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活動について話し合う ~8~

 しかも真野達が言っていたセリフを言えだとぉ~! 恥ずかしいし言っても守れる自信がない誓いを言えるわけがない。

 だが頭ごなしに拒否っても無理やり言わされるだろうな。よってここは受け流すか。


「い、いや……言いたくても誓いの言葉分からないし。つ、次の機会までに覚えておくよ」

「こんだけ何度も何度も言っているのに覚えられないとは、お前は脳みそないのか! 仕方ないな。これをやるから見ていいぞ。でも今日一日で覚えろよ」


 そう言うと真野は一枚のメモを渡してきた。そのメモを見てみると、三石と真野がずっと叫んでいる藤咲麻衣批判の言葉が書いてあった。しかもかなり長いぞ。

 二人が今言っていた内容の倍以上はある。どれだけ藤咲麻衣に憎しみ抱いてるんだこいつ等……。


 こうなったら言わざる終えない状況だぞ。だって二人が俺を見る目は、「言うまで帰さん!」みたいな雰囲気で睨みつけてくるから。

 本当は言いたくないが、ここで言わないと何をされるか分からんのでしぶしぶ言う。


「……わ、我々……反藤咲麻衣ど、同盟は……」

「声が小さい!」


 バシッ! っと真野に頭を叩かれた。


「い、痛いな! 何するんだよ!」

「声が小さすぎて聞こえないんだよ! ちゃんと誓う気あるのかよ!」


 ないです……とは言えないので、「す、すいません」と小声で答える。

 それまで黙って俺と真野のやり取りを見ていた三石が、急に俺の右手を握ると上に持って行く。


「声が出ないのはポーズをしっかり取っていないからね。ほら、ちゃんと右手を上に突き出す。そして左手は腰に添えて足は肩幅に広げる!」


 三石は変なポーズを強引にさせようとするが、俺はやりたくないので必死で抵抗する。


「え、え? こんな恥ずかしいポーズできるわけないだろ! は、離せよ!」

「何が恥ずかしいのよ! これは反藤咲麻衣同盟の公式ポーズなの! しっかりやる!」


 バシバシッ! っと三石にも頭に叩かれた。

 それからしばらく反藤咲麻衣同盟公式ポーズの練習をさせられた。右手を上げて左手を腰に添え、足を肩幅に広げるだけの簡単なポーズなのですぐに終わると思いきや、一筋縄では行かなかった。


 俺としては三石と同じように動いているのだが、三石と真野から見たら全然違うみたいで何度も何度も注意してくる。しかも、「心の底から藤咲麻衣に憎しみ抱け!」「春夏は本当に反藤咲麻衣同盟に入りたいのか!」「お前からは全然藤咲麻衣を潰したいと言う思いが伝わってこないぞ!」などと藤咲麻衣に対する姿勢まで問われる始末。


 憎しみとか敵意なんて最初っからないっつ~の! と心で思いながらもそれらしく演技する。そんな事を十分近く続けていると俺の動きに納得いったのか、それとも飽きたのかは分からないがやっとOKが出た。


「では基本動作はこれでしっかり覚えたな。では次は声出しの練習だ!」


 今度は声出しの練習が始まった。ぜぇぜぇ息を切らしている俺をよそに、真野は楽しそうに大声で反藤咲麻衣同盟の誓いを叫ぶ。


「ま、マジかよ……。こっちは今のポーズの練習で息切れしてるのに……。今度は声出しの練習って、俺を殺す気かよ……」


 そう言って俺はその場にへたり込んだ。俺ははっきり言って体力に自信がない。高一の時にサッカー部を辞めたのだって運動神経がなったと言う理由以外に、体力が全然なくて練習についていけなかったと言う理由もある。


 そんな俺がただつっ立てるだけの簡単なポーズとは言え、十分もしていれば俺にとってはめちゃくちゃハードな運動になる。よって休憩なしでの声出し練習なんて自殺行為にも等しい危険な行為なのだ。


