表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/31

第9話 雨女?いえ、天然です【ジャンル:アニメ】

 本格的な梅雨のシーズンがやって来た。

 毎日雨が続く。

 いつもはテンション高めのリョウも、うんざりな顔が続いていた。


「早く終わんねえかなあ。」


 どんよりとした空を見上げて、呟くリョウ。

 そんな彼に、智花が声を掛ける。


「らしくないわね。」


たまには俺も、センチメンタリズムにひたりたい時は有るさ。」


「それ、意味分かってて言ってる?」


「失礼な。そんなにおかしいか?」


「おかしいわね。元気の無いリョウなんて、リョウじゃ無いもの。」


「そう言われると、返す言葉も無いよ。」


 そんな、リョウと智花のやり取りを見ていて。

 姫は考えた。

 ジメジメした雰囲気を忘れるにはどうしたら……。

 せめて、シンだけでも……。




 帰宅した後、雨で濡れた箇所を拭きながら。

 姫は何と無く、テレビを見ていた。

 すると、或るアニメの予告が目に入る。

 これだわ!

 ピーンと頭に閃いた姫。

 その隣に、スッとシンが座る。


「何か気になるのか?」


「これです、これ!梅雨の憂さ晴らしには、丁度良いでしょう!」


 それは、今放送中のサッカー物。

 日本代表が赤道直下でアルゼンチン代表と闘う、と言った次回予告だった。

 姫がシンに提案する。


「南国ならスカッと晴れていて、梅雨の鬱陶うっとうしさを解消出来ると思うんです。どうでしょう?」


「サッカーか……。悪く無いな。」


 スポーツは、それ程嫌いでは無かったので。

 シンも素直に、姫の提案に応じる。


「放送日は……明後日ですね。楽しみだなあ。」


 はしゃぐ振りをして、姫は。

 こっそり、シンの顔色をうかがう。

 シンの表情は、特に変わり無かった。

 シンをリラックスさせるんだ。

 今回姫は、柄にも無く張り切っていた。




 放送日、早速中に入る2人。

 今回は観客席では無く、会場の通路に出た。


「おかしいなあ。いつもは都合の良い場所に出るのに。」


 シンはいぶかしがるも、気を取り直して。


「仕方が無い、観客席への入り口を探すか。」


 2人は会場内を歩き始める。

 頭の中には何故か、実況と解説らしき声が延々と聞こえて来る。

 試合が始まるまでの状況説明として、アニメで流れているのだろう。

 そのせいでシンは、或る事に気付かなかった。




 ようやく、シンが気付いたのは。

 遠くからゴオンゴオンと、大きな音がして。


『ただ今、システムトラブルが発生しております。少々お待ち下さい。』


 そんな場内アナウンスが流れて来た時だった。


「今の何だろうな……えっ?」


 シンが振り返ると。

 いつの間にか、姫の姿が見当たらない。


「どこ行ったんだよ、あいつ。しょうが無いなあ。」


 丁度シンには、試してみたい事が有った。

 良い機会だ、ってみるか。

 シンが、或るイメージを思い浮かべると。

 目の前に、直径1m程の黒い円盤が現れた。

 その中に右手を突っ込み、掴んだモノをそこから引きり出す。


「きゃあっ!」


 シンが掴んだのは、姫。

 円盤の中からポンッと出て来た、どうやら成功した様だ。


「場面移動が出来るんだから。こう言った事も出来るんじゃないかと思ってたんだ。」


 シンは姫に、こうなった経緯いきさつを説明する。

 すると姫は、プンスカと怒り出す。


「私で試さなくても良いじゃないですか!」


「迷子になったのはそっちだろ。」


「それはそうなんですが……。」


 姫は言い返せなくなり、シュンとしてしまう。


「で、何処で何やってたんだ?」


 シンが問い掛けると、途端に姫の顔が青ざめて行く。

 姫の様子がおかしい、そう感じるシン。

 あわあわしながらシンへ、必死に何かを訴える姫。


「わ、悪気は無かったんです!あんな事になるなんて……。スイッチが一杯有ったので、好奇心でつい……。」


「……何か遣らかしたな?」


「あは、あははははは。」


 いつもは冷静な姫だが。

 この時ばかりは、冷や汗タラタラ。

