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第22話 リアルでは無い〔リアル〕【ジャンル:ゲーム】

「このっ、このっ!」


 暇だったシンは、ゲームをプレイしていた。

 それは、リアル戦場物のFPS(一人称視点シューティングゲーム)。

 〔敵国に占拠された自国の要塞を奪還する〕と言った物だった。

 それを、冷めた目で見ている姫。

 そしてポツリと。


「良く、熱中出来ますね。」


「このゲーム、結構人気が有って面白いからな。」


「そうでは無くてですねぇ。平然と、人を撃ってるでしょ?」


「まあ、バーチャルだから。」


「現実世界の人は殺せないのに。ゲーム内の人は、簡単に殺すんですね。」


 姫のその言葉は。

 シンには、とても冷たく感じた。


「これは、現実じゃ無くてゲームだし……。」


 苦しまぎれの言い訳をするシン。

 それでも姫は。


「あなたは、この世界にも入れるでしょう?だったら、現実も同然じゃないですか。」


「いや、だから……。」


 今日は、やけに突っ掛かるなあ。

『退屈なのか?』と思うシン。

 しかし姫は、尚も問い詰める。


「じゃあ、中に入っても殺すんですか?」


「分かんないよ、そんなの。」


 シンは何とか逃げようとするも。

 姫に逃げ道を塞がれる。


「だったら、尚更入ってみないと。」


 姫の目が、若干血走っている様に見えた。

 ここは姫に従う他無い。

 そう諦める、シンだった。




 中に入ると、シンは。

 迷彩模様の軍服を着て、自動小銃を両手で構えていた。

 ベルトには、手榴弾が3個ぶら下がっている。


「こんな貧弱な装備で戦ってたのか……。」


 そう思う暇も無く、銃声がけたたましく鳴り響き。

 自分の後ろの壁に、何発か銃痕が付く。

 そうだ、ここは戦場なのだ。

 ゲームをプレイする様に、対策を考える。

 そしてそれを、素早く実行に移す。

 このゲームは、如何いかにして。

 銃弾をくぐりながら、敵を撃つかが。

 勝負の分かれ道だ。

 なので、弾除けになる場所はきちんと把握し。

 そこへ移動する為、素早い動作と冷静な判断力を保つ必要が有った。

 シンは、普段プレイする通りに動いた。

 物陰から前方を覗くと、敵の姿が見える。

 頭に付いた無線機から、各自へ指示が飛ぶ。


『敵戦力を無効化せよ!』


 敵は幸い、こちらに気付いていない。

 チャンス!

 シンは、敵に向けて銃口を構えた。




 しかし、シンは。

 ここで、真の戦場を思い知る事となる。

 敵の姿をスコープで捉えた途端、手がブルブルと震え出す。

 どうした!

 早く引き金を引かないと!

 必死に指を動かそうとするが、まるで言う事を聞かない。

 体から血の気が、スーッと引いて行くのを感じた。

 ゲームの世界とは言え、ここでは同じ人間なのだ。

 敵だからと言って、簡単には殺せない。

 一瞬の気の迷い、その時。


『危ない!』


 姫の叫び声と同時に、シンは爆風に巻き込まれた。

 近くの壁に、ガシッと体を打ち付けるシン。


「くっ、いてて……。」


 体に異常が無いか、シンは直ぐに確かめる。

 幸い何処にも、怪我を負ってはいなかった。


『大丈夫ですか!』


 姫は、オペレーター役になっていた。


『そこは危険です!早く離れて下さい!』


「でも、ここで離脱する訳には……。」


『何言ってるんですか!今、死に掛けたでしょう!』


 姫にそう指摘されて、周りを見渡したシン。

 辺りの光景を目の当たりにして、絶句する。

 飛び散る血飛沫しぶき、転がっている肉片。

 敵か味方か分からない死体に、もうもうと上がる煙。

 鳴りまない銃声と。

 その間をう様に、味方に運ばれて行く負傷兵。

 リアルの様で、リアルじゃ無い。

 リアルじゃ無いのに、リアルに感じる。

 戦争を全く体験した事が無いからこそ感じる、違和感だった。


『もう分ったでしょう!例えゲームでも、命のやり取りは変わらないんですよ!早く、元の世界へ戻りましょう!』


 シンはようやく、姫の主張を理解した。

 2人は、2次元世界へ入れる。

 それは、〔その世界が、2人にとって現実世界にも成り得る〕と同義だった。

 なのにシンは、『ゲームだから』と。

 平気で人を殺している。

 その点に姫は、嫌悪感を抱いていたのだ。

 でもシンは、こうも思った。

 だったら、この世界から抜けて現実世界に戻るのは。

 〔この世界の味方を見殺しにする〕のと同じではないのか?

 何にせよ、選ばなくてはならない。

 どちらの世界を、シンにとっての現実とするのか。

 迷っているシンに、姫は言い放つ。


『元居た世界で、あなたの事を待っている方々が居るでしょう!大切な家族が!友達が!』


 その言葉で、シンは覚悟した。


「みんな、ごめんよ。」


 そう呟いて、シンは。

 この世界から抜け出たのだった。




「残るのと抜け出すの。結局、どっちが正解だったのかな……。」


 シンはゲーム画面を見ながら、ポツリと漏らす。

 気力が失せて、ダラーンとした感じ。

 そんな彼に、姫はきっぱりと言い切る。


「元の世界に戻るのは当然でしょう?あれは、仮想世界なんですから。」


「それは、お前の主張と【矛盾】してないか?」


「え?」


 目を丸くする姫。

 弱々しくも、芯の通った声で。

 シンは言う。


「『バーチャルでも、人は人だから撃つな』と言う。一方で、『バーチャルはリアルでは無いから、そこの人達は見捨てろ』と言う。これが矛盾でなくて、何だってんだ?」


「それはそうですが……。」


 シンの言葉に、姫は言い淀む。


「お前を困らせる気は無いよ。ただやっぱり、〔バーチャルはバーチャル〕なんだよ。ごっちゃに考えちゃ行けない。」


 でないと、感覚がおかしくなるだろ?

 そう言って、ゲームの続きを始めるシン。

 何か上手く、言いくるめられた様な気がして。

 ちょっと悔しい姫だった。




 他の国では。

 軍人だって、この手のゲームをプレイする。

 それはきちんと、仮想と現実の区別が付いているからだ。

 両者の境目をちゃんとわきまえていれば、倫理観は狂う事が無い。

 そう、シンは考える事にした。

 平和な国の一高校生には、余りにも重い課題だった。

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