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黄昏マリオネット  作者: Scintillante黒飴屋綺子
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一丁目-猫又-

一丁目―

白桜はくおう並木通りで今日も花見客で盛り上がっている。白桜で作った桜酒で有名。


夢に出てきそうな程の沢山で美しい桜であふ れ返る1丁目。図書館のある町の中心6丁目

は紅葉色づき寒さも感じる風景が見えたのだ が、この帝雲町ていうんちょうに季節は

さほど重要視される事柄ではないらしい。あかがね咲希さきの兄妹に同居人の柿太朗かきたろうも合流し、3人は1丁目の中でも最も桜が美しいとされる並木通りの中央にあるメインの大きな広場へと向かっていた。この町の観光スポットである。柿太朗の明るく発する言葉に、咲希は上品に微笑み、優しくしかし少女らしくほがらかに返す。


「咲希のあねさん!今回のお仕事はどういった内容なんっスか!」

「ええ、今回は猫又ねこまたでしてよ。最も、飼い主は普通の人間。猫又になるまで育てたとは気付いてらっしゃらないようですわ。」

「ネコマタ・・・先輩、それってどういうのなんスか?俺、ジャパニーズモンスターにはあまり詳しくなくて・・」

「ふん、全く。その町に入る前にしっかり調べておけといつも言っているだろう。困った奴だな。猫又というのは・・・」


――――猫又。

それは普通の猫が寿命の枠を越えて百年行きた時、天からここまで育ててくれた人々に感謝するようにと猫又になる事を許されるのである。揺らめく双尾がその証拠である。しかし、変だ。猫又は人には害のないどころか、育ててくれた恩を返す良い妖怪なのだが、聞いた話によると一丁目にいる猫又はどうも不浄な気で桜の蕾を開花させない様にしているらしい。もちろん、普通の人間である飼い主には別の要件として伺う事になってはいるが。なぜ、3人がこの様な会話をしているかと言うと、彼らが副業で怪奇専門の何でも屋をしているからだ。めったに依頼は来ないので趣味と化しつつあるが、3人とも怪奇の依頼を解決する事の出来る”力”を持っている、という事になる。何故、彼らがこの趣味、もとい副業を開いたか、は深い事情があるらしいのだが、今は知るべきではない。さわやかな陽気に吹き抜ける木々を揺らす風に目をかすめながら、銅は咲希に言葉を問いかけるのだった。


「・・・・そろそろ、着く頃か、咲希。」

「はい兄上。依頼主の方がこの先の広場でお待ちですわ。」

「その様だな・・・。」

「うぉー!ここの桜、折角の花が蕾っスよ・・・!」


広場に出ると沢山の桜の木が広場を埋めていた。しかし、その花は並木通りの木々とは違い、すべて蕾だった。満開には程遠い桜のせいなのか、人通りもシーズンにしては明らかに少ない。咲希は集合場所のあたりを見回すとそこに、依頼主の少女は立っていた―。


歳は高校生程で小柄。マロンの様な柔らかい印象の長い茶髪をおさげにしているが、ゆるいニュアンスでしているせいか、あまり堅苦しい雰囲気にはとれない。控え目なレースのブラウスに袴を揺らし表情明るく、咲希の紹介に合わせ会釈をする。


「こちらが依頼主の秋芒院 知香しゅうぼういんともかさんでしてよ。」

「はじめまして。宜しくお願いします!」

「今日はどの様な要件で?」

「実は・・・猫ちゃんが・・・暫く前から元気がなくて・・・」


彼女が抱く猫又は普段の毛並みは白いらしいのだが、今の毛並みは真っ黒く不穏な気を発している。その気に障られて桜が蕾になっているようだ。


銅が様子を見るために触ろうと手を伸ばす。ゆるり、と白く長い指先が猫又の胴に触れるか触れないかという所まで来た瞬間だった。うなだれるように目を伏せていた猫又の目が開いたのだった。


バチバチと烏が鳴くかの様な轟音が鳴り響き、猫又の黒い気から幾らかのの雷が線を貫き銅の腕を襲う。銅は反射的に肩甲骨から腕を動かし腕を退ける。


「・・・・・・っ!」

「先輩!大丈夫っスか!」

「きゃっ!」


知香の手から猫又が飛び出し銅たちの前へ立ちふさがる。禍々しく纏う気は獣の様な形になり、猫又に覆いかぶさり銅たちを威嚇している。銅は猫又に蹴られ、しりもちをついた知香を咲希に託し、猫又と距離を置く。柿太朗は前に出ようと手に力を込める。しかし、銅はそれを手で制し、止める。


「待て。そんな事でお前の力を使うな。ここは私がやろう。」

「っ、・・・先輩・・・わかりました。」


グルグルと忌わしく喉を鳴らす獣の前に銅は歩き出る。黒い獣は大きく吠えると銅に向かって鋭利な牙が生えそろった口を開けて銅に襲いかかる。銅はそれを大きくよけていつの間にか足元のサイドバックから出した短刀をいくつか投げて的確に黒い獣の急所のみに当てた。獣は大きくよろけるが、すぐに男を睨み牙で威嚇する。だが、当の男は凛とした表情を崩しもせず印を切り始める。どうやら彼は鬼道や陰陽道などを使える様だ。獣はぐぐもった鳴き声を上げもがく、がそれすらも別の額縁にあるかのように銅は無表情にウエストバックから抜き出した札を右手で握りしめる。すると札は一振りの刀になり、手に収まった。左手を添えると銅は正確に獣の頭の天辺へと刀を振り上げた。


「白桜の木気もくきよ、かの者を 封ぜよ!」

「・・・・・・!!!」


銅は振り上げた刀を一閃、振り下ろした。黒い獣は叫ぶように吠え切られたかと思えばたちまち切れ目から黒い気が霧か煙の様に札に戻った刀へと吸い取られ、収まる。札は鳥居の囲いの絵のみだけ書かれていた物だったが、そこに墨で書かれた獣の絵が浮き出てきた。封印した様だ。咲希、柿太朗、知香はわっと安堵の表情を見せ、銅に歩み寄る。


「兄上!さすがですわ!」

「すごい・・・!猫ちゃんが真っ白に戻りました・・!」

「おお、先輩、かっこよかったっス!」


しかし、銅は眉間を嫌に寄せたまま札をウエストバックから出した小瓶にしまい、またバックへと戻す。銅に寄った3人はそんな異変に気付き不安げに顔を見合わせる。すると銅は急に上に着ていた赤いカーディガンを脱ぎワイシャツの袖を捲りあげた。あわあわと顔を真っ赤にしてパーにした指で顔を覆うふりをする柿太朗をよそに咲希は銅が袖を捲りあげた右腕を見て兄と同じ様に眉間を歪ませた。


「兄上・・・それは・・・!」

「嗚呼、呪いだな・・・。」


銅の白い腕には元は無かった黒い蛇のタトゥーが描かれていた。

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