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同好会解散 ~2~

 何故こんな事を叫んでしまったのか自分自身も分からない。でも苦しそうな真野を見ていたら、なんの根拠も自信もないけどこう叫んでいたんだ。


「……な、何が仲間だ……偉そうに。このバカ春夏が」


 振り向いた真野は少しだけ笑っていた。泣き止んでくれたのは良かったが、何故笑ってるんだ? 俺面白い事言ったか?


「ど、どうして笑ってんだよ」

「お前が『仲間』なんて恥ずかしい言葉を平気で言うからだろ。しかも今ので二回目だぞ」


 なるほど、「仲間」って言葉で笑ってたんだな。確かに「仲間」なんて普通恥ずかしくてなかなか使わないよな。しかも前に言った時と同じく真野の事を仲間なんて思ってもいないのに、また言えたなと自分でも驚いている。


 それにしても今ので二回目だってよく覚えていたな。一回目に「仲間」って言った時は真野が号泣していたから覚えていないと思ったのだが……。あっ、でも「仲間」って聞いた途端、めっちゃ怒りだしたからそれで覚えているのかな?

 意図した形ではないが、ちょっとでも笑顔を取り戻してくれた真野を見てホッとした。


「確かに『仲間』って言葉は恥ずかしいかもしれないが、でも俺達は同じ同好会に属する仲間だろ? だからその仲間の俺に任せろよ!」

「誰が仲間だ。僕はバカ春夏と仲間になった覚えはないぞ! それにお前なんかがどうにかできる問題じゃないんだよバカ!」


 真野は憎たらしい口調で返してくる。


「そう言うなよ。俺は真野さんより年上だから様々な修羅場を経験しているし、その都度ちゃんと解決してきたんだ。だから俺に任せなさい! 絶対に仲直りさせて見せるから」


 今の発言は全くの嘘です。今までの俺の人生で修羅場と呼べるものなんて一度もありません。よって何も解決した事はありません。でも真野が元気になるなら今はどんな嘘をついても問題はない……っと勝手に判断した俺は自信満々に嘘をつく。


「ぜ、絶対ってなんか方法とか秘策とかあるのかよ?」


 疑いながら聞いてきた真野だが、その口調とは裏腹に表情は若干期待しているようにも見えた。でもそんなものは一切ないけど俺は力強く言い切った。


「ある! だから俺に任せておけ!」

「ほ、本当かよ……嘘臭いな」


 全く真野は信用していないようだ。それもそのはず、だって嘘だから。

 だが真野から驚きの言葉を頂く。


「で、でも、今の僕じゃ何もできないから……だからバカ春夏、僕に力を貸して下さい」


 真野は俺に頭を深々と下げてお願いしてきた。その意外すぎる行動に慌てる俺。


「お、おい、頭なんて下げるなよ。俺は仲間として当然の事をするまでなんだからさ」

「うん、そうだな。僕達は仲間だよな」


 そう言った真野は優しい笑顔を俺に向ける。これは完全に俺を信用しきっている顔だぞ。


 ひょっとして俺はとんでもない事を口にしているのかもしれない。なんのあてもないのに任せろだの、仲間だのと真野に期待させるだけさせている。これでなんともならなかったら真野はどうなるのか。もっと傷つくだけじゃないのか? そんな事を考えたら鳥肌が全身に立ってきた。


「ま、まぁそんなわけだし今日は帰ってゆっくり休みなよ。あとは俺に任せてさ」

「うん。分かった。じゃあよろしくな、春夏」

「あ、あぁ、気をつけて帰れよ」


 おおっ! 初めてこいつ俺の事を「バカ」をつけずに呼んだぞ。完全に真野の中で俺の位置付けはランクアップしている。俺は更にプレッシャーを感じつつもそれを真野に悟られないように、ありったけの作り笑顔で真野を見送る。

 真野も笑顔で俺に手を振りながら部室を出た。


「さぁ~てどうすっかな……うぅぅぅ……」


 真野がいなくなった部室で、俺は頭を抱えながらしゃがみ込む。あんだけデカい口を叩いた以上、絶対になんとかしないとな。でも一つもアイデアが浮かばない。完全にお手上げ状態です。