「何休んでいるんだ! 早く一緒に言うんだよ!」

「ま、待って……休まして……下さしゃい……」


 どんなに真野に急かされても俺の体は動きません。ぐったりしている俺にゆっくり近づいくる三石。そして俺の首根っこを掴むと強引に立たせて一喝。


「春夏、休むな! メモ見て一緒に叫ぶ!」

「は、はひぃ!」


 その勢いに思わず裏声で返事をしてしまった。は、恥ずかしい……。


「それじゃあ腹の底から声を出して……せ~の」


 三石の掛け声の下、三人で反藤咲麻衣同盟の誓いを叫ぶ。


「「「我々、反藤咲麻衣同盟は今後二度と藤咲麻衣の作品を、見たり聞いたり買ったりしない事をここに誓う! あのような声優を愚弄する者は絶対に許さない! 詳しく言えば我々、反藤咲麻衣同盟は藤咲麻衣のアメブリで書いているブログを一切見ない! 毎週金曜日夜九時から放送している藤咲麻衣出演のラジオも一切聞かない! 藤咲麻衣の今週出した写真集も断じて買わない&見ない! その写真集の発売を記念して今週やるサイン会にも絶対に行かない! 我々は藤咲麻衣を絶対に声優として認めない! もっと詳しく言うなれば、藤咲麻衣の出ているアニメを放送しているテレビ局自体一切見ない。藤咲麻衣が出演しているラジオ局自体一切聞かない。藤咲麻衣がイベントに出た会場にも絶対に行かない。もう藤咲麻衣が少しでも絡んだ場所や物は、一切排除する事をここに絶対的に誓う!」」」


 なげぇ~よ! メモ見た瞬間長いなとは思ったが、実際に声に出すと更に長く感じる。


「これで春夏も反藤咲麻衣同盟の一員ね。誓いはしっかり守るように、分かったわね」

「……は、はい」


 強引に反藤咲麻衣同盟に加入させられてしまった。俺が加入した事で満足したのか、三石の怒りは治まっていた。


「これでバカ春夏も反藤咲麻衣同盟になったんだから、二度と藤咲麻衣関連のグッズとか絶対に買うなよ。もし買ったら……殺すよ」


 そう言いながら真野は不気味な笑みを浮かべる。こいつなら本当にやりかねないぞ。


「わ、分かってますって……あははっ」


 俺は冷や汗を流しながら、真野の機嫌を損ねないように愛想笑いをして誤魔化した。


「じゃあ条件も全て言い終えた事だし、次はそれぞれの担当声優を発表します」


 どうやら「選りすぐりの売れてない声優」の条件と言うのは以上で全てのようだ。最後の方はただ藤咲麻衣の悪口を言っていただけのような気がするが……。

条件自体は納得いくものもあったが、まぁ全体的にまとめると無茶苦茶な条件です。

 ……って担当声優の発表って、もう決まってるのかよ!


「ちょっと待ってよ。俺が見る声優のブログって、自分で決められないのかよ」


 俺の言葉に再び三石のご機嫌が悪くなる。


「はぁ? 今条件聞いたばかりなのに自分で探して今日中に決められるの?」

「えっ? 今日中? そんなの無理に決まってるだろ……」

「だったら黙ってなさいよ! 本当に何もできないくせに口だけはうるさいわね!」

「すいません……」


 今日中に決めろとこれまた無理難題をおっしゃる三石さん。今さっき聞いた俺がその条件を踏まえてすぐに探せるわけないだろ。だが不平不満を言ったところで、その何倍もの言葉や暴力が俺にやってくるだけで言うだけ無駄だしな。


 この二人といると我慢強くなれる気がする。と言うか我慢せざる負えない。

 きっとこの苦痛は俺が立派な大人になる為に神様が与えたもうた試練なのだ。ここを乗り越えれば、俺には輝かしい未来が待っているに違いない。ってか待っていないと困る。


 そう自分を励まさないと、この現状を耐えていけない俺でした。


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