真野梓 ~7~
「分かったよ。もうこの事については何も言わないよ。理由を知らなかったとは言え、嫌な事を思い出させて悪かったな。ごめん」
俺は真野に向かって深々と頭を下げた。
「な、なんだよ……気持ち悪いな。頭なんか下げるなよバカ春夏!」
真野は驚いたような感じで涙を拭きながら文句を言ってきた。
「キモいって……こっちは悪いと思ってだな、普通に謝っただけだぞ」
「それがキモいの! あと僕を泣かした罪はいつか償ってもらうから! 覚悟しろよ!」
「マジかよ……」
泣き止んだと思ったら即行で俺を脅すなんて。お前を心配した俺の優しさを返せバカ!
「それじゃあ部室に行くか。もう夕実ちゃんも来ているだろうし」
「そうだな。俺達が来るの遅いって心配しているかもしれないしな」
「バカ春夏の事は絶対に心配してないけどな」
真野は憎たらしい笑みをこぼす。イラッとするけどやっぱ真野はこうでないとな。俺は心の底からホッとした。……が、そんな思いは次の瞬間綺麗に吹き飛ばされてしまう。
「梓、今の話……どうゆう事?」
声のする方に振り向くと、そこには俺達を睨みつけながら三石が立っていた。
「ゆ、夕実ちゃん…………」
声が震える真野。
「お、おう三石さん。な、なんの事かな……あははっ」
俺はごまかそうと必死にとぼけてみるも三石は完全にスル―。
「藤咲麻衣の事、詳しく聞かせて梓」
真野を厳しく睨みつける三石を初めて見た。真野は怯えながら三石を見つめる。
俺はこれから始まる修羅場を想像するだけで生きた心地がしなかった。




