仲間になるために ~1~
翌日の放課後、俺は徹夜で考えた、「真野と三石を仲直りさせる物語」のプロットを持って二人に会うべく校内を走り回っていた。
ちなみにプロットとは物語の構想や枠組みを分かりやすく書いた物で、物語の設計図と言える物だ。
このプロットの中には「真野と三石を仲直りさせる秘策」がてんこ盛りだ。どうゆう話をしてどんな展開に持って行って、そしていかにハッピーエンドにするか。その全てがこの中にある! 俺の漫画家(未受賞者で未デビュー、漫画描き歴・約三年)人生の集大成をぶつけたと言っても過言ではない本作は、予想以上に素晴らしい物になった。
俺ってやっぱ物語作る才能あるよな絶対! なのになんで漫画の評価は、「物語が五段階評価で二」なんだ? 絵ならまだしも物語が低評価だなんて全く納得がいかん! ……と今ここで愚痴っても仕方ないけどね。
こんな完璧な物が書けるなら最初っからプロット作って対処していれば、ここまで悪化しなかっただろうな。もしこれでダメなら諦めて! って感じです、ハイ!
まっ自画自賛はそれぐらいにして、まずは真野のところに向う。まだ転校していない事を祈りながら廊下をダッシュ! 途中、先生に「廊下を走るな!」と怒られながらも昨日真野に会った場所に向かう。多分あの辺りが真野のクラスの近くだと思うから。
息を切らせながらその場所に着くと、俺の予想通り真野がいた。一年三組の教室から出てくるところだった。
真野は俺を見つけるなり、
「ま、またバカ春夏か! も、もう来るなって言っただろうが!」
毛嫌い全開で怒鳴ってきた。だが俺はそんな真野に一切怯まずプロットを渡す。
「これ読んで! それが俺の決意だから!」
「け、決意? 何言ってるんだよお前は! 意味分かんね~し!」
「もう逃げないから」
「えっ?」
「俺には何もできないかもしれない。でもだからと言ってもう逃げない。俺は俺なりのやり方で真野さんと三石さんが仲直りできるように頑張るから。だから見ていて下さい!」
俺の熱弁に真野はキョトンとしている。だがすぐに疑いの眼差しで睨んできた。それもそのはず。今までの俺の言動により、真野の中で俺に対する信頼度は間違いなくゼロだろう。そんな相手に何を言われても、聞く耳を持たないのは当然と言えば当然である。
「今更何言ってんだよ! もう僕はお前の言う事は一切信用しな……」
「って事でそこに今日の流れが書いてあるから! それ読みながら部室で待っててくれよな。三石さんも絶対に連れて行くから! じゃ後で!」
「ち、ちょっと! 僕はまだ……」
真野の話を聞かず、俺は言いたい事だけ言ってその場をあとにした。だってここで真野に納得してもらう為に色々と説明したところで、俺の事を完全に嫌っている&信用してない真野に、何を言っても無駄だと思うから。
それに真野を説得できる自信もないしな。ならば用件だけ伝えて、あとは真野の出方に賭けた方がいいと判断したのだ。
真野も今度こそ三石と仲直りできるかもしれないって思ったら、ムカつく俺の案だろうが疑いながらでも一応乗ってくるに違いない! ってか乗ってくれないとめっちゃ困る!