「あぁ~! ここでなんだかんだと悩んでいても仕方ない! 頭で考えるよりまずは行動だ! 三石に会って話し合いながら解決の糸口を見つけよう! それに元々姉妹みたいに仲良しだった二人だ。俺が考えるよりあっさり解決するかもしれないしな」


 開き直った俺は三石を探す事にした。部室には三石のバッグが置いてあるのでまだ帰ってはいないはず。俺は三石を探す為に部室をあとにする。

三石はまだ北校舎裏のゴミ焼却炉の近くにいた。何かをするわけでもなく、ベンチに座ってボーっとしている。その姿からは悲しい雰囲気が漂っていた。


「み、三石さん、ちょっといいか?」

「…………」 


 恐る恐る声をかけるが返事がない。俺は三石に近づきもう一度声をかける。


「あ、あの三石さん、お話があるのですが……」

「な、なんだ。春夏か……。まだ何かあるの?」


 俺の声に気がついた三石の表情は、涙でグシャグシャになっていた。俺がこの場を離れた短い時間でどんだけ泣いたのだろう? 三石は急いで涙を拭うと冷静を装う。

 でもここまで泣いているって事は、三石も真野と仲直りしたいって事だろ? きっと言い過ぎたと後悔しているに違いない。これはなんとかなるかもしれないぞ!


「あのさ、話があるんだけどいいかな?」

「梓の事でしょ。春夏と話す事は一切ないから。だからこれ以上首突っ込まないで!」


 怒鳴られた。三石さんめっちゃキレてる! 俺の言葉など届かないぐらいのブチ切れようですよ! 俺の淡い期待は早々に打ち砕かれた。

 

 これは話し合いなんてできるレベルじゃないぞ。あっさり解決するとか思っていた自分が恥ずかしい。だがここで引き下がるわけにもいかず、無駄と思いつつも三石に話かける。


「そ、そんな事言わずに……落ち着いて話をしようじゃないか……」

「あんたと話す事なんて何もないって言ってるでしょ! 私に近寄るな、このバカ春夏!」


 三石は俺を激しく睨みつけて怒鳴り散らす。

 その迫力にビビった俺は何も言えなかった。いや、正確には悲しそうな目で怒鳴る三石に、なんと言えばいいのか分からなかったのだ。


 俺の横を通り過ぎて行く三石を黙って見送る。すると三石は立ち止まると俺の方に振り返った。


「春夏、今まで悪かったわね。強引に同好会に誘って。でも今日で同好会解散だから……。もう来なくいいわよ……」


 申し訳なさそうにそう言うと、俺に向かって頭を下げた。

 いつも強気で堂々としている三石がこんな姿を見せるなんて……。

 俺はこの時初めて、この問題の大きさと言うか深刻さが分かった。


 真野に軽々しく任せておけと言った自分の無責任さ。なんとかなると軽く考えていた自分の未熟さ。そして結局何もできなかった自分の非力さ……。


 俺のした事は真野を余計に悲しませるだけだ。だが後悔してももう遅い。目の前の現実に打ちひしがれていると、三石は俺を励まそうとするかのように温かな笑顔を向けてきた。


「漫画家になる夢……頑張ってね。もう会う事ないと思うから元気で……」


 そう言う三石の頬には涙が流れていた。

 人を気遣う余裕なんて本当はないくせに、涙流しながら俺の心配してんじゃね~よ。

 こんな時になんと言えばいいのか、俺の脳内引き出しにはその答えなんて当然入っていない。悲しそうに去って行く三石の後ろ姿を、黙って見ているしかできなかった。


「はぁ~……、結局何もできなかったな……」

 

 一人になった俺は溜め息をついた。明日俺は真野になんと言えばいいのか……。

 そう考えるだけで俺の気持ちはドンドンと地に落ちていった。後悔だけが心に残る……。


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