同好会解散 ~3~
三石と真野が喧嘩別れして一週間ちょっとが過ぎた。
あの日以来、真野にも三石にも会っていない。ってか会えない。特に真野とは……。
あの日の翌日、真野は俺に会いに俺の教室まで来た。だが俺は逃げた。結局何もできなかった俺が、どの顔をして真野に会えばいいのか分からないから……。だから逃げたのだ。
真野は俺がなんとかできるともの凄く期待していただろう。だから俺に会ってどうなったか早く聞きたかったはずだ。でも俺は一番してはならない「逃げる」と言う最低な行動に出た。その行動を見た真野は、俺が何もできなかったと悟ったのだろう。それっきり真野は俺に会いに来る事はなかった。
……いや、ひょっとしてもう二人は仲直りしたのかもしれないぞ。だから真野は俺のところに来なくなったのではないか?
あの時は三石も感情的になり過ぎて「お別れ」と言っていたが、そこはずっと姉妹みたいに接してきた二人だ。あれから二・三日で自然と仲直りしてもおかしくないぞ。
この後に及んでもまだ楽観的に考える俺。でもこれは二人の問題だ。第三者の俺がしゃしゃり出ても余計混乱するだけだ。それに俺には解決する力なんてそもそもないしな。
それに俺自身、真野と特別親しいわけじゃないし、むしろ真野から罵詈雑言を言われ続けているから仲は悪い方だ。そんな俺が必死に動く必要が果たしてあるのだろうか? いやないな。絶対にない。よってここは黙って見守るぐらいでいいのだ。
俺からなんとかするとか言ったくせに、放置するのは無責任さが半端ないがこれでいいんだ。誰がなんと言おうとそうなんだ。
そう無理やり自分に言い聞かせると、俺はこの問題について考えるのを止めた。
二人の事が心配じゃないと言えば嘘になる。でも今の俺にはどうしようもできない以上、考えるだけ無駄なんだ……。悔しいけど無駄なんだ…………。
今日も学校が終わると真っ直ぐ家に帰る。同好会に入るまではそれが当たり前だった。
「さぁ~て、今日も帰って漫画描きまくるぞ!」
カラ元気で独り言を言ってはみるものの虚しさが俺を襲う。
正直な話、あの二人に会わなければムカつく事もないし、イライラしてストレスがたまる事もない。今描いている漫画だってもう少しはかどっていただろう。でもなんか物足りないんだよな……。
基本ドMな性格だからか、それとも二人からの罵詈雑言に心と体が慣れたせいか。二人の顔を見ないと落ち着かない自分がいる。
俺の中で知らない間に三石と真野は、必要な存在になっているのだろうか?
……って、また二人の事を考えてしまったぞ。二人の事を考えるのは止めたと言ったそばから即行で考えるとは、どんだけ意志が弱いんだよ。
もう考えない、絶対に考えない。心に固く誓うぞ!
「あっ! 春ちゃんここにいたの!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。振り返ると息を切らせた草尾先生がいた。
「な、なんですか? ってか春ちゃんって呼ぶの止めてもらえませんか? マジで」
草尾は未だに俺があっち系だと信じているらしく、どんなに俺が否定しても全く聞く耳を持たない。そればかりか親しげに「春ちゃん」と言うあだ名までつけてくる始末だ。
「そ、それどころじゃないのよ! 梓ちゃんが、梓ちゃんが……」
「えっ? 真野がどうかしたんですか!」
草尾の尋常じゃない慌てぶりに俺もつい大声を出してしまった。
「どうしたじゃないわよ! 梓ちゃん転校するらしいわよ! 同好会辞めたと思ったら今度は転校って……。一体何があったの?」
「て、て、転校~!」
衝撃度が半端ないんですが!
