声優と仲良くなれる同好会 ~3~
「あとは春夏だけだな」
「えっ? 何が?」
「夢叶える事に決まっているだろ。今の夕実ちゃんなら養成所に入っちゃえばあっと言う間に大人気声優になれるよ! 僕が言うんだから間違いない! て事はこの同好会で夢叶えていないのは春夏だけになるね」
「そ、それは……その……」
確かに三石の事だから再び養成所に通い出したら、モデルとしても通用する綺麗なルックスと、今まで溜めに溜めた声優になりたいと言う熱い思いを一気に爆発させて、声優デビューする日も遠くないかもしれない。
それに大人気声優である藤咲麻衣の真野が、色々と教えたりして三石を支えていくだろう。よって三石の将来はもの凄く明るいものになるのは間違いない。
それに比べて俺はと言うと、明るい未来が待っているとは冗談でも思えない。
だって投稿すれば低評価。三石と真野を仲直りさせるプロットだって、全く使い物にならなかったしな……。絵の勉強も物語の作り方も、学ばなければいけない課題は山積み状態だ。
急に現実を突きつけられ落ち込んでいると、三石が俺の頭をグシャグシャに撫でながら、、
「大丈夫! 今は下手くそでどうしようもない春夏の漫画だけど、漫画家になりたいって思う気持ちは本気でしょ? ならいつか必ずなれるから! 私も全力で応援するしね!」
「確かに今は下手中の下手だけど、これから必死で努力すればいつかなれるよね! そしていつか春夏の漫画がアニメ化されたら、僕と夕実ちゃんが出てあげるよ。だから絶対に漫画家になれよ!」
「へ、下手下手ってどんだけ言うんだよ……。で、でもありがとな……。俺絶対に漫画家になるから。そしてアニメ化になったら絶対に二人に出演してもらうから……うぅぅ」
「「約束ね」」
「あぁ……」
二人からの温かい言葉に完全に泣いてしまった。
原稿紛失事件の時も二人からは励ましてもらったけど、今は本当に「仲間」って感じがしてあの時よりも何十倍も嬉しい。そしてやる気もあの時より何十倍も何百倍も貰えた!
「何泣いてるのよ。キモいな春夏は」
俺の頭を更に撫でまくる三石。と言うか撫でると言うよりかは、頭を振っていると言った方が正しくて、その結果若干気持ち悪くなってしまいました。
「ち、ちょっと三石さん……。き、き、気持ち悪いから……。揺らさないで……」
「あとその『さん』づけもいいかげん止めないとね」
「えっ?」
「いつまで私と梓に対して『さん』つけて呼ぶ気なの? 同級生と後輩に向かって『さん』づけは普通しないでしょ」
いやいやいや! そっちが「さん」つけろって言うから俺はしてたんですよ! 誰も好きでそう呼んでたわけじゃないですから!
そうつっこもうとした時だった。
「もう春夏も私達の仲間なんだし、私達の事を呼び捨てで呼んでもいいよね? 梓」
「ゆ、夕実ちゃんがそう言うならべ、別にいいけどね。た、確かに春夏はな、な、仲間って言うか……そ、そんな感じだし…………うん」
三石が真野に同意を求めると、真野は照れながらも賛同した。
真野の口からも「仲間」って言葉を聞けて、俺は改めて嬉しさが込み上げてきた。三石が言ったとおり、真野も俺の事を仲間だと認めてくれていたんだな。
そして何より三石も俺の事を仲間だと思ってくれていたなんて、こいつ等どんだけ俺を喜ばせれば気が済むんだよ! 嬉し過ぎて再び泣いてます!
