新しいオーダー
『ちょっと!まさか徹夜?!』
アヤコの声で目が覚めた。
私はカウンターにうつぶせて寝ていたらしい。
脇にコーヒーを飲んだマグカップが置いてある。
『つい集中しゃって』
『全く…そんな事してると体壊しちゃうよ』
アヤコは言いながら店を開けた。
でも、昨夜頑張ったお陰で、左右の袖の刺繍は出来た。
マグカップを片付けていたら、あくびが出た。
目の下にクマも出来てる。
熱いシャワーを浴びたいとこだけど、お客様が来たらマズいから、急いで顔を洗って、軽くメイク。
『コーヒー入れたよ~』
アヤコが言った。
ブラックコーヒーを飲んで、自分に気合いを入れた。
そうして、後ろ見頃の刺繍をし始めた。
アヤコは、サンプルにリボンや、ビーズを付けて、クリスマスっぽいお洋服に変身させてる。
チクチク…チクチク…
無言で針を動かす2人。
音は、有線放送のクリスマスっぽい曲だけ。
………
お昼になった。
『お腹すいた~‼』
アヤコが両手を上げて伸びをした。
『昼休みに入りま~す』
アヤコは、カウンターの奥の小さなキッチンに入った。
この小さなキッチンは、正確には、広めの給湯室。
半円の小さな2人用のテーブルと椅子。
アヤコは、お店の始まる午前10時から、お店の閉まる午後18時半までいてくれる。
お給料は、最低賃金に毛が生えた程度。
色々してもらって申し訳ないけど、これが今の私の精一杯。
アヤコが昼休みに入ったし、お客も来ないので、2階の自宅に行こうとしたら…
チリン…店のドアが開いた。
プードルを抱いた女性が入ってきた。
『あ、竹内さん。コート出来てますよ』
竹内さんにコートを見せた。
『あら素敵!私もお揃いで着たいわ』
『ありがとうございます』
喜んでもらうと嬉しい。飼い主さんとお揃いで作れたら良いんだけど…
これも、これからの案にしよう。
『良かったわね~。ララちゃん』
竹内さんは、プードルのララちゃんを撫でた。
『今度は、セーターとカーディガンをお願いしようかしら』
竹内さんは、常連で、上客。
かなり助かってる。
竹内さんをカウンターの椅子に座らせて、色やデザインを書き留めた。
『こんな感じでしょうか?』
『そうねえ…。そうだわ。私のセーターとカーディガンを持ってくるから、それと似た風にお願い。そうすれば、お揃いで着られるわ』
竹内さんは、満面の笑みで立ち上がった。
コートの代金を受け取り、笑顔の竹内さんとララちゃんを見送った。