ま、まさか三石と仲直りできてないから転校するって事か? 辛い気持ちは分かるけど、だからと言って普通そこまでするかよ。でもそれだけ真野は追い詰められていたのか……。
こんな結果になったのは俺にも責任がある。あの時真野を励ます為とは言え、できもしない約束を平気でして真野を更に悲しませてしまった。そればかりか、その後何もしないで真野を見捨てたんだ。もっと色々行動したり真野の話をたくさん聞いていたら、こんな結果にならなかったかもしれない。
大好きな人に嫌われ、そして期待していた俺にも裏切られた。その時の真野の気持ちは一体どんなものだったのだろう。きっと悔しいとか悲しいとか辛いって言葉では、表現できないぐらいの絶望感でいっぱいだっただろうな。その結果転校するって答えを出した。
そんな真野の気持ちを思うと俺の心は張り裂けそうだ。
俺は草尾先生との話もそこそこに真野の教室に向かって走り出した。
「真野、俺が悪かったよ……。でも転校なんて大袈裟すぎるだろうが、クソッ!」
自分の愚かさを呪うとともに、今度こそは真野の為に絶対に力になる! そう誓いながら俺は全速力で真野のクラスへと向かった。
……と言っても俺、真野のクラス知らないや……。
普段色々とバカにされてイジられていた俺が、真野とクラスの事や普段の学校生活の事など話すわけもない。よって真野のクラスを知らなくても当然である。
「はぁはぁ、困ったぞ……。クソッ、草尾に聞いておくべきだったな。い、今から戻って草尾に聞くか。いやそれじゃもう真野は帰ってしまうかもしれない。そこら辺にいる一年生に片っ端から聞くか……はぁはぁ」
汗ダラダラで廊下をキョロキョロしていると目の前を見覚えのある女の子が通った。
「ま、真野!」
「えっ?」
人目を気にせず大声で叫ぶ。その声に驚きながら真野が振り向く。
「よ、良かった……はぁはぁ、まだ帰ってなかったんだな……」
「バカ春夏! な、何にしてるんだよ。しかも大声で僕を呼ぶなんて、恥ずかしいだろが!」
久しぶりに見る真野はなんだか痩せているように見えた。口調こそ変わっていないが、勢いは二週間前とは明らかに違い元気がない。だがまた俺の事を「バカ」をつけて呼ぶ。
あの時は俺を信頼して「バカ」を取ってくれたのだろうが、今はまた昔に逆戻りだ。それも仕方ない。だって俺は真野を裏切ったのだから……。でも今はそんな事より転校の事を確認せねば。
「お前、転校するって本当かよ!」
「な、なんでお前が知ってるんだよ! って言うかお前に関係ないだろ! ほっとけよ!」
「か、関係ないって事はないだろ! だって俺達は同じ同好会のメンバーであり仲……」
「また『仲間』って言う気かよ。都合のいい時だけ仲間仲間って言いやがって、結局何もしないくせに。人を期待させるだけさせてどん底に落とすなんて、お前のやった事はただの偽善なんだよ! 自己満なんだよ! ただのオナニープレイなんだよ! 何が俺に任せろだ! 何が仲間だ! お前は僕を助ける気なんて最初っからなかったんだ! お前なんて信用した僕がバカだった……うぅぅ……」
大粒の涙をこぼしながら真野はその場にへたり込んだ。
ここまで人目をはばからないで泣きじゃくるなんて、俺が思う以上に真野は俺を頼っていたんだ。俺の事を「仲間」として信じてくれていたんだ……。
なのに俺はそんな真野の思いを踏みにじってしまった。本当の「仲間」になるチャンスを俺自身が逃してしまったんだ。
だが今更気がついてももう遅い。俺は真野の悲痛な叫びをただ黙って聞くしかなかった。
泣き崩れた真野を周りにいた真野の友達が抱き起こす。
真野の友達や周りにいた生徒達は俺を睨みながら、「ちょっとあんた! 梓に何したのよ!」「うわっ、女泣かしてるぜこいつ。最低だな」「不細工なくせして女の子を泣かすとは許せんゲス野郎だな!」などと好き勝手言いやがる。




