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最悪な出会い ~7~

「た、確かに恥ずかしいな……捨てるのも分かるわ」


 納得した俺を見て三石は少しホッとした表情を浮かべる。


「と言うわけだから勧誘活動は全て春夏にやってもらいます。分かったわね」

「俺だって恥ずかしいよ! 今まで家族にすら声優好きとか言った事ないのに、見ず知らずの奴らに自分が声優オタクとかって言えるわけないだろ!」


 思わず叫んでしまった。俺も三石と同じ……いやそれ以上に勧誘なんて恥ずかしくてやりたくない。三石は俺の心からの叫びを聞いて気持ちが分かったのか、それ以上何も言ってこなかった。

 しばらく沈黙する俺達。その結果、


「ま、まぁ、そこら辺は明日梓も含めて話し合いましょ」

「そ、そうだな」


 問題を先送りにしたのだった。でも先送りにしたところでこの問題が解決するとは思えないけどね……。

 しかし何故そこまで「部」にこだわるのだ? 三石の考える活動の内容からすると、部じゃなくとも同好会でなんら問題はないと思うのだが。


「あのさ、なんでそんなに部にこだわるの? 俺達の活動って部じゃなくても十分できるだろ?」

「部にならないと部費貰えないじゃない」

「へっ? 今なんと?」

「だから部じゃないと部費が学校から貰えないの。同好会でも活動はできるけどお金が一切貰えない。私は部費を使って声優のイベントやライブに行きたいの。だから同好会じゃその計画が実行できないから早く部にしたいのよ」


 面倒臭そうに答えた三石から飛び出した言葉は、まさかの「お金」発言です。しかも当たり前のごとく言いきりやがったぞ、こいつ。


 俺達が住んでいる地方では、なかなか声優やアニメのイベントやライブは行われない。

 だからそうゆうイベントに行くなら、必然的にイベント・ライブ数がたくさんある東京に行くしかない。でも高校生のお財布事情では頻繁に行く事はなかなか難しい。だから部費を目当てにする三石の考えも分からなくもない。だが高校生の、しかも見た目が綺麗で可愛い(性格は最悪だが)女子高生の発言とは思えないほど卑しい気がする。


「……確かに部費が出ればタダでライブやイベントに行けるな……」

「そうゆう事。だから早く部になるようにいいアイデアを明日までに考えておく事。分かったわね!」

「はい……」


 俺は呆れながら溜め息にも似た返事をする。明日の事を考えると今から頭が痛いです。


「それじゃあ今日はこれで解散。これ以上春夏といても何も決まらないし時間の無駄だから。ではまた明日」


 そう言うと三石は自分のバッグを持って足早に帰って行った。

一人になった俺はソファーに座りこの部室で起こった出来事をゆっくりと思い返す。短時間であったが濃い過ぎる内容に心身ともに疲れ果てる。でもここでくたばっていても仕方ない。俺は自分を奮い立たせる為に低めの声で呟いた。


「新学期早々こんな展開になるなんて夢にも思わなかったぜ。でも何が起こるか分からないから人生って面白いのかもな、フフッ。これから俺には様々な困難が降りかかってくるだろう。だが俺は逃げも隠れもせず立ち向かって行く。何があっても立ち止まらない男、それが日笠春夏だぜ。そんな自分が大好きさ。ナルシストってわけじゃない、ただ自分が好きなだけ。そう自分の事が大好きなだけ。フッ」


 決まった……。今の俺ちょーカッコ良い。


 こうして自分一人の世界に浸るのが大好きな俺。カッコ良くはない俺だけど自分の世界にいる時だけは、誰よりも輝いていると思っている。まぁ自己満ですけど。

 でもこんな姿誰かに見られたら、恥ずかし過ぎて死んじゃいますけどね。一人の時だけの秘かな楽しみです。


「何キモい事言ってるのよ……」


「わぁっ!」


 声に驚き振り向くと三石が、気持ち悪いものを見るかのような冷やかな視線でこっちを見ていた。


 見られた! 俺の最も恥ずかしい場面を三石に見られてしまうとはなんたる不覚。

 恥ずかしい! 恥ずかし過ぎて今すぐ死んでしまいたい!


「な、な、なんでそこにいるんだよ!」


 俺は顔を真っ赤にして慌てまくる。そんなテンパった俺に三石はニヤつきながら、


「ナルシストってわけじゃない、ただ自分が好きなだけ」


 俺のものまねを始めやがった。や、やめろ~、やめてくれ~!


「ちょ、ちょっと何ものまねしてんだよ!」

「何って自分の事をカッコ良いと思い込んでいる、残念なナルシスト野郎のものまねよ。似てるでしょ?」

「に、似てね~よ!」

「あら、そんな反抗的な態度を私にとっていいのかな? あんたのクラスに行って、皆にこの事バラしてもいいんだけど」

「やめて! それだけはやめて!」


 こんなのバラされた日には、恥ずかし過ぎて二度とクラスに行けなくなる。俺は必死で三石に止めるように頼んだ。


「安心しなさい。私だって鬼じゃないんだから、春夏君が私の言う事黙って聞いてくれるのならそんな事しないわ。でももし春夏君が逆らったらどうなるか分からないけどね。そうならないように気をつけてね」

「うぐぐ……。は、はい……分かりました……」

 

 俺の弱みを握って不敵な笑みを浮かべる三石。この時点で俺と三石の上下関係が完全に決まってしまった。


「部室の鍵忘れて取りに戻ったらこんないいもの見られるなんて私って幸せ者ね、くくっ」

「…………」


 憎たらしいぐらい爽やかな笑顔で嫌味を言う三石に、俺はただただ赤面するだけで何も言えなかった。


「それじゃあキモい春夏君、私の代わりに職員室に鍵返却しといてね~」

「は、はい……」


 今にも泣き出しそうな俺を三石は小馬鹿にしながら帰って行く。その時のあいつの笑顔を俺は一生忘れないであろう。悪魔のようなあの笑みを……。

 最後の最後で最悪な場面を見られてしまったぞ。

 これからあいつに何を言われるのだろうか……。想像しただけで胃が痛くなる。

 俺の高二はこんな感じでスタートした。


 良いか悪いかって言ったら……完全に悪いスタートです。


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