三石夕実 ~7~
そんな古坂にちょっと意地悪してみたくなった俺は冗談で、「姉と代わりましょうか?」と言うと古坂は「だ、だ、大丈夫ですから! 本当にすいません!」と必死で謝ってきた。
あの日の会話で相当なトラウマになったらしい。
いずれにせよ無事原稿が見つかって本当に良かった。死ぬ気で描き上げた原稿だから、本当に本当に良かった。その一言に尽きる。
電話から二日後、無事我が家に原稿が戻ってきた。編集部から送られてきた封筒の中には俺が送った原稿と編集部からの謝罪の手紙、そして本来俺が送った編集部の批評と間違って届いた編集部の批評もついてきた。お詫びの意味も含まれているのだろ。
でも同時に二つの雑誌から批評を頂けたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。だけど内容はどっちも同じような事が書いてあって、まとめると「まだまだ未熟」との事でした。
結果はともかく無事原稿も戻ってきたし、三石と真野にも報告しとかないとな。
落選したとは言いにくいが、一応心配してくれていた二人には結果だけは言わないとさすがにまずいしね。
俺は翌日、二人に結果を報告した。すると、
「マジで! あんだけ騒いで落選かよ! マジウケる! あははっ!」
「何この批評。内容以前に絵が五段階評価中二って……漫画家目指す資格ないでしょ!」
真野に爆笑され、三石に漫画家になると言う俺の夢自体を否定されて俺はヘコみまくる。
だけど次の瞬間、思ってもみない言葉を頂いた。
「まぁ、次頑張ればいいしね」
「だね。でもまたバカ春夏の原稿失くされたりして、あははっ」
意外な言葉にキョトンとして黙っていると三石が聞いてくる。
「また出すんでしょ? それとも今回で諦める?」
「な、な、なんで! まだまだ出すよ! 諦めるわけないだろ!」
「うん、その意気だね」
「落選しても報告しろよ。また笑ってやるからバカ春夏、くくくっ」
「ら、落選しね~よ! ……多分」
優しい微笑みを浮かべる三石と意地悪に笑う真野。
「じゃ同好会始めよっか」
「は~い、夕実ちゃん」
そう言うと三石と真野はミーティングを始めた。
二人からの思いもしなかった温かい? 励ましを受けた俺は、胸が熱くなって自然と涙が溢れてきた。でも二人にバレると何を言われるか分からないから急いで涙を拭う。
やっぱり真野の言うとおり、三石は俺の事を応援してくれていたんだな……。
原稿の紛失は今までに経験はないが、落選した経験は何度もある。その度にもの凄くヘコんで、立ち直るのに数日以上かかっていた。返却された原稿を抱えながら泣いた事だってある。そうしてたくさん落ち込んで気持ちの整理つけて、また新しい作品に向かうのが今までの流れだった。
でも今回は違う。三石と真野が応援してくれた事で落選した苦しみとか辛さよりも、次頑張ろうと思う気持ちの方が圧倒的に勝っている。今すぐにでも新しい作品を描きたいぐらいだ。こんな風に思えるなんて二人のおかげだな。
最初は三石と真野の性格の悪さを知って出会った事すら後悔したが、今は二人の優しさが心にしみて出会えた事に感謝している。
同好会の事について話し合っている三石と真野を後ろから見つめながら、俺は二人に聞こえないように呟いた。
「ありがとうございました……」




