クリスマスイブ
朝から雪が舞っている。
クリスマスイブ。
『ホワイトクリスマスになるといいな~』
アヤコが、歌いながら手仕事をしている。
『イブになっちゃったけど、あの彼氏さん来た?』
『ううん。オーダー以来、一度も来てない』
『別れちゃったのかな~』
よくある話。
プレゼントをオーダーしていたけど、別れてしまってのキャンセル。
オーダーだから、多少のキャンセル料が発生する。
『ま、キャンセルでもいいか。目立つとこにディスプレイしとけば、うちにはこんな技術がある。ってアピール出来るし』
自分に言い聞かせる。
『あ、アヤコ、今日は少し早めに終わっていいよ。彼とデートでしょ』
『いいの?うれしい。ありがとう。じゃ、超頑張っちゃうよ~』
アヤコは、腕まくりし、長い髪を結わえた。
…いつもは仕事じゃなかったんだ…
アヤコって…
チリリン…
『いらっしゃいませ!』
お昼近くからお客様が増えてきた。
オーダーしていたお客様。
店内の商品を買っていくお客様。
今年のクリスマスは、お客様に『ワンちゃんお買い物バッグ』をプレゼントしている。
残ったプリント生地で作り、ブランドネームが付いている非売品。
毎年違うプレゼントで、昨年はポーチだった。
午後、お客様と話をしていたアヤコが、私に目配せした。
何事?まさかの万引き?
と驚いて見ると…お店の外に、チマチョゴリの彼氏さん。
女性客ばかりで入りにくいのかな?
私はお客様に頭を下げて外に出た。
すると、彼氏さんは
『来るのが遅くなってすみませんでした』
と、頭を下げた。
『心配してたんだよ~。もしかして、お店に入りにくい?今日はお客様が多いから』
『ええ…ちょっと…』
真っ赤になってる彼氏さん。ちょっと可愛い。
オバサン発想な私。
『一緒に入ろう。それなら大丈夫でしょ』
彼氏さんと一緒にお店に入った。
彼氏さんをカウンターに連れていき、チマチョゴリを見せた。
今日はクリスマスイブ。
デザインの手直しは、かなりキツい。
彼氏さんが気に入るかな?
『これ、どう?』
彼氏さんにチマチョゴリを見せる。
『まあ!綺麗!』
彼氏さんより先に、お客様が声をあげた。
その声で、彼氏さんとチマチョゴリの回りに、お客様が集まる。
『これ刺繍?』
『綺麗な色使いね』
『私も欲しいわ』
私とアヤコは、心の中でガッツポーズ!
飾らなくても、いいアピールになってる。
これが商売ってやつかも。
『綺麗です。ありがとうございます』
彼氏さんは、女性客に囲まれて、ますます真っ赤になって、うつむいてる。
『気に入らないとこがあったら言って。出来るだけ希望にそえたいから』
『いえ…犬の服は、僕は分からないので、このままでいいです』
『良かった~。なかなか来なかったから、この出来具合いが気に入るか心配だったの』
キャンセル料を心配していたなんて言えない(笑)
『あの後、彼女とボランティアに行っていたんです。地震被害の。彼女の犬、セラピー犬の訓練受けてるし』
そういえば、彼氏さんがオーダーした後に、遠くの地域で大きな地震があって、介護施設や山間部が孤立したニュースを見た。
『良いことしてるのね』
チマチョゴリを袋に入れ、オリジナルお買い物バッグも入れた。
『これは、彼女さんと貴方への、私からのプレゼント』
そう言って、お揃いのバッグチャームを手渡した。
金と銀のチャームで、ワンちゃんの顔の形。
『ありがとうございます』
彼氏さんは、笑顔で店を出ていった。
………
『チマチョゴリの値段はいくらにしたの?』
夕方、アヤコが帰り際に聞いてきた。
『15.000円。でも、手刺繍だったから、大手メーカーなら、もっとするかも』
『そうだね。じゃ、良いクリスマスを』
『お疲れ様』
良いクリスマスか~
彼のいない私は、実家でクリスマス。
クリスマスの忙しさは、明日の昼までかな?
そのあとはお正月の初売り。
お店を経営する、商品を作るって大変だけど楽しい。