最悪な出会い ~6~
「と、とにかく部活申請ができなかったの。だからあんたの入部許可するって言ってるのよ! 分かった!」
「なら普通にそう言えばいいだろ? なんで聞こえないように言うんだよ」
「だ、だって……まさか申請が認められないなんて思ってもみなくて……」
恥ずかしそうに言う三石。部活申請の許可が出なかった事は三石としては想像もしていなかったようで、かなり落ち込んでいる。
そんな姿を見たらムカつく奴と分かっていてもやっぱり心配になる。
「でもなんでダメだったんだ? 事前に先生には部活作るって言ってたんだろ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「……部活作るのに必要な人数が足らなかったから」
「人数不足か、で、何人いないといけないんだ?」
「……八人」
全然足りへんやん! 関西出身じゃない俺が関西弁でツッコミ入れたくなるほどの衝撃。
八人必要なのに二人しかいないって……。そもそも部活申請に必要な人数ぐらい事前に調べとけよ。そうつっこみを入れたくなったが、目の前でかなり落ち込んでいる人に対してさすがに言えない。
「ぜ、全然足りてないね……」
「新しい部活作るのに八人もいるなんて知らなかったよ、はぁ……」
三石は溜め息をつきながらうな垂れる。俺が思う以上にショックは大きいようだ。
でもそうなっても仕方ないか。だって声優と仲良くなりたいという熱い思いを抱き、去年の年末から四カ月も待っていざ部活が作れそうになった矢先にまさか、「人数が足らない」という初歩的なミスで部活を作れなくなるなんて。いくら自分のミスとは言えショックは大きいだろうな。
だが部活作るのに必要な人数が八人いるのに、俺が入っても三人になるだけで焼け石に水だと思うのだが。何故俺を入れてくれる気になったのだ?
「で、でも俺一人入ったぐらいじゃ全然足りないだろ?」
「あんたが入ってくれたら部は無理だけど、同好会作るのに必要な人数はクリアできるから、だから入って欲しいの」
「同好会? 同好会は何人で大丈夫なの?」
「三人から七人いれば同好会としての活動を認めてくれるみたい」
部を作るのは一旦諦めて同好会からスタートして、いずれ部への昇格を目指していく考えってわけか。で、同好会として認めてもらうべく仕方なく俺を入れるんだな。
だが俺もここで「うん、分かった」とは簡単に言えない。
この部……もとい同好会には興味あるし正直入りたい。だがさっきまで三石に散々コケにされたんだ。今までの俺に対する無礼をしっかり謝ってもらわないと納まりがつかん!
「事情はよく分かった。だが俺にもプライドがある! 今までの俺への無礼をちゃんと謝罪してもらわないと入部はでき……」
「ごめんなさい!」
はやっ! 謝罪するのはやっ!
俺が言い終わる前に三石は謝ってきた。
頭を深々と下げて謝罪してくる三石の姿は、本当に申し訳ないという事が全身から伝わってきて、文句の言いようがない完璧な謝罪た。その姿を見たらもう何も言えない。
「わ、分かればいいよ。な、ならこれからよろしく……です」
「本当に入ってくれるの! やったぁ~! ありがと!」
三石は俺の言葉を聞くと満面の笑みで歓迎してくれた。その姿を見るとこっちまで嬉しくなる。笑うとやっぱ可愛いな、こいつ。
「それじゃすぐ梓に連絡しなきゃ」
そう言うと電話をかけ出した。多分さっき電話をしていた子にかけるのだろう。
まぁ色々あったが、新学期早々まさか自分が同好会に入るとは思いもしなかった。
三石の性格はやや難ありだが、声優好きという点ではいい出会いなのかもしれない。生まれて初めて同じ趣味を持つ人と出会ったのだから。同じ同好会で活動していけば自然と仲良くなっていくだろう……多分。
若干の不安はあるが、この同好会がこれからの俺の高校生活を更に素晴しいものにしてくれるだろう。今はまだ三人だがきっとこれから部員は増えていって、多くの仲間と今までできなかった声優やアニメの話を、心ゆくまでとことんできるだろうな。
そんな事を考えていたらニヤニヤしてきたぞ。さっきまで怒っていた自分が嘘のようだ。
これから始まる同好会。どんな活動をしていくのか早く色々と話したくなってきた。俺は三石が電話を終わるのをソワソワする気持ちを抑えながら待った。
「じゃそれでよろしくね。うん、また後で」
安堵した表情で電話を切った三石は、俺に向かって笑顔でピースサインをしてきた。その姿、可愛過ぎます!
