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仲間になるために ~6~

「真野はお前とあのイベント会場で出会った時の事を、『この出会いは運命』だってすんごい笑顔で言ってたんだ! 『小さい頃から芸能界にいて友達がいなかったから、夕実ちゃんと友達になれて凄く嬉しかった』ってそれはそれは幸せそうにニヤニヤしながら言ってたんだぞ! お前に会う為に一人暮らししたり、少しの時間でもお前に会いに行く奴が、どんな事情があったとしても、お前に復讐しようなんて考えるわけないだろうが!」


 再びムカついてきた俺は、顔を真っ赤にさせながら真野の思いを代弁する。


「う、う、うるさいうるさいっ! そんな事、あんたに言われなくても十分分かってるよ!」 


 俺の言葉を聞いて三石は頭を激しく左右に振りながら叫んだ。そして苦しそうに真野への思いを吐露する。


「梓が復讐とかする子じゃないって分かってるよ! だって私がどんなに恨んで憎もうとしても、梓の優しさに触れてどうしても嫌いになれなかったのよ! 梓はいつも私の事を考えてくれて、私が困ったり悩んでいる時はずっとそばにいてくれて、私を励ましてくれたの……。どんな時も私の一番の味方だったのよ。そんな優しくて素直で純粋な梓が、復讐とかするわけないじゃない……ひっくぅぅ……。」

「な、なんだよ……。わ、分かってるなら……い、いいけどさ……」


 なんだかんだと言っても、やっぱ三石は真野の事を一番分かってるんだな。泣きながら真野の事をベタ褒めする三石に、これ以上責める事もできず口ごもってしまった。すると突然電気が走ったような激しい痛みが俺の体を襲った。


「夕実ちゃんをこれ以上泣かせるなバカ春夏!」


 真野が怒鳴りながら俺の股間を力いっぱい蹴り上げる。その痛みで俺はのたうち回る。


「なぁ……なでぇ……うぐぐ……こ、こかんぅ」

「もう大丈夫だよ夕実ちゃん! 変な事言うバカはやっつけたから! だからもう泣かないで! ねっ」


 真野は泣きじゃくる三石を優しく慰める。三石は真野の顔を見ると更に涙を溢れさせながら、


「あ、梓……。誤解とは言えずっと酷い事言ってごめ、ごめんなさい……。だけど私、夢が終わった事をだ、誰かのせいにしないと、ショックから立ち直れなかったの……。で、でもどんな事情があったにしても私のした事は許される事じゃない……。だから梓とは仲直りできないのよ……うぅぅぅ…………」

「仕方ないよ! 多分僕だって夕実ちゃんと同じ立場ならそうしてたかもしれないし。だから夕実ちゃんは全然悪くないから! だからこれからもずっと僕のそばにいて! これからもずっとずっと仲良しでいて! お願いだから!」

「い、いいの? 私の事許してくれるの? と、友達でいてくれるの?」

「当たり前だよ! だって夕実ちゃんの事大好きだから!」

「梓…………」

「夕実ちゃん…………」

「「うぇ~ん!」」


 号泣しながら抱き合う二人。俺が股間を押さえながら苦しんでいる間に、勝手に仲直りしちゃったぞ。


 誤解が解けお互いの気持ちを吐き出した今、二人を邪魔するもの何もない。よって仲直りするのは自然だし、本当に良かったと思う。が、俺の努力はなんだったの?


 確かに計画通りに行かなかったし、最後はただ怒鳴ってただけですが、俺結構頑張ったよね? 二人を仲直りさせる為に頑張ったよね? それが最後は真野に股間蹴られて終わるってなんなの!


「ま、真野さんよ……、な、何故俺の股間を蹴り上げたのだ……。ひ、酷いじゃないか」


 俺は膝をガクガク言わせながらなんとか立ち上がると、真野に声にならない声で抗議する。三石と仲直りできて嬉し泣きをしていた真野だが、俺の言葉を聞いた瞬間表情が一瞬で険しくなる。


「春夏が夕実ちゃんぶったり泣かしたりするからだ! それに僕がニヤニヤして気持ち悪いって言っただろ! だから股間蹴ったんだよ! 文句あるのか、あぁ!」

「そ、それは二人を仲直りさせる為に仕方なくやったわけでして……。あ、あと俺はニヤニヤとは言ったが、気持ち悪いなんて一言も言ってない……」

「文句があるならもう一発蹴ってやろうか!」

「ち、ちょっと! も、文句はないですって! や、や、止め……あぎゃんっ!」

 

