プロローグ
主人公達が繰り広げる、2次元世界での体験。
日常回も挟みますが、それはそれで愉快な物。
自分だったら2Dで何をするか、想像しながらお楽しみ下さい。
それではどうか、宜しくお願いします。
「ん?」
友達の家へ遊びに行った帰りであろう、とある少年。
公園のベンチでのんびり座っていると、目の前の木からドサッと何かが落ちて来た。
『何だろう?』、そう思って近付いてみると。
それは、傷付いた〔鳩〕だった。
どうやらカラスに遣られたらしい。
「不味い!早く医者に診せないと!」
少年は、鳩を慌てて抱きかかえ。
道路の方へと走っていった。
「よう、大丈夫か?」
少年が鳩に声を掛ける。
鳥かごの中で気付いた鳩は、キョロキョロ辺りを見回している。
「危なかったんだぞ。でも、もう安心だ。」
少年は、医者に診せた後。
責任を感じてか、家に鳩を連れて帰った。
怪我が良くなるまで、面倒を見ようと言うのだ。
とんだお人よしである。
「何か食べるか?えっと、鳩が食べられる物は……。」
少年は部屋を見渡す、すると。
『大丈夫です。』
「え?」
不意に女性の声がした。
声は、鳥かごの方からだった。
『私は大丈夫です。取り敢えず、ここから出して頂けませんか?』
どうやら声の主は、鳩らしかった。
何がどうなってるんだ?
少年は恐る恐る、鳥かごに近付くと。
鳩をそっとかごの中から出し、ベッドの上に置いた。
その時。
「うわっ!」
突然鳩が、光に包まれたかと思うと。
銀髪の美しい少女へと変わった。
少女は、ため息交じりに呟く。
「ふう、やっと元の姿に戻れました。」
「あ、あんたは一体!」
少年は、予想外の事に狼狽える。
少女は少年に一礼し、謝辞を述べる。
「こちらが本来の姿です。お心遣い感謝します。」
美術の教科書で見た様な、ギリシャ彫刻らしき恰好をした少女は。
少年をじっと見つめ、語り出す。
「私は。あなた方人間に、【有りし者】と呼ばれる存在の内の一柱です。あなた方の社会に合わせて、【女神】と表現すれば分かり易いでしょうか。」
「そんな……本当かよ……。」
口をあんぐり開けたままの少年。
少女は続ける。
「どうかご理解を。私達は姿を変えて、偶に人間の世界へ遊びに来るのです。今回はうっかり、カラスの巣の近くを通りかかってしまい。突然、襲われてしまいました。」
「それは災難だったな。」
少年は、そんな返ししか出来ない程びっくりしていたが。
何とか無理やり、心を落ち着かせようとしていた。
更に少女は続ける。
「そこをあなたに助けられました。本当にありがとうございました。」
ペコリと頭を下げる少女。
この人、〔あの方〕に本当に良く似てる……。
よし、決めた!
少女は、何か思い付いた様だ。
「何かお礼をさせて下さい。《これで暫く一緒に居られる切っ掛けを……!》」
「良いよ、そんな。大した事してないし。」
少年は頑なに首を振る。
『そんなー』とムキになる、自称〔女神〕。
何としても断ろうとする少年。
女神は尚も食い下がる。
「そこまで拒絶されると、どうしても何かしたくなります。相談に乗りますよ?」
「うーん、だったら……。」
少年は観念した様子で、こう告げた。
無茶振りすれば、諦めて帰ってくれるだろう。
そう思って。
それは。
「漫画やアニメを見てると、想像しちゃうんだよね。〔自分ならこうする〕とか。……無理だよね?ははは。幾ら何でも……。」
しかし、少年の願いをあっさりと裏切る様に。
女神は、こう言った。
「出来ますよ。」
「は?」
「近い事は可能です。それがあなたの望みならば、その力をこれから授けましょう。」
えいっ!
右手を天に翳して、女神がそう叫ぶと。
少年は、眩い虹色の光に包まれた。
そして、光は。
少年の身体全体から、すうっと入って行った。
「何だ何だ?わあっ!」
余りの事に。
思わず少年は、床へと倒れ込んだ。
少し気を失っていたらしい。
目が覚めると少年は、少女に膝枕をされていた。
「な、何やってんの!」
顔を真っ赤にして、慌てて少年は跳ね起きた。
すっ呆けた感じで、女神が言う。
「あ、気が付かれましたか。」
「さっきの光は……?」
不思議そうに少年は尋ねる。
少年からの問いに、少女はドヤ顔で答える。
「あなたに、【平面上の創作物へ入る力】を与えました。この世界の言葉で申しますと、【2次元の世界に入る事が出来る力】です。」
「2次元?」
「先程あなたが言われた〔漫画〕・〔アニメ〕、そして〔ゲーム〕。もっと言うなら〔新聞〕や〔小説〕、〔写真〕もです。」
そこまで告げると、女神は。
部屋の中をウロウロと歩き回りながら、色々と話し始めた。
この力にも、様々なルールが有るらしい。
1.
