仲間になるために ~3~
「い、いや三石さん。そうは言ってもさ……やっぱ一人って寂しいでしょ? 絶対に寂しいと思うん……」
「私あんたが思う以上に友達たくさんいるから、梓と喧嘩していても一人には絶対にならないわ」
「……ゆ、ゆみ……ちゃん……」
あ、あかん! これでは真野をさらに悲しませるだけではないか! や、ヤバい。真野が今にも泣き出しそうだぞ……。
真野が転校するって聞いた時に三石が見せた表情は一体なんだったんだよ……。
完璧なプロットが即行で役に立たないなんて、想定外過ぎるにもほどがあるぞ!
真野には「もう逃げない」って言ったけど、やっぱり今すぐこの場から逃げ出したいです……。
でもここで逃げ出したら本当に真野と三石が離れ離れになってしまう。だから俺が今頑張らないといけないんだ! 絶対に!
冷や汗ダラダラ垂らしながらも、この状況を打破する為にプロットを見直す。すると、
「あ――――――っ! やってまった――――――!」
思わず叫ぶ俺。それもそのはず、プロットの順番を間違えていたのだ!
「だよね、だよね。じ、順番違ってたら三石さんだって素直に俺の言う事に賛同できないですよね……。失敗、失敗……あははっ」
まだ俺の戦いは終わらない……終わりはしないぞ!
三石が俺の話に納得いかなかったのは、プロットがダメだったのではない。説明する順番が違っていたから素直に聞き入れられなかったのだ。
プラモデルだってそうだろ? 説明書通り順番に作っていかなければ完成しない。
今回の作戦だって一緒だ。物事を順序立てて説明していかないと、三石だって素直な気持ちになって真野と仲直りしたいって思うはずがない。
一時はどうなるかと思ったが、原因が分かってホッとしたぞ。
「何ブツブツ言ってるのよ。キモいわよ春夏」
三石はジト目で俺を見てくる。俺は「ち、ちょっと待って下さい」と三石に頭を下げると、また順番を間違えないようにプロットを全て見直した。
俺の姿を真野は半泣き状態で不安そうに見つめている。
もう失敗は許されないぞ。多分……ってか間違いなく次何か三石がキツい事を言ったら、真野は大号泣するだろうな。それだけはなんとしても避けなければならない。それにこれ以上険悪な空気になったら、絶対に仲直りなんてできないだろうから……。
俺は一度大きく深呼吸をして、
「俺のプロットは大丈夫だ。順番さえ間違えなければきっと三石にも俺の思いが届くはずだ。そして真野と仲直りして全てハッピーエンドになる。自信を持て、自信を!」
そう心の中で呟いて再び三石に挑んだ。
「す、すいません。い、今の一旦忘れて下さい。本当はこれを先に言いたかったんですよ!」
これでもかって言うぐらいの愛想笑いをしながら、再びホワイトボードに書き込んだ。
『親友と出会える奇跡に感謝ですよね!』
本当はこの説明を先にしなければいけなかったのに、なんで間違えるかな……。 俺って肝心なところでいつもミスるんですよね。この性格、直したい!
ちゅ~こって正しい順番のプロットはこれです!
【真野と三石を仲直りさせる物語・(本当の)其の二】
※真野の大切さを再認識させる!
喧嘩別れして一人になった寂しさを説明する前に、まずはいかに三石にとって真野が大切で必要な存在かを再認識させるのが先だったんだ。じゃなきゃどんなに一人になって寂しいと説明したところで、友達の一人がいなくなったレベルで考えられたんじゃ寂しくて寂しくて死んじゃうレベルには到底行かないからな。
ここでバッチリ真野の大切さを三石に再認識させる事で、先に言った「一人は寂しいよね」って話が効いてくるわけよ。
その為にも真野との濃厚で楽しい日々を、思い出してもらわねばならん。だがここで一つ問題が発生。俺って三石と真野の思い出話ってほとんど知らないんだよね……。知っている事と言えば、真野に聞いた二人の出会いぐらい。
でも今から真野に二人の思い出話を聞くわけにもいかないので、その部分だけでなんとか話をするしかないな。頑張れよ俺~!
