チマチョゴリ①
初めてのチマチョゴリです。
レースのリボンを衿に付けていると、店のドアベルが『チリン』と鳴った。
『こんにちわ~。ももちゃんのドレス出来てる頃かと思って、来てみたんですけど』
ドレスをオーダーした佐々木さん。ビーグル犬のももちゃんを抱いている。
『いらっしゃいませ』
リボンを付けていた手を止めて、カウンターの方を向いた。
この店は、カウンターで仕事場と、売り場に仕切られていて、お客様のオーダーや、相談は、カウンターで話す事になっている。
『作ってみたんですけど、衿が、何だかしっくりこなくて、身頃だけのを、もう1着作ってみたんですけど…どうでしょう?』
私は、出来上がったドレスと、身頃だけのを並べて見せた。
佐々木さんは、2着を見比べたり、ももちゃんにあててみたりしながら
『そうねえ…』と、ももちゃんをなでた。
『こっちの出来上がってる方にするわ。レースのリボンも素敵だけど、甘すぎる気がするのよね~』
『わかりました。ありがとうございます』
最初に作ったのが気に入ってもらえて良かった。
『 6.800円になります』
袋に入れたドレスを手渡して、会計を済ませた。
手間を考えると、安すぎるくらいだけど、手作りのお店。
有名ブランドみたいに1万や2万なんて受け取れない。
『ありがとうございました』
佐々木さんの後ろ姿を見送って、コーヒーを入れていると、アヤコがたくさんの袋を下げて帰ってきた。
『お帰り。コーヒー飲む?』
『飲む。超疲れたよ~』
アヤコは、ダイソーだけじゃなく、他の百均のお店もまわったらしい。
『気に入ったの飾りたいじゃない?』
アヤコは、袋から、星の飾りや、リースを出した。
『このリース、もっと豪華にしてみせるから、期待しててね』
アヤコは、ヤル気満々。
『あ、そうそう、さっき佐々木さんが来てね、ドレス売れたよ。最初のデザインのやつ』
『最初の?良かったね~』
アヤコは、もう手を動かしている。
私も仕事始めるか。
そろそろ、春物のサンプルを作らないと、オーダー取れない。
人間のファッション誌を眺めながら、色やデザインを考える。
チリン…ドアが開いて、若い男性が入ってきた。
『あの…犬の服を作ってくれるって聞いたんですけど』
こーゆうお店は初めてなのかな?緊張してる。
『ええ、ワンちゃんのお洋服をお作りしますよ』
男性は、ガサゴソとカバンからワンちゃんのお洋服を取り出した。
『これと同じ大きさで、デザインはチマチョゴリで、韓国ドラマの王妃っぽく』
『韓国ドラマ?』
韓国ドラマは『風の絵師』なら知ってる。
有名な画家の作品が見られて楽しかったのを記憶してる。
『彼女なんですけど、韓国の歴史ドラマにハマっているんです。だから、クリスマスプレゼントに、韓国の王妃みたいな、犬の服をあげたら喜んでもらえるかな?って。この服は、彼女の部屋から持ってきました』
チマチョゴリなんて、初めて作る。
『分かりました。先にサンプルを作るので、数日したら来てもらえますか?』
『はい。よろしくお願いします』
男性は、ペコリと頭を下げて店を出ていった。
『チマチョゴリ?』
アヤコが振り返った。
『型紙あるの?』
初めてのオーダーだから、型紙は無い。
派遣で働いていた、某有名ブランドでも、チマチョゴリは作ってなかった。
とりあえず、ネットで韓国の王妃の服を調べて、型紙を作らなくちゃ。
パソコンを開いた。