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活動について話し合う ~7~

 ちなみに三石の説明だけだとあまりにも藤咲が酷い女になってしまうので、俺から誤解がないように補足……と言うか事実だけ説明しておく。


 確かに三石の言うとおり、藤咲麻衣は元々アイドルとしてデビューしている。 でも一人ではなく三人組でデビューしたのだ。三人とも十一歳の小学生でしかも美少女であった為、デビュー時は各メディアにかなり取り上げられた。だが若くて見た目が良いだけで、歌はお世辞でも上手いと言えないレベル。それにメンバー全員がまだ若い事もあって仕事に対する考えなどが甘く、遅刻したりワガマ

マを言ってスタッフを困らせる事も多々あった。


 ファンに対してもイベントや仕事での交流に関しては笑顔で答えるものの、仕事以外の場では一切対応せず、出待ちをするファンには嫌悪感すら平然と表す事もあった。


 その結果人気も仕事も失っていき、気がつけばメディアの仕事は全てなくなった。ある仕事と言えば地方での小さなイベントのみ。そんな状況が仲の良かった彼女達の関係にまで悪影響を及ぼし、仕事以外ではまともに口すら利かなくなっていた。そして今後続けていっても人気の出るめども立たず、メンバー同士の関係も改善される事もないと判断した事務所側の判断で、結成わずか一年で解散となったのだ。


 藤咲以外のメンバーは解散と同時に芸能界を去ったが、藤咲だけは芸能活動を続けたいと事務所に残る。だが一度失敗しているだけに次はどうやって売り出すか事務所もかなり悩んでいたらしい。

 

 そんな時、事務所が新しく始めた声優部門で再スタートするのはどうかと社長が藤咲に進めた。元々アニメや声優好きの藤咲はその提案を喜んで受ける。そして声優になるべく必死に演技などを猛勉強して、晴れて声優として再スタートを切る事ができたのだ。


 今まで遊び感覚で仕事をしていたのを反省し、ファンに対しても心から接するようになるとアイドル時代が嘘のように人気が出だし、今や若手声優NO.1の人気を得るほどになったのだ。


 だが何故か声優になって三年後の今月、突如今月いっぱいで引退をすると発表。声優界のみならず芸能界全体に衝撃が走る事態となっている。


 ……とここまでが俺が知っている藤咲麻衣の客観的説明だ。細かいところでは多少違っている点もあるかもしれないが、それでも三石の説明よりかはマシだろう。

 

 怒り冷めやらずの三石に対してまともに話を聞く気のない俺は、、半ば呆れながら適当な感じで相手をする。


「まぁ~藤咲は確かにアイドルに失敗して声優になったかもしれないけどさ、それがなんで『声優を出世の道具にしてる』事になるんだ? て言うかそもそも藤咲はアニメ・声優好きだから、アイドル時代より生き生きしてて嬉しいんじゃない……」

「うっせ―――――――――――――――――!」

「あがしっ!」


 三石の声とともにグーパンが俺のおでこを襲う! 


「おで、おで、おでこをグーで殴るなよ……」

「春夏がアホみたいな事言ってるからだろ!」


 俺が藤咲を擁護するような発言をしたのがよっぽど気に入らなかったのか、三石は手まで出してきた。しかもよりによっておでこを殴るとは。生まれて初めておでこを殴られたので、直に脳に衝撃が伝わりめっちゃ痛い。


「なんでアホなんだよ! 間違ってないだろ!」

「間違っとるわ! アニメ・声優好きだと? 笑わせるな! そんなの後づけに決まってるでしょ! その証拠にあいつがアイドル時代にそんな話をしていた事ある? あぁ!」


 …………そう言われたら藤咲がアイドル時代に、アニメや声優好きと発言した事はないかもしれない。三石の言うとおり声優になってから言っているような気がする。


 考え込む俺を見て三石は勝ち誇ったように、


「私の言うとおりでしょ。あいつはアイドルとして人気になりたかった女よ。アイドルで失敗したから今は仕方なく声優をやってるだけ。人気出てアイドルとしてやっていけるめどがついたら、またアイドルに戻るに決まってる! 声優なんてあいつにとってはアイドルに返り咲く為の道具にすぎないのよ!」


