新しいお客様
ワンちゃんの後ろ見頃の刺繍は、金糸銀糸、ラメ糸を使って豪華になってきた。
『難しいけど、なんか達成感があるかも』
なんて、つぶやきながら、チクチクと針を動かす。
1時になって、アヤコがキッチンから出てきた。
『交代するよ。食べてきて』
『うん。でも、なんか、刺繍にハマっちゃった感あるんだよね~』
苦笑いすると、両手を広げて外国人ぽく『呆れた』とアヤコ。
『ま、お腹すいたら、いつでも食べてきていいよ』
アヤコは、今度はサンプルにビーズのフェイクネックレスを付けようとしている。
フェイクネックレスは、簡単に言うと、ネックレスぽく見えるようにビーズを取り付ける事。
刺繍は、ようやく半分出来た。龍の刺繍。
本当に小さなサイズで良かった。
Sとかの大きなサイズだったら、刺繍の下手さが目立って、商品にならなかったかも知れない。
このチマチョゴリは、後ろ見頃、両袖に刺繍。
前見頃には刺繍は入れずに、着物みたいにして、上前にはリボンを付けて、グリッパーをつける。
ワンちゃんのワンピース類は、後ろスカートだけなので、チマチョゴリのしたの部分も後ろだけ。
下は何色にしよう?
ブルーのサテンがいいかな~
あ、そろそろ生地や糸を注文しとかないと…
注文したいものを、チラシの裏に書いておいて、発注書に清書する。
アヤコは、いつ書いたのか、ビーズとフェルトが書いてある。
『さて…次は鳳凰。龍より難しいかも~』
つぶやきがアヤコに聞こえたらしい。
『やっぱり、刺繍地を縫い付けた方が楽かもね』
でも、苦労したお洋服は、着てもらえると『また頑張って可愛いお洋服を作る』原動力になる。
私は職人気質なのかも知れないな~。
チリン…
ドアが開いて、小学生くらいの女の子が入ってきた。
初めて見るお客様。
『いらっしゃいませ』
アヤコが立ち上がる。
女の子は店内のお洋服を色々見ている。
値段にも驚いてる。
『ワンコの服って高いんだ』
『小さくて、作るのが大変だからね』
アヤコが言う。
『クリスマスに犬を買ってもらうの。テレビで見た犬みたいに、可愛い服を着せてあげたいの』
女の子は、ちょっと寂しそうに言った。
私は思わず
『ワンちゃんを飼ったら、連れてきて、見せにきてね。お姉さんもワンちゃん大好きなんだよ』
と話し
『ワンちゃんのベストなら安く作ってあげられるかもよ。うちには、編み物が得意なお姉さんがいるから』
とアヤコを紹介。
女の子は笑顔になった。
アヤコは『クリスマスが楽しみだね』と女の子に言って、ワンちゃんの顔のキーホルダーを手渡した。
『早いけど、お店からのクリスマスプレゼント』
アヤコは、事後承諾の了解を取り、私を振り返る。
『そうだね。また会えるの楽しみにしてるね』
新しいお客様が一人増えた。