 再び股間に強烈な蹴りを貰った俺は、激痛のあまりにその場に倒れ込む。


「もう二度と夕実ちゃんを泣かせるなよ! 分かったか春夏!」


 あれ? そう言えば真野が俺の事をまた「バカ」をつけずに呼んでるぞ……。これってまた俺を信頼してくれているからか? ……ってそれはないか。今も俺の股間を蹴ってるし。しかも二回も! そんな事をする奴が俺を信頼するはずがない。


 激痛で意識が薄れていく中、何故かそんな事を考えていた。時間にして多分一秒にも満たない時間だろう。痛みで意識が飛ぶ寸前にこんなどうでもいい事を考えるなんて、冷静な自分に驚いている。いや、冷静って言うよりはただのバカなんだろうけどね。

 そしてもう一つ、こんな事も思った…………。


『もう何があってもこいつ等の為には動かんぞ!』


 結局俺には何もできなかったけど、今後あの二人に何があっても絶対に心配なんてするもんか! だって心配しても痛い思いをするだけだしな…………。

 この後、俺は股間の激痛により、人生初の意識が飛ぶと言う経験をしたのであった。



「……うぅぅ……」

 

 どのぐらい時間が経ったのだろう。気がつくと俺はソファーの上に寝かされていた。おそらく気絶した俺を、三石達がソファーへと運んでくれたのだろう。

 だがその二人の姿が見えない。


「もう十八時かよ。結構気失ってたんだな……。で、俺を気絶させた奴等はどこに行ったんだ……イテテテッ!」


 立ち上がろうとすると、股間が痛んで上手く動けない。


「真野の野郎……、全力で二回も股間を蹴りやがって。いつか仕返ししてやる!」

 と大声で叫びたかったが、真野に聞かれてまた蹴られるのも嫌だったので心の中で呟く。

 ソファーに座り直して周りを見回すも二人の姿はない。そればかりか二人の荷物も見当たらない。


「あ、あいつ等ひょっとして帰ったのか? 気絶した俺をほっといて帰ったのかよ!」


 三石と真野の仕打ちに呆れてしまう。


「も、もう辞めてやる! こんな酷い同好会なんてやってられるか! こんな同好会、俺が抜けて潰れちまえばいいんだよ!」


 股間を押さえながら立ちあがった俺は、、まだ残る痛みに表情を歪めながらも三石達への怒りをぶちまける。だが気持ちは大声を出したいのだが、股間の痛みの影響で小声しか出せない。


「俺の声まで奪うとはなんて奴等だ……。これは訴えたら勝てるレベルだぞ!」 


 二人に対して怒りが沸々と込み上げてくる。だが、


「でも誰もいないここで文句を言ったところで虚しいだけか……」


 一人で文句を言ったところで、股間の痛みが引くわけもないので俺も帰る事にした。

 痛みで上手く歩けないが、なんとか自分のバッグが置いてある机に向う。そしてバッグを持とうとした時だった。


「ん? なんだこれ?」


 バッグの上に四つ折りになったノートの切れ端が置いてある。


「ひょっとしてラブレターか! ……ってそれはないか。三石達が置いていった物だな。どうせ俺の悪口が書いてあ……」


 イライラしながら紙を広げてみると、そこには意外な言葉が書いてあった。


『春夏、また夕実ちゃん泣かせたらマジで殺すから! 覚えとけよ! でも僕の為に色々してくれた事はありがとな。でも全然意味なかったけどね!』


 可愛い字だが内容が憎たらし過ぎる。「ありがとな」って文字だけやけに小さくて、それ以外の文字は嫌がらせのようにやたらとでデカイ。


「これって感謝してるのか? ただ貶しているだけだろ」


 そして真野の文章から少し間隔をあけて、もう一言書かれていた。


『ありがとう』


 真野の字とは違ってその字は綺麗だった。多分三石のものだろう。

 たった五文字だが、三石の気持ちがもの凄くつまっている気がした。だってあいつは冗談やその場のノリで、俺にお礼なんて絶対に言わない。何故なら三石は俺を完全に見下しているから。その三石が俺に「ありがとう」と言うとは、心からそう思わないと絶対に言わないだろう。……って勝手に思ってますが、実際のところは分からないけどね。


 真野の言葉も見方によっては、真野なりの感謝の仕方のような気もする。贅沢を言えばもっと素直に言ってくれるとありがたいのだが。


 でも二人から感謝されたって事は、俺のした事は無駄ではなかったのかな。この手紙のおかげで三石達の為に動いた苦労が報われた気がした。


「この手紙で股間の件はチャラにしてやるか」


 俺は三石達からの手紙を再び四つ折りにすると、自分の財布にしまった。

 二人から貰った初めての手紙は、俺のちょっとした宝物になりそうだ。


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