 シンが姫へ、にじり寄る。


「それは、今後のストーリーに関係が?」


「いやあ、どうでしょう……。」


 姫がしらを切り始めた。

 こう言う状態になったら、聞くだけ無駄だ。

 シンは姫の手を取り、焦った様に言う。


「さあ行くぞ、試合が始まっちまう。」


 心の中に不安が渦巻くも。

『考えるだけ無駄だ』と思い込む事にした、2人だった。




 観客席に座ると、丁度選手達が入場して来る所だった。

 国歌斉唱の後に、コイントス。

 いよいよ試合が始まった。

 このアニメは、とんでも技が出ないリアル物なので。

 実際と同じ臨場感が味わえる筈だ。

 それにしても、実況と解説が常に聞こえていて。

 うるさい事、この上無い。

『この音声、消せないもんかなあ』と思ったシンだが。

 アニメの性質上、これもストーリーに含まれる為。

 消す訳には行かなかった。

 戦況は、日本側が不利。

 相手はあのアルゼンチンだ。、一筋縄では行かない。

 前半から、押される状況が続く。

 おっと、前半18分。

 日本が先制のチャンスを掴む。

 ドリブルで上がって行く、日本代表選手達。

 華麗なパスを繋げて、相手ゴールに迫る。

 すると、雨らしき物がぽつぽつと降って来て。

 それは途端に、スコールへと変わった。

 ザアーッ!

 土砂降りの中、シュートしようとする日本代表選手。

 しかし、突然の事に足を滑らせ。

 折角のチャンスを逃してしまった。

 その後は泥仕合。

 お互いろくに満足なパスも出来ず、視界は悪くなるばかり。

 とうとう試合は中止になった。

 観客席からは、ブーイングが鳴りまない。

 シンはその光景に、疑問を持っていた。

 確かこのスタジアムは、ドーム型。

 雨なんか降る訳が無い。

 シンはふと、天井を見上げる。

 すると、どんよりした雲が顔を覗かせていた。


「あっ!」


 そう、このドームは【開閉式】だったのだ。


『申し訳ございません。申し訳ございません。』


 謝罪のアナウンスが流れ続けていた。

 ははーん、見えて来たぞ。

 シンは姫をにらみ付ける。


「……お前だな?」


「面目ございません。」




 姫の話によると、こうだ。

 通路を歩いている時、姫は或る部屋を見つけた。

 スイッチばかりの部屋で、どうやら管制室の様だった。

 幸い誰も居なかったので、軽い気持ちで見学しようとしたが。

 うっかりつまづいて、『バン!』とスイッチ群を叩いてしまった。

 その時から、スタジアムの屋根が開き始めた。

 慌てて色々なスイッチを押すも、どうにもならない。

 動揺しまくっている所で、シンに引き摺り出された。

 と言う訳だ。

 システムトラブルのアナウンスも。

『一度開いてしまったドームの屋根が、どうやっても閉まらない』と言う物だった。

 しかし気象条件を考慮した上で、大丈夫と判断した運営側が。

 試合を強行したのだ。

 現実世界では、一試合開催するにも莫大な予算が掛かり。

 放映権やスポンサー権などの絡みもあって。

 余程の事が無い限り、なるべく中止したく無いのが本音なのだ。

 その辺も、作品の設定として反映されていた。

 シンはまだ、姫を睨み続けている。

 ニタァッと不敵な笑みを浮かべながら、シンは姫に。


「どうなると思う?」


「さ、さあ……。」


 視線を外す姫。

 その先に回り込み、シンは言い切った。


「何か有ったら、お前だけで何とかしろよ。お前が遣らかしたんだからな。」


 ここまで来ると、姫の天然加減にも困ったものだ。


「はい……。」


 その場で縮こまり、シュンとするしかない姫なのだった。




 結局、姫が何とかする事態にはならなかった。

 2人が現実世界へ戻って来た後直ぐに、テレビ画面を見ると。

 ボートが1隻、スイスイ進むだけの映像が。

 とあるテロップを表示しながら、延々と流れていたのだ。

 これが、シンの頭の中で流れていた鬱陶しい声の正体。

 それは。


 《今回の放送は、局の都合により延期致します。御了承下さい。》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