 そう言う意味での道具かよ。三石の意図するところがようやく分かった。

 だが三石が何を言おうが、三石の勝手な思い込みによる作り話の範囲は抜け出せない。


 例え今の話が本当だとしても、藤咲麻衣となんの接点もない俺達には確かめようがないから。でも三石は自信満々に持論を展開しまくる。


「だからあの女は声優デビューしてわずか三年で声優を辞めるのよ! 人気を十分に得た今、あいつにとって声優でいる意味がなくなったのよ。今声優を引退して頃合いを見て再びアイドルとしてデビューする。そうすれば今いる自分のファンがアイドルになってもそのまま応援してくれる。そう考えてあの女は声優を辞めるのよ! あいつにとって声優なんてなんの思い入れもない、自分の人気を得る為の道具にすぎないのよ!」


 ……確かに心の底から声優になりたい人間なら、デビューして三年そこそこで引退などするわけがない。どんな理由があるにせよわずか三年で引退するとは、さほど声優に対して思い入れがないと言われても仕方がない気がする。


 しかも人気絶頂中だ。今後声優を辞めて何もしないとは思えないので、そう考えると三石の言葉も完全には否定できない。

 三石の話を聞いているうちに、段々と納得する自分がいる。


「ま、まぁ言われてみればそうかもな。人気ある今辞めるのはやっぱおかしいし、その先の事でも見据えての行動なのかもな」

「でしょ! 普通に考えたらアイドル返り咲きの為の引退よ。バカな春夏でもようやく理解できたようね。理解するのが遅過ぎたけどまぁいいわ」


 俺が賛同した事により、怒り狂っていた三石が少しだが落ち着いてきた。


「藤咲のように声優と言う仕事になんの憧れも思いもなく、ただ己の欲望を果たす為の道具に使おうとする奴は絶対に許してはいけない! このような考えで声優になった奴は論外で却下よ! 分かったわね!」

「あ、あぁ……分かったよ」


 完全に三石の話術にハマった感はあるが、この話題が終わるなら納得でもなんでもする。

 これ以上藤咲話を続けても、三石が怒鳴りまくって俺が理不尽に殴られるだけだしな。


「本当に分かったのかバカ春夏!」


 今までうなずきながら三石の話を黙って聞いていた真野が急に話しかけてきた。


「わ、分かったよ」

「なら証拠を見せろ」

「しょ、証拠?」

「夕実ちゃんと同意見なら今から僕がやる事をお前もやって見せろ!」


 そう言うと真野は右手を力強く握り上に突き出した。左手は腰を掴んでいる。

 なんのポーズしてんだ? って聞こうとした瞬間、真野は突然叫び出した。


「我々、反藤咲麻衣同盟は今後二度と藤咲麻衣の作品を、見たり聞いたり買ったりしない事をここに誓う! あのような声優を愚弄する者は絶対に許さない!」


 な、何これ? どこぞのデモかよ。

 鬼気迫る表情で叫び続ける真野を見て、あ然としていると三石が参戦してきた。


「「詳しく言えば我々、反藤咲麻衣同盟は藤咲麻衣のアメブリで書いているブログを一切見ない! 毎週金曜日夜九時から放送している藤咲麻衣出演のラジオも一切聞かない! 藤咲麻衣の今週出した写真集も断じて買わない&見ない! その写真集の発売を記念して今週やるサイン会にも絶対に行かない! 我々は藤咲麻衣を絶対に声優として認めない!」」


 嫌いな割には藤咲麻衣情報に詳しいな。ブログはほとんどの声優がアメブリで書いているから何かの偶然で知ったとしても、ラジオとか写真集とかって調べないと分からんだろ? しかもサイン会やる事まで知っているとは、本当に嫌いなのか疑わしい。


 それにしても二人して同じポーズで叫んでいる姿は、ふざけているのかと言いたいぐらいはたから見るともの凄く滑稽だ。でも声は間違いなく真剣です。

 同じ言葉を繰り返し叫んでいる二人を見て、呆気にとられていると真野が近づいてきた。


「何ボケっとしてんだよ。お前も一緒にやるんだよ!」

「えっ? や、やるって何を……」

「何って、反藤咲麻衣同盟の誓いを一緒に言うんだよ! ホラ早く!」


 反藤咲麻衣同盟でもない俺が、何故誓わないといけないのだ。そもそも反藤咲麻衣同盟って何よ?


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