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黄昏マリオネット  作者: Scintillante黒飴屋綺子
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帝雲町中央図書館

まぶしい程の夏が眩めきに終り、落ち着いた空が紅葉の様に頬染める、秋。帝がおわすと噂される帝雲町ていうんちょうの人々も服を一枚羽織る人が増え始めた。物語はこの町にある図書館で始まるのだった―。


「キャアアアアアァ!」


いちょうの葉も恥じらう様な黄色い婦人達の声。その的になっているのは受付にいる一人の男である。赤みを帯びた長い金髪を結いあげていて凛、と切れ長に流した瞳は鋭く内に秘める強い物を感じるが、今は気だるげに力を上手く抜いている。小柄に見えるがしなやかに筋肉が付いていて一見、女性と見間違えそうだが、顔つきは人形よりも美しく、今言うイケメン、よりかは男前だ。瞳を閉じてすらり、と長い指で眉間を押さえる。追い返そうにも女性には優しく。紳士精神が勝り、強く言えないでいる。男が困っていると婦人達はまた黄色い声をあげる。


「キャアアアアァ!黄昏の君が物憂げに目を伏せられたわ!」

「影のある所も格好良いですわ・・・」

「黄昏の君、こちらを向いて下さいまし!」


「・・・・・・。」


「キャアアアアアアァァ!!」


ひとつ、またひとつと黄昏の君と呼ばれる男が動くたびに婦人達は頬を林檎の様に真っ赤にしてざわつき始める。毎日彼がいる時間は本も借りずに男の周りに集まり始めて、いつもこの様に大勢が男の周りを囲ってしまい、今日は男が受付にいるものだから、婦人達も案の定受付に集まってしまい、他の利用者が本を借りれない状況になってしまう。さすがに、これでは困るなと黄昏の君が婦人達に声をかけようとしようとした時だった。


パン、パンッ!


手を叩いて婦人達の目を集めたのは黄昏の君の先輩司書の様だった。彼は髪を一部だけ赤く染めたり、じゃらじゃらとアクセサリーを沢山つけたり一見奇抜な身なりをしているが、その手に持っている沢山の絵本を見る限り、悪い人ではないようだ。注目を集めた奇抜な男はすぐに婦人達に声をかける。


「はいはーい、ご婦人方。いつもあかがねちゃん見に遊びに来てくれるのは嬉しーけど、他の人の迷惑になっちゃうのはー、銅ちゃんも望んでないよー。ねっ、あかがねちゃん?」


すぐに自分に話題を振られ、視線が黄昏の君、あかがねに集まる。少し口をきゅ、と閉じて何か考えているのか眉間にしわを寄せた後すぐに顔を柔らかい表情に作り婦人達に向けてなるべくふんわりと言葉を紡ぐ。


「・・・そうですね。時間は沢山あるのですし、今度は是非本を借りに、いらっしゃって下さいね。」

「・・・なんて美しい御声ですの・・・・・・。」

「さー、お帰りはこちらですよーっ。次は本を借りに来ちゃって下さーいねー。」


ほう、と銅の久々に聞いた声に婦人達がうっとりしている内にすばやく先輩司書の男が銅の言葉を思い出させる様に繰り返し、出口へと促していく。婦人達がいなくなると、ほっ、と銅は息をもらし、先輩司書の奇抜な男へ感謝の気持ちを向ける。


「すみません、ほたるさん。いつもありがとうございます。」

「んー?いいっていいってー!銅ちゃんうらやまだけどー、大変っしょー?気持ちはわからないけどー、銅ちゃんいつも可愛いおかお、眉間にしわをぐーっっと寄せて、困ってるもんねー」


奇抜な男、ほたるは銅のものまねをする様にぐっと眉間にしわを寄せてその場を和ませる。銅はふ、と顔を和らげて胸に手を置く。螢はなにか思い出したかのように手を打つと銅にずい、と顔を寄せて提案をし始めた。


「あー、そうだ!あかがねちゃーんは今日は早上がりっしょー?俺もそうだから飯食べにいこーよー!」

「・・・あ、すみません、これから妹達と食事に行く約束をしておりまして・・・。」

「おー!あのちょーかわいー咲希さきちゃんー?ほんと、あかがねちゃんはー、妹想いだ、ね!」


そんなんだから女性にも優しいのかな?なんて意地悪く笑う先輩司書に、銅は申し訳なさそうに目を伏せると後ろから上品で可愛らしい鈴の様な声が兄を呼ぶ。


「・・兄上!」

「おー、噂をすれば。っしょー」

「咲希・・・早かったな。」


振り向いたそこには小柄で華奢な少女がこちらへ歩いて来ていた。朝日の様なシャンパンゴールドの髪を二つに結って白いベレー帽を被っている。さわやかな緑のワンピースが彼女の明るさにひと際彩いろどりを加えている。少女らしく可憐な振る舞いにはどこか上品な色のある印象がある気がする。軽く明るい足取りで受付の裏側にいる銅のそばまで行き、勢いで抱きつく。


「あにうえっ!・・・もう、柿太郎殿もお待ちですわ!」

「嗚呼。すぐ行く。」


(ですわ系妹・・・)


ぼう、っと二人の姿を見て螢はそんな言葉を思い浮かべていたが、きびすを返そうとする二人にすぐ気付き、ゆるゆると手を振る。


「では、蛍さん、お先に失礼します。」

「・・・ん。嗚呼、楽しんでおいでー。」


楽しそうに会話をしながら去って行く二人を見つめながら蛍はちぇ、と呟くのだった・・・・・・。

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