第1話「邂逅」
「……ついに、見つかったのですね、最後の資格者が」
「………………」
「……さぁ、行くのです。この世界を救う、新たな勇者の元へ。貴方の旅路に、精霊王の加護があらんことを……」
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神郷 輝太。
聖緑中学校に通う、中学二年生。
自称ニートの兄と、毎日仕事で忙しい父の3人家族を持つ。小さな頃に交通事故に遭い、左のこめかみ辺りに小さな傷を持つ少年。温厚で優しく明るい性格。人懐こく、周りには友人も多い。短めの黒い髪は、クセがついてるのか少しばかりツンツンしている。年齢が年齢なだけあって、まだ"男"という風ではなく、"少年"と言った方が当てはまるような風貌だ。
趣味はランニングとジョギング。 特技は体育全般。勉強は全体的に苦手。
最近あったことは、"魔法使い"に出会ったこと。
「本当だって!この前の日曜、魔法使いに会ったんだってば!」
「えぇ〜?本当でござるか〜?」
「本当だってっ!!」
「まぁ、嘘か真かはさておき、それと遅刻ギリギリだった因果関係はどこにあるのでござる?」
「いやほら、兄ちゃんから借りた魔法使いの出るアニメ見てて、気づいたら朝で、さすがに寝なきゃなって寝たら………」
「なるほどなぁ。しかしまぁ、魔法使いなんてものはさすがに居ないでござろう。忍者ならまだしも」
「………いやまぁ……………?いや、いやいやいや。忍者も結構普通に全然居ないと思うぞ?いや、ドヤ顔で自分の顔を指差すな!!」
輝太と共に話す少年は風間 孤太郎。自称忍者の末裔。そして幼少の頃からの輝太の幼馴染。少しばかり伸びた髪を前髪だけ残して後ろで結い、ポリシーなのか、自己主張なのか、言葉遣いや持ち物、装飾品から所々忍者らしさが滲み出ている、全く忍んでいない忍者だ。
そんな彼と話をしながら、輝太はふと空を眺める。
「…………?」
「どうかしたでござるか?窓の外なんて見て。厨二病ごっこでござるか?」
「……なんか、何かに見られてる気がした」
「輝太殿も思春期でござるかぁ」
「その含みのある言い方やめろ!」
やがて、担任の教師が教室に入ってくる。下はスラックスで、上はTシャツにジャージ。無精髭を生やし、きちんと整えられていないであろうボサボサな髪は、ぶっきらぼうで、粗雑な印象を感じさせた。
「えーみんなおはようございます。まぁ説明するのめんどくさいので、端的に言うと転校生が来ました。おーい入れ入れー」
担任の声で、ひとりの少年が教室の中に入る。
途端に、女子生徒からの黄色い声が舞い上がる。
漆黒の学ランに身を包んでいるせいか、余計にその風貌が目立って見えた。
さらりと流れるような黄金色の髪、憂いを帯びた真紅の……………
「…………あ。あ、あぁぁあ!お前、こないだの!!」
「知り合いでござるか?」
「さっき話したろ、魔法使い!あいつだよあいつ!」
「……っ」
「なんだぁ輝太、今朝パンを咥えた鳴上クンとぶつかったりでもしたのか。まぁそうゆう話はあとあと。鳴上クン、自己紹介よろしく」
「…………鳴上レイです。……よろしく」
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「どうゆうことだ」
真紅の瞳に、心の底まで睨まれているようだった。
ホームルームが終わった後、学校を案内してほしいと輝太に持ちかけたレイが、人気のない場所で輝太を壁に押しつけて問いただす。いわゆる、壁ドンのような姿勢で。
「なぜあのことを知っている」
「あのこと……もしかして、お前が魔法使いっていう……?」
「そうだ、普通の人間が覚えているわけがない。………いったい何者だ……?」
「いや、普通の中学生だけど……」
「……チッ、埒が明かないな」
そう吐き捨てた後、レイは輝太の胸に手を当てる。
「悪いが、ちゃんと調べさせてもらう」
「は?何────────ッッ!!!」
衝撃が身体を駆け巡った。電流のような、熱のような、得体の知れないものが身体中に染み込んで迸る。
そして、
「ッ!?」
弾かれるように、レイの手が輝太の身体から離れた。
「………なんだ……?魔力の痕跡がない、それどころか、魔力を拒絶しただと………?」
「っがは!ハァ…ハァ…なに、すんだよ!」
「こちらの科白だ!お前はいったい………!!」
「お二方」
睨み合う2人を止めるように、物陰から孤太郎が声をかける。
「何をしていたかは知らないでござるが、そろそろ授業が始まるでござるよ」
「…………………チッ」
踵を返して、レイはその場を後にした。
「……たく、なんなんだよ、アイツ……!」
「まったくぅ、転校生殿に何をしたでござるか?」
「なんもしてねぇよ!……とにかく、あぁ、よくわかった。アイツが魔法使いであろうとなんだろうと──────アイツはたぶん、嫌いなタイプだ」
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放課後になり、輝太は帰路の最中で転校生・鳴上レイについて考えていた。
「(……兄ちゃんから借りたアニメだと、みんながみんないい奴ってわけじゃなかったけど、性根から悪い奴なんてほとんどいなかった。……けど、アイツはなんか、違う。なんだか、どこまでも自分のことしか考えてないみたいな、他人に興味がないみたいな、そんな感じがした。………ていうかそもそも、兄ちゃんから借りたやつは全部"魔法少女"だったけど、アイツは男だし、"魔法少年"ってことになるのか……?まぁ、男子と女子じゃ性格も違うだろうけど………)」
鳴上レイ。彼は間違いなく異質な人間なのだと思う。
朝の挨拶以降、クラスメイトからの質問には一切答えず、会話のひとつもしない。人付き合いが苦手とか、転校初日で緊張しているとはまた違う、まるで他者との関係そのものを拒んでいるような感じだった。
そんな彼は、なぜあの時自分のことを助けたのだろうと、輝太は考える。考えて、考えて、結局答えが出ないまま、モヤモヤした気分を晴らすように空を見上げる。
すると、なにか不可思議な、点のようなものが見えた。
「……なんだアレ、飛行機……いや、星……?ってか、なんか近づい………ていうか、落ち…………!?」
ゴッ、と。衝撃があった。
今朝方の全身くまなく走る電撃のような痛みとは全く違う、顔面を中心に広がる物理的な痛み。それに追随する熱のような感覚が輝太を襲った。
「痛っつ〜〜〜………なんなんだいったい……!?」
「いたた………な、なにモルかあの鉄の塊……?なんで鉄が空を飛べるモル…………?」
そして、ひとつの出会いがあった。
人間────────そして、精霊。
この小さな出会いが、輝太の運命を大きく動かすことになるなど、輝太自身は知る由もなかった。
────これは運命に巻き込まれた少年たちの物語。
とある"魔法使い"の、願いを叶えるための物語。