確かに二人が仲直りした日から、三石の口調とか俺に対する態度が少し優しくなった気はしていた。前みたいに俺を奴隷のように扱ったり、悪口を言わなくなったし。
あの日から三石も俺を仲間だと思ってくれていたのかな……。
色々あったけどこうして二人から「仲間」と認められて、俺はこの同好会に入って心から良かったと思っている。
あの忌まわしき中二ウ○コ事件で女性恐怖症になって以来、まさか女の子の仲間ができるなんて正直夢にも思っていなかったから、余計に嬉しいのかもしれない。
でも今思うと三石と真野と話す時は、女の子と話している感覚がなかったな。
だって出会ってすぐ喧嘩していたし、普段の会話も文句の言い合いが多かった気がするから。だからどっちかと言うと男と話している感覚の方が大きかった。 でもそれが逆に良かったのかもしれない。出会い方や話す内容ははともかく、どんな形でもずっと話ができていたからこそ今につながっていると思うから。
この二人との出会いは女性恐怖症を治す意味でも、そして同じ趣味を持つ同志としても、そしてそして夢に向かい頑張る仲間としても、まさに運命的な出会いだったと強く思う。
「なんでまた泣いているの? 意味不明だよ」
三石は呆れた感じで俺の頭を二・三度軽く叩く。
「ご、ごめん……三石さん……じゃなくて三石。なんか嬉しくてつい……」
「泣いてる暇はないわ。これから職員室に行かないといけないんだから」
「え、え? なんで職員室?」
「同好会の名前を変える為よ」
「名前を?」
涙を拭きながらキョトンとする俺に、三石から思ってもみない言葉が飛び出してきた。
「自分の好きな事を隠すのって、自分自身をもの凄く否定している気がするの。どんなに恥ずかしい事でも、他人に知られたくない事でも、自分が好きな事なら自信を持たないと自分自身に失礼だって思えてきたの。だから同好会の名前を正式なものに変えて、堂々と活動しようと思うのよ」
「それって同好会の名前を、『声優と仲良くなれる』にするって事か? そんな事したら周りから白い目で見られるかもしれないんだぞ! 友達だって減るかも……」
「大丈夫よ!」
不安になった俺の言葉を三石は力強く遮る。そして俺と真野の手をゆっくりと握る。
急に三石に手を握られた俺はめっちゃ照れて動揺しまくる。そんな慌てた俺と真野を三石は優しく見つめながら、
「確かに色々な事を言ってくる人がいるかもしれないし、ひょっとしたらいじめられるかもしれない。でも今の私には自分の夢を心から応援してくれる仲間がいる。大好きな梓と髪型が変な春夏がね。私達が一緒なら例えどんな事があったとしても、乗り越えて行ける気がするの。だから今なら堂々と『声優と仲良くなれる同好会』って言えると思ったの」
「うん、そうだね! 僕も大好きな夕実ちゃんがいれば、どんな事があっても乗り越えて行けるよ! それに髪型が……本当に髪型が変な春夏もいるしね。僕達ならどんな事があっても大丈夫だよね!」
三石と真野の言葉を聞いて俺は胸が熱くなるのを感じた。確かに二人の言うとおり、この三人なら何があっても負けずに乗り越えて行けるだろう。だって俺達は「仲間」なんだ!
楽しそうに話す二人を見ているとこれから襲ってくるかもしれない不安よりも、これから三人で味わうであろう楽しさや嬉しさや喜びの事しか考えられなかった。
「確かに俺も二人がいれば乗り越えて行けると思う。でも…………どんだけ俺の髪型批判してんだよ! 『髪型が変な』って言葉つけなくていいだろうが! せめて『似合ってない髪型をしている春夏』だろうが!」
再度の髪型批判に今度は流されないようにはっきり聞こえるように抗議する。
「そんな嘘はつけません。春夏の髪型は凄く『変』なの。ねぇ梓」
「うん! 春夏の髪型は基本変! 僕がイジってなんとか見られるレベルになるけど、春夏自身のセットは完全に変です! よって変な髪型と言う表現は間違っていないのだ!」
「お~ま~え~ら~な――――――――――!」
「あっ! 春夏がキレた! 逃げろ梓!」
「は~い夕実ちゃん♪」
「待てぇ~こら――――――!」
「「きゃ~♪」」
笑顔で部室を飛び出していった三石と真野を俺は追いかける。
言葉は怒っているが、俺の表情も二人と一緒で自然と笑顔になっていた。
だが二人とも足速いもんだから全然追いつけません! 俺の笑顔は一瞬で苦痛の表情に変わっていた。