2次元世界は、あくまでも架空の世界だと言う事。
例えば、或る都市の写真の中に入っても。
そこはあくまで、〔写真の中の世界〕であり。
何かアクションを起こしても、現実には反映されない。
写真の中の車を壊しても、現実世界の車は壊れていない。
と言った風にだ。
但し漫画の様な、架空空間に等しき場所に於いては。
影響は反映される。
それも、この世界に存在している全雑誌に。
2.
2次元世界に入っている間は、現実世界の時間は進まないが。
自分自身の時間は進んでしまう。
長い間2次元世界に入れば入る程、身体的に。
現実世界の時間とのズレが生じてしまう。
浦島太郎の様に。
3.
その世界に入ると、その世界の創造主の如き万能の力を使える。
また、その世界に存在する知恵・知識を有する。
言葉や習慣に困る事は無い。
しかし、その世界観を壊さない様。
その世界毎に、力には或る程度の制限が設けられる。
4.
自分の容姿は、その世界に応じて変化する。
少女漫画であれば、その様に。
3Dポリゴンであれば、その様に。
「最後に、これが重要なのですけど……。」
急に女神は、神妙な面持ちになる。
ま、まだ何か有るのか?
辟易した感じで、少年が見つめる中。
女神は言う。
「もし、入り込んだ2次元世界で。物語の主要な事に関与しますと……。」
「しますと?」
ゴクリと唾をのむ少年。
少々ためを作った後、女神が告げる。
「最悪の場合、物語の方向性が狂ってしまって。展開がめちゃくちゃになる事が有ります。〔自分が主人公になる〕〔主要キャラの設定が崩壊する〕などです。くれぐれもご注意を!」
「え……?」
キョトンとした顔の少年。
写真など物語性が無い物なら、その様な事象は稀有でしょうが。
そう前置きした後。
女神はその辺について、具体例を挙げて説明する。
「例えば、或るゲーム上で。最後に勇者が倒すべき魔王を、先にあなたが倒してしまった。すると、どうなります?」
「うわあ、そう言う事かあ。」
妙に納得してしまう少年。
しかも、現実世界で大量に流通している作品には。
揃って、同じ影響が出でしまうのだ。
買って来た雑誌で何か遣らかすと。
コンビニや本屋で売っている分まで、一斉に物語が書き換えられる。
つまりは、そう言う事である。
「それは最重要項目だな。胆に銘じておくよ。」
女神にそう答える少年。
どうなるか分からない力を手に入れ、困惑している。
『使い道が良く見えないなあ』、そう考えながら。
夢かどうか、試しに頬を抓ってみるのだった。
案の定、痛みで頬が赤くなったが。
ホッと一息ついて、女神はベッドに座る。
「力については以上です。何か、分からない点は有りますか?」
有るよ、有るとも。
少年は思い切って、女神に尋ねる。
「なあ。どうして俺に、そこまでしてくれるんだ?」
少年は、女神の目を真っ直ぐ見据えて。
問い詰める様に言う。
こんな言い方は変だけど、俺は医者に連れてっただけだぞ。
そこまで感謝される程の事はしていない。
ちゃんとそう言った自覚が有るからこそ、少年は。
きちんと確認しておきたかった。
真剣に少年は問うたのだが、女神の様子が少しおかしい。
「それはそのぉ……《〔あなたが気になるから〕なんて言えない……〔有りし者〕として!》。」
クネクネと身体をくねらせながら、少し頬を赤らめている。
このリアクションは駄目だ、答えは返って来ない。
これ以上追及しても無駄だと、少年は考えた。
少年は女神に、優しい感じで言う。
「言いたくないなら、それで良いよ。」
「助かります……あっ!」
突然、少女が叫ぶ。
何事かと、少年が思いきや。
「まだ、お名前をお聞きしていませんでしたね。」
「そうか、自己紹介がまだだったな。俺の名前は……。」
急にお互い畏まる。
先に口にしたのは、少年の方だった。
「蓬慎一郎 《よもぎ・しんいちろう》だ。皆からは【シン】って呼ばれてる。」
「宜しくお願いします、シン。」
「あんたの事は……おっと、女神様だったな。うーん、呼びにくいなあ……そうだ!良かったら、単純に【姫】でどうかな?何か、それっぽいし。」
ぱああぁぁっ。
女神は、明らかに嬉しそうな顔をして。
出来るであろう最高の笑顔で、それに答えた。
「是非!」
こうして。
〔シン〕と〔姫〕の冒険? が始まろうとしていた。
が、早速。
押し入れに顔を突っ込んでいる、シン。
姫が不思議そうに、シンへ尋ねる。
「さっきから、何ごそごそしてるんですか?」
「最初はこれが良いかなって……有った!」
そう、歓声を上げて。
シンが取り出した〔モノ〕は……?