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声優と仲良くなれる同好会 ~1~

「本当に止めろ――――――――――――!」

「安心しろ春夏! 今日の髪型は最新ファッション誌に載っていた髪型だから。不細工なお前でもきっと似合うはずだぞ!」

「お前がやると雑誌と全然違う形になるだろ! しかも大量に毛が抜けるし!」

「文句言うな! 待て――――――――! あははっ」

 

 三石と真野が仲直りしてから数日が経った。同好会解散と言う最大の危機を無事乗り越えた俺達。真野の転校問題も二人が仲直りしたその日のうちに学校側に中止すると伝え、三人で今までどおり同好会も再開した。


 こう言えば良い事だらけのように聞こえるかもしれないが、喜んでばかりはいられない問題が一つ出てきた。それは――――――、


「はい捕まえた! ではこれから梓様のお手並み拝見させてやりますよ!」

「た、頼むから毛は抜かないで! ……て即行抜いてるやん!」


 真野がやたらと俺に絡んでくる事だ。正確に言えば、俺を見る度に髪の毛をやたらといじってくる。そのせいで明らかに俺の毛は減っています! めちゃくちゃ大量に減っています! 


 今日も部室に来てみたら、真野が男性用のヘアカタログやファッション誌を持って俺が来るのを笑顔で待っていた。毎回必死に抵抗するものの、真野の力は女の子とは思えないぐらいの怪力だから全く敵いません。


 楽しそうな真野を見る限り悪気はなさそうだが、俺としてはお気に入りの髪型にもできないし毛は減るしで正直地獄です。まだ殴られたり髪型の悪口を言われていた方が良かった。


「おっ! 今日もやってるね」

「夕実ちゃん! 今日の髪型はもの凄くカッコ良くなるよ! 期待しててね!」

「はいはい、楽しみにしてます」

「か、勝手に楽しみにするなよ! ってか頼むから真野さんを止めてくれよ!」 

 

 遅れてやってきた三石が楽しそうに声をかけてくる。俺の悲痛な叫びなんて三石が聞くわけもなく、俺がおもちゃにされているのを、優しい笑みを浮かべながら黙って見ている。


「よしできた! どう夕実ちゃん?」

「す、素敵……。こ、これで春夏の魅力もす、数ミリ上がったんじゃない……くくっ」

「だって春夏! 良かったな!」

「よ、良くねぇ~よ! なんだよコレ!」


 満足そうな真野と必死に笑うのを堪えている三石。俺は真野が差し出した手鏡に映る自分の姿を見て驚愕する。


 髪全体にジェルを塗りたくられて、綺麗な七三分け……もとい九一分けにされている。

 でもって前髪はクルンと丸められて、てっぺんの毛は無理やり団子が作られており、どう見てもカッコ良いとは程遠い残念な髪型になっていた。


「これで春夏も人前に出ても恥ずかしくないレベルになったな。全身で喜べ!」


 真野は笑顔でピースサインをしてくる。


「お、俺は人前に出ちゃいけないほど不細工じゃないわ! それにどう見てもこっちの方が不細工だろうが!」

「あっ、ごめん。電話鳴ってるから」


 そう言うと真野はスマホを持って廊下へ出ていった。俺の抗議を完全にスル―して……。


「あぁ~あ、どうしてくれるんだよ……。髪固まってるじゃんかよ……」

「梓、楽しそうだね」


 必死で髪型を戻そうとしている俺の横で、三石は嬉しそうに呟いた。


「な、何が楽しそうだよ! こっちの身にもなれよ。毎回いじられる度にたくさん髪の毛抜かれて、正直迷惑なんだよ!」

「あら、そんな事言っていいのかな? あの藤咲麻衣が春夏の髪型を真剣に考えてくれているのよ。藤咲麻衣ファンが聞いたら泣いて喜ぶ出来事よ」

「そ、それは……」

 

 そう考えたら確かに凄い事だな。あの声優界若手NO.1の藤咲麻衣が俺の髪型をセットしてくれている。(ダサい髪型だけどね)しかも俺は抵抗する形とはいえ必然的に真野の手や腕を触っている。これはもの凄く幸せな事ではないのか? でもそのおかげで俺の毛はかなり犠牲になっていますが……。

 

 俺が腕を組みながらしみじみ考えていると、三石が少し寂しそうな表情になった。


「でも男相手にあんな楽しそうな表情されると少し寂しいな。春夏といる時の梓って私といる時と同じ表情になるから」

「えっ?」


 そう言えば真野って大の男嫌いだったよな。俺の髪型をおもちゃにしている真野を見ていると、男嫌いと言う事を完全に忘れていた。


 思い起こせば俺と始めて会った時に、「男とは話したくないぐらい嫌い!」って言っていた真野が、なんで俺の髪を触りまくっているのだ? しかも俺が真野に触れても一切文句も言わないし。


「確かに言われてみれば真野さんって男嫌いだったんだよな。……ひょっとしてもう自然と男嫌いが治ったとか?」

「いや、今でもクラスの男子や街中で会う男性には、完全に拒否反応を示している。春夏が特別なのよ……」

「えっ? そ、そうなの……」


 三石は少し悔しそうに言った。

 俺は「特別」って言葉に思わずドキッとしてしまう。まさか真野は俺に惚れて……、


「あっ勘違いしないでね。梓は春夏の事タイプじゃないって言ってたから。恋愛的な『特別』って意味じゃないからね」

「わ、分かってるよ……そんなの……」

 

 若干期待してしまっただけに、バッサリ三石から否定されてショックが隠しきれない。


「ただ梓は春夏が自分の為に頑張ってくれたのが嬉しかったのよ」

「嬉しかった?」

「春夏が私と梓を仲直りさせようと頑張ってくれたのが嬉しかったから、だから梓は春夏の事を信用して、『仲間』として認めたのよ」


 意外な言葉を連発する三石だが、俺には納得できなかった。

 確かに真野には感謝の言葉は貰った。だが内容は感謝の言葉よりも、脅しや批判が大きかったように思う。あの時は真野なりの感謝の言葉だと思ったが、冷静に考えてみるととてもじゃないが感謝している奴の言葉とは思えない。


 それに真野は俺の股間を二度も蹴ったんだ。よってどう考えても仲間として認めてくれたとは思えない。おもちゃ程度に考えているなら納得はできるが。


「確かに今は俺に対しても笑顔で話しかけてくれるけど、でも仲間って言うよりおもちゃ感覚だと思うのだが……」

「多分恥ずかしいのよ。今まで長い間ずっと男嫌いだったから、素直に表現できないだけなんじゃない? その証拠にもう春夏の事を『バカ春夏』って呼ばないじゃない」

「た、確かにそうだけど…………」

「笑顔で話す事。相手に自然と触れる事。相手の事をちゃんと名前で呼ぶ事。それが梓なりの親しみを込めた接し方なのよ」

「……お、おう……」


 首を傾げながら質問する俺だったが、三石の言葉を聞いて納得できた。と同時にもの凄く照れてしまった。


 俺は真野に無責任な発言ばかりしてたくさん傷つけてきたし、余計な悲しみをたくさん与えてきたとずっと反省していた。でも真野はそんな俺を仲間として認めてくれたんだな。


 あの手紙も心の底から書いてくれた物なんだ。そう考えるともの凄く嬉しい! これなら多少髪の毛抜かれても我慢できるぞ! でも毎日は勘弁してほしいけどね。


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