どうやら申請は上手くいったみたいだな。これで俺は正式に「声優と仲良くなれる部(今は同好会ですが)」の一員になったわけだ。
俺はちょっと恥ずかしそうに改めて三石に挨拶をする。
「最初は険悪な感じもあったけどこれからは同好会の仲間として、一緒に活動して行くわけだし仲良くやっていこう! よろしくな三石さん」
「よろしく、春夏」
お前は呼び捨てすんのかよ! 俺が呼び捨てした時はめっちゃ怒ってきたのに、非常識呼ばわりまでしてきたのに、お前はあっさり俺を呼び捨てかよ!
まぁ、最初に「あんた」呼ばわりしてきた時点で若干イラッとしていたけどね!
でも、可愛い女の子に呼び捨てにされるのって…………悪くない!
ちょっとMっ気な自分に気がついたところで三石が真顔で一言。
「それじゃ~春夏、早速だけど部員勧誘に行ってきて」
「へっ?」
「へっ? じゃなくて勧誘に早く行ってきて。同好会にはなったけど私は部にしたいの。だから残り五人を早く集めないといけないから早く勧誘してきてよ」
「な、なんで俺が?」
「だって春夏が一番下っ端なんだから、こうゆうのするの当たり前でしょ!」
うわー、また態度変わってるよ。なんでこうコロコロ変われるかな。この態度の変わり方を見ると、さっきの謝罪は思いっきり形だけだな。俺を同好会に入れる為に仕方なく謝ってきたんだ。それを俺は心からの謝罪と思うなんて、見抜けなかった自分が情けない。
「ほら、何ボサっとしてるの。早く行ってきてよ」
「お、俺一人っておかしいだろ? こうゆうのは部員皆で力合わせてやるものだろ?」
「全然おかしくないわ。例え他の部活がそうだとしてもこの同好会は一番下っ端が部員勧誘するのが決まりなの。何故ならこの同好会のトップである私がそう決めたから」
「と、トップって誰がいつ決めたんだよ」
「だって私がこの部を作ろうって言い出したんだから、必然的に私が部長でしょ。今は同好会だから会長か。いずれにしても私がトップになるのは当たり前の事なの」
「そ、そんな……」
確かに創設者がトップになるのは分からんでもないが、だからと言って自分の好き勝手に物事決めるとはまさに暴君的発想。このままでは本当に俺一人で勧誘活動をしなければならなくなる。ここはなんとしても皆でやるという方向に持っていかねば。
「か、勧誘って言っても手ぶらじゃできないだろ? まずはチラシやポスターを作らないと。ゴミ箱に捨てたチラシは何か気に入らなかったから捨てたんだろうし。だから先にチラシとか作ろうぜ」
「べ、別に気に入らなかったところなんてないわよ……」
三石は少し気まずそうに答える。三石の言葉を聞いて俺の頭の中に「?」マークがいっぱい浮かぶ。
「えっ? じゃあなんで捨てたんだよ?」
「だってあんなの配ったら恥ずかしいでしょ」
「恥ずかしい? なんで恥ずかしいんだよ?」
「だ、だって『声優と仲良くなれる部』なんて書いてあるチラシ配ってたら、もろ声優オタクってバレるでしょ? そう考えたら配るの恥ずかしくなって……だから捨てたの」
三石は顔を真っ赤にしながら答える。そう言われたら確かに恥ずかしい。
三石の言うとおりこの部の勧誘活動をしていれば、自分達がオタクと言う事がバレてしまう。でもそれを嫌がって勧誘活動をしなければ、いつまでたっても部員は増えないし、部への昇格もできない。
部の昇格を目指す上で一番にやらないといけない勧誘活動が、最大の障害になるなんて思ってもみなかった。