「また意味不明な事書いて、私あんたと違って暇じゃないの。もう帰るわよ」
「ち、ちょっと待ってよ三石さん! もう少しで終わるから! だから帰るなんて言わないで下さい! お願いします、三石さん!」
「…………わ、分かったわよ……」
ここで帰られたら全て終わってしまうので、俺は三石の前にふさがり土下座しながら必死で頼む。すると三石は俺の行動にドン引きしながらも、嫌々ソファーに座ってくれた。
さぁ~今から本当に俺のプロットの威力を見せてやるぜ!
起き上った俺は自分に気合を入れると、次は失敗しないように言葉を選びながら三石に説明を始める。
「親友と呼べる人と出会えるのって、生まれてから死ぬまでで一体どれぐらいあるだろうか? おそらく数えるほどしかいないと思う。もちろん友達になる人との出会いはたくさんあるだろうけど、心の底から分かり合える『心友』と呼べる友とはそうそう出会えない。それに親友は作ろうと思ってもそんなに簡単にはできやしない。相手との相性はもちろん、様々な出来事や過ごした時間とか色々な要素が複雑に絡み合った結果、自然となっているのが親友だと思う。だから親友との出会いはまさに奇跡だと思うんですよ!」
「うざっ!」
話の途中なのに明らかに聞く気ゼロの三石。俺を見る目が汚物を見るかのようだ。
でもここでめげるわけにはいかない。俺は三石に言い聞かせるように、更に感情を込めて話を続ける。
「三石さんと真野さんの出会いもある意味奇跡ではないでしょうか? あの日別々に某アニメイベント会場にいた二人。そこで誰かに追われている真野さんを偶然助けた三石さん。まさに出会うべくして出会った二人。歳もそう変わらない二人は自然と意気投合し、すぐに友達になった。そして三石さんの家に真野さんが泊まりに行くなどの交流をしていくうちに、お互いがお互いを認め必要とする切っても切れない存在になっていた。そう、二人は親友になっていたのです! ここまでの関係になるには長い長い時間と、お互いを信頼する心が培われてきた結果だと思います。だからそんな大切で大事な存在を、こんな事で失うのはどう考えてもバカげている……」
「あ~もううるさ~い!」
「おでっごぉ!」
三石にグーパンでおでこを殴られた。もろ脳に衝撃が走るから本当におでこは止めてほしい! 俺はおでこを押さえながらのたうち回る。
「さっきから黙っていれば好き勝手言って。春夏がなんて言おうが私は梓を許さないから! 私にずっと嘘をつき続けてきた梓を許すわけないわ! しかも私達の出会いをこのバカに言うなんて……口まで軽いなんて信じられないわ!」
「ご、ごめんなさい……」
三石は真野を睨みつける。もう完全に真野は泣いています。
真野から聞いたエピソード言った事でまたもや失敗してしまった。俺のカラ回り度が半端ないです!
所詮漫画賞の評価「二」の俺が考えたプロットなんてこんな物です……。全然なんともならないわ、余計真野を苦しめるわで最悪すぎるバッドエンドを迎えました。。
おでこを殴られた痛みよりも、精神的ダメージが大きくて立ち上がれない。
三石に睨まれ、再び「許さない」とはっきり言われて真野は泣き崩れる。
俺達を怒り全開で睨む三石。
今の部室内はまさに地獄絵図状態だ……。
結局俺がした事なんて事態を最悪な結果に招いただけで、ただの自己満のオナニープレイだったわけです。
少しでもなんとかできると思った自分が、真野に対して二回も地獄を見せてしまった自分が、三石も心の中では仲直りしたいと勝手に思い込んでいた自分が、心の底から恥ずかしいし腹立たしいし情けない……。できる事なら今すぐ消えてしまいたい。




