突き飛ばされた。
痛ぇな、くっそう……。
シンは、文句の一つも言いたかったが。
その余裕は全く無かった。
バトルの真っ最中に、飛び込んでしまった様だ。
あちこちが『ボンッ!』と爆発する。
「取り敢えず、自分の力の上限を確かめないと。」
シンは右手のひらを、遠くの山へ向け。
狙いを定めた後、集中して気功玉を生み出そうとする。
すると。
掌の中心からポウッと、光の玉が。
それはビー玉程の大きさから、直径約1mまでに膨らみ。
ギラギラと輝きを増す。
「飛んでけーっ!」
シンは玉を、山に向かって放つ。
すると、山だけで無く。
その周辺まで吹き飛ばしてしまった。
爆発範囲はパッと見、半径50kmと言った所か。
轟音と共に、爆風が。
バトルプレイヤー達を襲う。
皆、『何事だ!』と驚いていた。
「しまった!遣り過ぎた!」
手加減が難しいなあ。
でも今ので、要領は大体分かったぞ。
シンは『うんうん』と頷く。
しかし、この試し打ちで。
思いの外シンは、目立ってしまった。
このままでは、メインストーリーに絡んでしまう。
そこでシンは、一計を案じる。
『今のは何だ?』
『凄まじいパワーの様だが?』
『これは、俺達が争ってる場合では無いのかも。』
『漁夫の利なんかさせるか!』
バトルプレイヤー達が、一旦戦いを止め。
舞台上で、何やら話し合っている。
その一瞬で、シンは。
舞台上に転がっていた岩へ身を潜め、気配を消す。
『奴の気が感じられない!』
『不味い!何処から襲って来るか分からんぞ!』
『背中を見せるな!丸くなれ!』
皆、背中合わせで円陣を組む。
そこへ。
「遅い!」
『何っ!』
その叫び声で、皆が頭上を見ると。
天高く輝く光の中から、シンが現れた。
「悪いが、あっさりと倒させて貰うぞ!」
シンは、背中合わせの輪の中心に入ると。
『ズババババッ!』と、心臓の在る辺りを正拳突き。
『うっ!』
心臓が一瞬止まって、皆の身体が硬直。
そこを、シンは逃さなかった。
全員を一撃で、的確に殴り倒す。
バトルプレイヤーはそれぞれ、場外へ吹っ飛び。
地面へと伏せって行った。
相手に顔を見られる事無く、シンは鮮やかに倒してみせた。
これ位なら、ストーリーに影響は無いだろう。
舞台外へ落ちた、バトルプレイヤー達は。
気を失いかけながらも、シンに向かって気功玉を放った。
しかし、手の甲で『パシン!』と。
あっさりと跳ね返されるのを見て。
『これは勝てない』と思い、そのまま意識を無くした。
バトルプレイヤー達が、次に皆が目を覚ました時には。
シンの姿は見えず、気配も感じなかった。
『また不意打ちか?』と警戒したが、空中に描かれた文字を見て安心すると。
また奮起して、バトルロイヤルに戻っていった。
その文字とは。
《邪魔して悪かった、もう関わらないよ。君達が俺より【遥かに弱い】事が分かったからな。あばよ。》
「何ですか、あの捨て台詞。」
元の世界に戻って来たシンへ向かって、姫は呆れてながら言う。
ここからは、シンの良い訳。
「あんな事言われたらさ。普通思うのは、《くそう、もっと強くなってやる!》か《もう二度と関わるな!》かのどっちかだろ?」
「それで?」
「そうすれば、少なくとも。俺らしき人物は、当分関わらない筈だ。本編には。」
「自分をメインストーリーから外す為に、あれを遣ったと?」
「そう言う事。」
「でももっと、ましな言い回しが有ったでしょうに。」
『ふう』と姫は、ため息交じり。
シンの言い訳は続く。
「あんなのしか浮かばなかったんだよ、悪かったな。」
「まあ良いでしょう。」
姫も、それ以上は突っ込まなかった。
彼女にはもっと、懸念すべき点が有ったから。
『それよりもですね……』と、姫は。
シンに、ジリッと詰め寄りながら言う。
目を吊り上げ、怒った様な顔をして。
「ドンドン、リョウさんの影響を受けてません?彼みたいに、2次元一筋になって欲しく無いんですけど!」
シンは、私の物なんだから!
彼の好き勝手にはさせないわ!
嫉妬心を、メラメラと燃やしながら。
とうとうリョウまでライバル視し出す、姫なのだった。




