第17話 決めるの、俺か?【ジャンル:インターネットのサイト】
「それじゃ、宜しくね。」
別れ際に、智花が念を押す。
今日で学校は終わり、明日から夏休みだ。
『折角だから、何処か旅行でも行こう』と、リョウが提案した。
シンは余り、気が乗らなかったのだが。
〔シンと親しくなるチャンス!〕とばかりに、姫と智花も同意したのだ。
旅行へ付き合って貰う代わりに、シンが行先を自由に選んで構わない。
聞こえは良いが、要するに。
シンに対する、行先選定の丸投げ。
他人事の様に嬉しがる姫。
「ホント、楽しみですねー。」
「いや、行き先選びには。お前も付き合って貰うからな。」
強引に姫を巻き込むシン。
それも織り込み済みな姫。
「はーい。」
にこやかに返事をする姫、ちっとも嫌がっていない。
仲を深めるのに相応しい、良さ気なシチュエーションの在る場所にしてしまおう。
姫の心の中には、ちょっとした野心が有った。
「うーん……。」
色々なサイトを見て回り、シンは頭を抱える。
場所は、何処でも良い訳では無い。
学生なので、資金は限られる。
そのせいで、行ける場所も限定される。
しかも泊り掛けとなると、更に金が掛かるので。
なるべく日帰りで済ませたい。
何とか『近場で良い場所がないか』と、結構真剣に探していたのだ。
その時。
「お兄ちゃーん。」
ドアをノックして、楓が入って来る。
そして、いきなり。
「夏休み、旅行に行くんだって?私も参加したい!」
どうやら帰り道に、智花と会って。
話を聞いたらしい。
「お前は、テニス部の合宿が有るだろう?大丈夫なのか?」
合宿は、学校で泊まり込みなのだ。
それに意外にも、楓は。
テニス部のエースだったりする。
合宿は、参加不可避なのだ。
「あれは、明後日から5日間だから大丈夫だよ。良いでしょ?」
楓は姫に目くばせする。
楓に、シンとの親密度を上げる協力を仰ごう。
姫はそう考え、楓の参加を歓迎する。
「詳細が決まったら教えてねー。友達との約束も有るからー。」
そう言って楓は、部屋から出て行った。
「さて、どうしようか。」
幾つか候補は絞ったが、中々決められない。
そこで姫は、シンに提案する。
「それなら、実際に行ってみてはどうでしょう?」
サイトの中に入って、文字通り体験してみる。
しかし姫の案は、致命的な問題が有った。
「それだと、行く楽しみが無くならないか?俺達だけ。」
「ちょっと滞在するだけですしー。」
「それと、もう1つ。お前は、肝心な事を忘れている。」
姫に言い聞かせる様に、シンは続ける。
「一度入った世界は、入り直すのに一定の期間を開けねばならない。しかもその期間は、入った世界から出てみないと分からない。そうだったよな?」
前に姫が言った事。
それは、ポンポンとネットの中に入れない可能性の高さを意味していた。
それでは、比較のしようが無い。
そう、シンは言いたかったのだ。
『では』と、姫は言う。
「一番行きたい場所を選んで、試しに入ってみましょう。その上で。出て来てから入り直すのに、かなりの期間を要するなら。その時に判断すれば良いでしょう。」
「『試しに』か。まあ、いずれは。『その確認もしなきゃ』と思ってたからな。良い機会かも。」
シンも、姫の意見を取り入れて。
まずは、都心に在る遊園地のサイトへ入る事にした。
「入場料もタダ。アトラクションの待ち時間も無し。便利なものだな。」
シンは呟く。
対して姫は、もっともな事を言う。
「遊園地の中を紹介するサイトですから。体感出来ないと、興味を引けないでしょう?」
そんな物かなあ。
シンがそう考えていると、姫は。
「まず、あれに乗りましょう!」
シンの手を引いて、ジェットコースターの方へ駆け出す。
その後、いろんなアトラクションを散々乗り回して。
姫は満足気な顔をしていた。
「それだけ楽しんだなら、暫く来る気がしないんじゃないか?」
心配になって、シンは尋ねるも。
姫は上機嫌で、即答する。
「そんな事無いですよ。また来たいですねぇ。」
「じゃあ、そろそろ帰るぞ。」
さて、再び入れるのは何時か。
そこが一番気になる、シンなのだった。
戻って来て、シンがモニター画面を見てみると。
《次まで後1週間》と、右上に赤字で表示されていた。
『これか』と、シンは思う。
「今まで入った世界にも、その表示は有りましたよ?戻って来た時、シンは一度も確認してませんよね?それで、気付いていなかっただけでは?」
姫にそう言われ。
『そうかもな』と、シンは思った。
毎度毎度、戻って来る時には神経がすり減っていたので。
つい、見落としていたんだろう。
「入れる世界には、その様な表示はされません。どんな表示に変わるのか、サイトを変えて確認してみましょう。」
そう姫に促されて、シンが別のサイトを開くと。
何と、右上の表示がパッと消えた。
どうやら、同じパソコンの画面でも。
サイトが変われば別物扱いされ、直ぐに入れるらしい。
この情報は、大きな収穫だった。
「これで、比較が出来ますね。良かったあ。」
まるで、こうなる事が分かっていたかの様な口振りの姫。
今回もシンは、まんまと嵌められたらしい。
「さあ、次に行きましょう、早く!」
姫にせっつかれ。
シンは何度も、モニター画面に出入りするのだった。
8回は往復しただろうか。
例の如く、シンは疲れ切っていた。
姫は、ご機嫌なままだったが。
「さて、これで全部回った訳だけど……。」
どうしよう?
シンにとっては、どれも似たり寄ったりだった。
何せ、旅行自体に興味が無いのだから。
シンはただ、巻き込まれただけなのだ。
「じゃあ、ここにしましょう!」
姫が提案したのは。
湘南海岸から少し離れた、穴場スポットの海岸だった。
ここから見る夕日は、とても綺麗で。
かつ、一部の人しか行かないらしかった。
そこには何か、特別な理由が有る。
シンにはそう思えたのだが、そこまでは書いて無かった。
ネットで紹介している位だ、何とかなる事なのだろう。
シンは、余り気にしない事にした。
姫も姫で、考えていた。
ここなら、ロマンチックな雰囲気に持ち込んで。
シンの心に近付ける。
何なら、きわどい水着で誘惑しても良い。
〔有りし者〕に有るまじき事を、姫は思っていた。
姫の目には、それだけシンが。
魅力的に映るのだろう。
行先は決まった、後は日にちだけだ。
お盆を過ぎると、クラゲが発生して泳げなくなる。
その前にしよう。
それから暫く、シンと姫は。
じっくりと協議を続けるのだった。
ただこの旅行は、そう簡単には行かない。
その裏で暗躍する〔影〕が有った。
果たして、シン達の旅行中に。
何かが起きてしまうのか?