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最悪な出会い ~5~

「もしもし、梓? どうしたの? うん、うん……そうなの」


 三石は俺に背を向けて電話に出る。声はまた可愛くなっている。

 こう態度がコロコロ変わるのもある意味才能なのかもしれない。でも全くうらやましくないけどね! 


 電話をしている三石が俺の方に振り返り、スマホを持ってない左手で一つの仕草をする。

 手のひらを自分側(三石側)にして、そして勢いよく俺の方にその手のひらを見せる。

 それを何度も繰り返す。そう、「あっちいけポーズ」をしてきたのだ。この部屋から早く出て行けと言わんばかりに、何度も何度もそのポーズを繰り返す。でもその間もすんごく笑顔で電話している。


 この女、本気で俺をバカにしているな! とことん俺をバカにしているぞ!

 こうなりゃこっちも本気の説教をしてやる! さっきは心折れてできなかったが、今度はガツンとかましてやるぜ!


 また俺に背を向けて三石は電話を続ける。俺は三石が電話を終えるのを待っ た。

 こいつが電話を終えた時、こいつにとっての地獄が始まるぜ! 覚悟しろよ!

 

 そんな事考えながら待つ事五分……。

 …………十分経過…………。

 …………十五分経過………………。


 長げぇ~~~~~よっ!

 どんだけ電話してんだよっ! 待たされているこっちの身にもなれって~の!

 まぁ、俺が勝手に待っているだけですが……。

 俺が心の中でブツブツ言っていると、電話をしている三石の声のトーンが急に変わった。


「えっ? 嘘! ……本当に?」


 明るく可愛い声から深刻そうな感じの声になった三石。何かあったようだ。


「うん、分かった。こっちでなんとかするから心配しないで。じゃあまた電話する」


 電話を切った三石の顔からは笑顔が消えていた。


「何かあったのか?」


 三石の顔を見ていたらなんか心配になり、自然と話しかけていた。


「はぁ? まだいたの? いつまでここにいるのよ。早く出て行ってくれないかな」


 え――――――――っ! 何それっ!

 こっちは心配して聞いたのに何その返事!

 人の親切心を踏みにじりやがって……こいつは悪魔だ! 人の皮を被った悪魔だ!

 じゃないとこの性格の悪さは説明ができん! こんな奴を一瞬でも心配した自分に腹が立ってくる。


 ダメだ……。このままここにいたら、こいつの性格の悪さが俺の純粋で清らかな心を侵略していって、俺まで性格が悪くなりそうだ。それに女性恐怖症が取り返しのつかないぐらい悪化してしまう……。


「分かったよ! こんなところ二度と来るかよ!」


 今日は最悪な日だ。二年になった初日からこんなわけの分からない奴と出会うとは……。

 こんなにイライラした事なんて生まれて初めてではなかろうか。

 やり場のない怒りを抑えながら部屋を出ようとした時だった。


「ちょっと待って!」


 三石が俺を呼び止める。


「な、なんだよ。まだ何か文句あるのかよ」


 少しビクビクしながら三石の方へ振り返る。すると何か考え込みながら三石が、


「いいわよ。あんたの入部認めてあげる」

「へっ?」

「だから、この『声優と仲良くなれる部』に入れてあげるって言ってるの!」


 さっきまで完全拒否していた俺の入部を今度は認めると言い出した。


「はぁ? さっきまであんなに拒否ってたろ! 何今更言ってるんだよ」

「さ、さっきはさっきよ。事情が変わったの! 入部認めたんだから感謝しなさいよね」

「な、なんで感謝せにゃならんのじゃ!」


 コロコロ変わる三石の態度にもうわけが分かりません。

 だが冷たくて上から目線だった口調が、少しだけ柔らかくなった気がする。


「事情が変わったって何かあったのか? ひょっとしてさっきの電話と関係あるのか?」

「あ、あ、あ、あんたには関係ないでしょ……」


 分かりやすい奴だな。明らかに動揺している三石。さっきまであんなに拒否っていた俺の入部を、認めるしかないほどの劇的な何かが起こったらしい。


「そうだよな。俺は関係ないよな。関係ない俺が入部したら迷惑かかるから止めておくよ」


 ちょっと意地悪っぽく言ってみるお茶目な俺。


「ちょ、ちょっと待って! 関係あるから。あんたも関係あるから!」


 三石は俺の言葉を聞いて慌てまくる。そんな三石の姿を見て調子に乗った俺は、今までの仕返しとばかりに上から目線で話しかける。


「関係あるの? 俺が? だったらどう事情が変わったか教えてくれるかな?」

「そ、それは……その……」


 三石は言葉につまる。どうしても言いたくないようだ。だが俺はすかさずたたみかける。


「やっぱ俺関係ないから教えてくれないんだね……。なら入部止めとくよ」


 そう言って帰ろうとすると、三石は俺の右腕を力いっぱい掴んで引き止めた。


「わ、分かった! 言うから、言うから待って!」


 腕を掴む力は女の子離れしていてかなり痛かった。それに怯んだわけではないが、


「お、おう、じゃ、じゃあ聞きまひょ?」


 どもった上に「聞きまひょ」って言ってしまった。恥ずかしすぎる俺……。

 そんな事はお構いなしで三石は話し出す。


「……かが、でなかったの……」

「えっ? なんだって?」

「だから、……許可が出なかったの……」 


 三石は肝心な部分をはっきり言わない。俺は更に聞き直す。


「よく聞こえないって。何が出なかったって?」

「だ~か~ら~……」


 顔を真っ赤にした三石は声に力を込め出した。


「だから何よ……、へっ? ちょ、ちょっと……三石さ……」

「部活申請の許可が出なかったって言ってるでしょっ! バァカァ~!」


 声と同時に力強いビンタが俺の左頬に炸裂!


「い、いてっ! な、な、なんでビンタ~?」

「あ、あ、あ、あんたがしつこく聞いてくるからでしょ!」

「し、しつこくって、三石……さんがはっきり言ってくれないのが悪いんだろ!」


 左頬を手で押さえながら涙目で抗議する俺を、三石は真っ赤な顔で睨んでくる。


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