でも俺の背後から真野の怒鳴り声がめっちゃ聞こえてくるので、実際に部室に来てくれるかどうかもの凄く不安ですが……。
だが最大の問題はここからである。真野の場合は三石と仲直りしたい側だが、三石は真野を嫌っている側だ。よって真野以上に部室に連れて行くのは至難の業だ。
真野と別れて数分後、俺は下駄箱にて三石の現れるのを今か今かと待った。
三石ともクラスの話とか一切していないので、三石が何組かなんて分からない。だから闇雲に走りまわって探すより、下駄箱で待ち伏せしていた方が確実だ。
でも真野と会っている間にもう帰っていたらお手上げだけどね……。
そんな事を考えていたら三石が友達数人と、楽しそうに話しながら下駄箱にやってきた。
「おし! 間に合った!」
俺は急いで三石の前に立ちふさがる。
「ひ、久し振りだな三石さん」
「は、春夏……な、何してるのよ……」
突然現れた俺に困惑している三石。その姿を見た三石の友達が一斉に俺を睨む。
「ちょっとあんた誰よ! ひょっとしてストーカー?」
「夕実になんの用なのよ! 変な事しようとするなら先生呼ぶよ!」
「い、いや、俺は三石さんと同好会が一緒で……」
「同好会? 嘘言わないで! 夕実は同好会になんて入ってないわ! あんたやっぱりストーカーね! これ以上夕実に近づいたら本当に先生呼ぶから!」
三石の友達にありもしない事を好き勝手言われる。その声を聞いた周りの生徒からも白い目で見られてしまった。このままでは三石と話すらできない。よって俺が取る手段は、
「お、俺は三石さんと本当に同好会が一緒なんだ! だから……三石さん借ります!」
「あっ! ゆ、夕実ー!」
「ちょっと何するのよ! 待ちなさいよストーカー野郎!」
「な、なんなのよ春夏! い、痛いってば!」
俺は三石の右手を掴むとダッシュで走り出す。必死に抵抗する三石だが、今ここで速度を緩めたら三石の友達に捕まって何されるか分からないので俺も必死です。
校内を駆け回る事数分、なんとか三石の友達を撒く事に成功した。
「ま、マジであいつ等しつこすぎだろ……つ、疲れた……ぜぇぜぇ」
「な、なんなのよ……はぁはぁ。い、いきなり人を連れまわしてさ……」
息切れしながらへたり込む俺に、これまた息を切らせた三石が文句を言ってくる。
「だ、だってあのままじゃ話できなさそうだったし」
「話? なんの話よ?」
「真野さんの事に決まってるだろ」
「…………」
真野と言う言葉を聞いて三石は黙ってしまった。表情も一気に暗くなる。
「真野さんはもう部室で待ってるから。だから一緒に来て……」
「な、なんで行かないといけないのよ。もう梓とは友達でもなんでもないんだから、行く必要なんてないわよバカ!」
怒鳴る三石の表情は少し寂しそうにも見えた。でもこの態度を見る限りすんなりついて来てくれるとは到底思えない。
ここで俺が徹夜で考えたプロットが発動!
【真野と三石を仲直りさせる物語・其の一】
※三石の真似をするのだ!
この文言だけでは全く意味が分からないと思うが、決して冗談でもおふざけでも間違ってもいない!
さっきの真野の時と同様にここで俺が必死に説明したところで、三石を部室に連れて行く事なんて難しいだろう。いや、十中八九・九分九厘・絶対的に無理だろう。
ならば三石が俺を部室に連れて行く時に使った『強引な手法』を使うのみ!
そう! 無理やり相手の腕を掴んで連れて行く方法だ!
俺が同好会に入った翌日、やっぱり辞めようと思い逃げようとした俺を三石は無理やり同好会に連れて行った。その時あいつは俺の言葉なんて一切聞かずに、俺の腕を掴んで強引に連れて行ったんだ。
今度は俺が三石の言葉なんて一切聞かずに、強引に連れて行くのだ! 言葉で連れて行く事ができない以上、この方法以外他にない!
……て今さっき使った方法ですけどね。だ、だってまさか三石の友達に邪魔されるなんて昨日の段階では思ってもみなかったんだもん! よって手段が被っても不可抗力でありなんの問題もない! 例えあったとしても俺は全く悪くない! 誰がなんと言おうと!
でもしいて問題点を言うならば、俺の体力が持つかどうかですが……。
「それが用件なら私帰るから。もう二度と私の前に顔見せないで!」
「真野さん転校するんだぞ」
「えっ?」
帰ろうとする三石の足が止まる。後ろ姿だけしか見えないが、明らかに動揺しているのが分かる。




