最悪な出会い ~3~
「せ、声優さん好きなんだ。誰が好きなの? 俺は木原メグミさんが一押しなんだけど」
「嘘! 私もそうだよ! メグミさん大好き! あとね、あとね、緒方忍さんでしょ、久山綾さんや富永美奈さんに山口負平さんとか、とにかくたくさんいるの!」
瞳を輝かせながら楽しそうに話す女の子を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。
「俺も今君が言った声優さん皆好きだよ。いい声優さんだよね、演技上手いし人柄も良くてさ。憧れるよ」
「でしょでしょ! 皆優しくて素敵な声優さんだよね。私ももの凄く憧れているの!」
「そうなんだ。じゃ将来は声優になりたいのかな?」
話の流れで何気なく聞いた質問だったが、急に女の子の表情が曇る。
「……そう……だね」
こ、これは完全に聞いてはいけない話題だな。理由は分からないがそう直感した俺はすぐに話題を変える。
「お、俺は漫画家になるのが夢なんだ。まだまだ下手で投稿しても全然ダメだけどね……」
……って何を口走っているのだ俺は――――――――っ!
言った瞬間、即行で顔面から血の気が引くのが分かった。
女の子の表情を見て咄嗟に話題を変えたのはいいが、何故今まで誰にも言った事がない俺の秘密を、初対面の相手にサラッと言ってしまったのだ……。
いくらアニメや声優が好きな人でも、漫画家になるって夢を肯定的に見てくれるかなんて分からない。ひょっとしたらバカにしたり貶してくるかもしれない。 せっかく仲良くなれそうなのに、こんな事で嫌われたら最悪だ……。
「凄いね! どんな漫画描いてるの? ぜひ読んでみたいな。頑張ってね! 応援してるから!」
自分の秘密をポロッと言ってしまってオロオロする俺に、女の子は暗い表情から再び満面の笑みになって応援してくれた。俺の心配なんて女の子には的外れだったようだ。
でも何故「声優になりたいの?」って聞いたらあんな暗い表情になったのだろうか? 少し気になったが、今聞いてまた暗くなられても困るので、この話題は後日改めて聞こう。
だが自分が意図しない形ではあったけど、初めて自分の夢を誰かに話してみて思った事は、応援されるのってなんだか照れ臭い。でもいい気分だし素直に嬉しい。
「あ、ありがと。今度持ってくるよ」
「ホント? 楽しみにしてるね! 約束だからね!」
照れながら言う俺に女の子はもの凄く喜んでくれた。
この子と出会ってまだ十分ちょいだけど話せば感じのいい子だな。最初は綺麗だけで性格悪い女って思ったけど、それはきっと初めて会う俺に対して警戒していた結果そうゆう態度を取ったのだろう。その証拠に同じ趣味を持つ同志と分かったらこんなにも友好的ではないか!
しかも俺の夢を心の底から応援してくれるし、何より女性恐怖症の俺がなんの違和感もなく普通に話せている。まさに天使のような女の子との出会いは、今まで俺に足りなかったものをもたらしてくれそうな気がする。
その足りなかったものとは……恋愛だ! 過去の壮絶な経験から諦めかけていた 女性との清く正しい交際。(本当は下心満載ですけどね)
女性恐怖症とは言えそこは思春期真っ只中の高校生、女体は最も興味がある存在です。
その甘美なる大人の世界に近づけるチャンスが今まさにやって来たのだ。女性恐怖症を克服し幸せな恋を掴むチャンスが!
心躍る気持ちを抑えながら更に女の子と仲良くなる為、この部について色々聞く事にした。この子ともっと話しがしたいと言う理由もあるが、単純にどんな活動をしているのか知りたいし、本当に声優と仲良くなれるのかも知りたかった。
「あの、この部に入れば本当に声優と仲良くなれるの?」
俺の質問に女の子は少し恥ずかしそう答えてくれた。
「この部に入ればすぐ声優さんと仲良くなれるよ! って胸張って言いたいけど、まだ実績はないの」
申し訳なさそうに答える姿がまた可愛すぎます! こりゃ~たまりません!
でも質問の答えはちょっと期待外れなものだった。実績がないのならこの部に入ったところで、声優と仲良くならないまま高校を卒業する可能性だってある。でもこの子と一緒ならそれだけで入部する価値は十二分にあるけどね。
「実績ないってこの部はいつできたの?」
「今日」
「えっ? 今日なの?」
「先生には去年の年末には部活作りたいって話していたんだけど、先生が今作るより四月から始めた方が区切りもいいからって、だから今日からスタートなの」
できたばかりの部活か。俺が知らないのも当然だな。
…って、できたばかりという事はまだ部員はこの子一人ではないのか? と言う事は今俺が入部すれば二人イチャイチャ甘い部活生活が送れるのではないか!
…ダメだ! そんな事を考えていたら下半身が踊りだして制御できません!
でも実際にここで下半身が踊りだしたら百二十%嫌われるのは確実なので、下半身事情を悟られないように冷静かつ慎重に部員の数を確認してみる。
「じ、じゃあ、まだ君しか部員い、いないんだ」
「もう一人いるよ。でもまだ二人だけどね」
もういるのね。部員もう一人いるのね。俺の甘くとろけるような妄想は早々に砕かれました…………無念。
でもよくよく考えたら変な部活だな。声優って言葉に惹かれて最初は気がつかなかったが、試合に出るわけでも何かを発表するわけでもなく、ただ「声優と仲良くなる」為だけの部活があるなんて。そんな目的の部をよく学校側も許可したものだ。
「一つ質問してもいいかな?」
「何? 私で分かる事ならいいけど」
「この部って声優と仲良くなるのが目的の部活?」
「そうだけど」
「それ以外の活動って言うか目的みたいなのはあるの?」
「ないよ」
文字通り声優と仲良くなる為だけの部活なんだな。ストレートすぎる内容に若干戸惑う。
「あの、なんで?」
不思議そうに質問してくる女の子に、俺は疑問に思った事を女の子に話した。
「いや、普通部活って試合とか発表会に出たりして結果出すものってイメージがあるから、仲良くなるだけが目的の部活って変わっていると言うか、違和感があると言うか……」
「確かにそうだね。でも結果と言う点で言えば『声優と仲良くなる』って事も立派な結果じゃないかしら」
そう自信あり気に答える女の子。試合に勝つ事や賞を取る事と同様に、声優と仲良くなる事も立派な結果と考えているわけだな。若干無理があるようにも思うが、ここで否定的な意見を言ったら間違いなく嫌われるだろう。今は俺の意見や考えよりもこの子と仲良くなる事の方が最優先だ。よってここは彼女の発言を受け入れよう!
「そ、そうだね。そう言われたら声優と仲良くなるのも立派な結果だよね」
「でしょ。ある意味声優さんと仲良くなる事の方が、全国大会で優勝するより何倍も何十倍も価値あると思うの!」
ずいぶん大きく出たなオイ。普通に考えたら声優と仲良くなりたいって人より、全国で優勝したいって思う人の方が圧倒的に多いと思いますが……。
だがここも彼女の発言を受け入れよう! だって彼女に嫌われたくないんだもん!
でももう一つ聞いておきたい事がある。それは「声優と仲良くなる方法」だ。今日できたばかりとは言え、何も方法がないままではさすがに部活まで作らないだろう。きっととっておきの方法があるはず。俺は期待しながら聞いてみた。




